INTERVIEW
ミツカン「ZENB」は現代の食意識を変える? 手探りで始めたD2Cが急成長するまで
長岡雅彦(株式会社ZENB JAPAN ZENB事業 マネージャー)

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2023.06.29

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シームレスな連携は「社内の認知」によるもの

HIP:会社として有していた技術の蓄積が、迅速な商品化にもつながっていると。

長岡:素早く商品化できたものもあれば、時間がかかったものもあります。ZENBヌードルは開発に3年弱かかっているのですが、そのうち1年以上は原料の検討に費やしました。

はじめは野菜だけでなく、穀物や豆も含めていろいろなものを試したり組み合わせたりするところからスタート。その結果、もっともおいしさと栄養価のバランスがよかった黄えんどう豆を選びました。

ただ、黄えんどう豆は北欧などでは古くから食べられてきているのですが、日本ではあまり馴染みがないため、あまり調達のルートがありませんでした。そこも新たに開拓していく必要がありましたね。

HIP:黄えんどう豆以外の野菜も、丸ごと使うとなると調達が困難になりますか?

長岡:そうですね。とうもろこしなども普通は芯を取った状態で流通しますので、丸ごと仕入れるのは逆に難しいんです。枝豆やえんどう豆、パプリカ、ビーツなどもそう。丸ごと仕入れるとなると、自分たちで調達のルートをつくっていく必要があります。当初は商品開発以前の、そうした原料を確保する部分に相当な時間とパワーがかかっていました。

HIP:開発から調達まで、グループの垣根なく進行できたのは、社内の事業に対する認知が大きかったことも影響しているのでしょうね。

長岡:ええ。グループ全体で非常に理解してもらっていたと感じていますし、背景にはこの事業に対する経営者・経営陣の理解と決断がありました。さらに、未来ビジョン宣言の意義があって、皆が前向きに協力してくれたと思っています。

また、こうした試行錯誤は、確実に今後の商品開発に生かされるはずです。ミツカンの知見の蓄積がZENBを前進させたように、ZENBでの経験がミツカン本体の事業にもフィードバックされることもあるでしょう。

現在、ZENBはミツカンブループ内の別会社として分社化されていますが、R&Dの部分は共有されており、これまでの研究成果はグループ全体のリソースとして積み重なっています。

D2Cを始めて感じたメリットは?

HIP:ミツカンの商品といえば調味料をはじめ、スーパーなどで販売されるものが主流ですが、ZENBはウェブ直販によるD2Cに特化しています。その狙いを教えてください。

長岡:もともとD2Cの事業ありきだったわけではなく、当初は通常のミツカン商品のように、スーパーやコンビニ、ドラッグストアなどで売っていくプランもありました。

しかし、このZENBというブランドを永続的に育てていくことを考えると、まずはブランドの理念や商品の価値をしっかりと伝え、それをご理解いただいた方々に販売していくことが望ましいのではないかと。

それならば、いきなりスーパーなどで広く販売していくのではなく、D2Cというかたちをとるべきだろうと考えました。また、あえて「ZENB JAPAN」という別会社にしたのも、通常のミツカン商品とは距離をとり、新しいブランドとして展開していくためです。

2023年3月にはZENBのECサイトのプラットフォームを活用したミツカン商品が購入できるサイトがオープンした(ウェブサイトはこちら

HIP:とはいえ、それまでミツカンにはD2Cの経験がありませんでした。かなり手探りの部分もあったのでは?

長岡:そうですね。生活者の方々に直接販売するための知見はまったくありませんでしたし、立ち上げたばかりのブランドで認知度がないなか、どう売っていけばいいのかわかりませんでした。そこで、外部から専門家や経験者を集め、システムやサプライチェーン・マネジメントもイチからつくりあげていきました。

そこは正直、かなり苦労したのですが、同時にD2Cならではの利点も初期の段階から感じていました。とくに、お客さまと直接つながれることは大きな利点です。

たとえば、商品のモニター調査なども、これまでは調査会社経由で人を集めて行なうことが多かったのですが、ZENBの場合はご購入いただいたお客さまに直接アプローチして、毎月のようにオンラインでインタビューをしています。これにより、スピーディーな商品やコミュニケーションの改善につなげることができています。

HIP:具体的な商品で改善に結びついた例があれば、教えてください。

長岡:ZENBスティックでは食感がザクザクしているので間食としては食べづらいといった声がありましたので、しっとりとした食感の「リッチテイスト」という商品を新たにつくりました。ZENBヌードルでは、ゆでたあとでくっつき、固まりやすいという声があったため、パッケージの裏面で、ゆでた後で水洗いするとよいということを訴求するように変更しましたね。

またZENBの商品を使ったメニューについても、生活者の方々の声を聞いています。それで評価の高いものは継続的に提案し、低いものは新しいメニューに差し替えています。

こうした実際にご利用いただく方の声を、スピーディーに、さまざまなレイヤーで商品へ反映させているのは、ZENBならではと思っています。

ブランドのさらなる認知拡大に向けて

HIP:では、別会社になったことでの利点はありますか?

長岡:意思決定が早くなったぶん、これまでのミツカンにはないスピード感で柔軟に動けるようになりました。この利点を活かし、商品開発も広告やそれ以外のお客様とのコミュニケーションの部分も、改善すべき部分はスピーディーに変えていくことを意識しています。

一方で、ZENBとしてミツカンとして守るべき根っこの部分を決して見失うことがないよう、時間をかけて社内に周知していくことも重要です。先ほども言いましたとおり、ZENBではブランド立ち上げから現在までの4年間で、数多くの新しい人材を外部から集めてきました。

このタイミングで改めて「未来ビジョン宣言」の基本理念に立ち返り、ミツカンやブランドとしての考え方を社内外に広げていければと考えています。

HIP:スタートから4年が経ちましたが、ZENBの現在地と今後についてもお聞かせください。

長岡:先ほど、最初から広く売っていくのではなく、まずはZENBの理念や商品の価値をしっかりと伝えていくところからスタートしたと申し上げましたが、そこから4年が経過し、ブランドの認知もようやく広がってきました。今は認知をさらに拡大しつつ、事業としてもスケールさせていくフェーズに入っています。

現状は、それこそモデルさんですとか、美容や健康への関心が高い方を中心にお買い求めいただいていますが、そうしたアーリーアダプターの口コミを活用しながらうまくPRして、より多くの生活者の方々へ商品を届けていきたいですね。

「食べ物を選ぶことは、未来を選ぶこと」

HIP:最後に、どう生活者へアプローチするかの方法を教えてください。

長岡:より多くの選択肢を提示することは、とても重要だと思います。つまり、健康的でおいしく、地球環境にもやさしい食品を世の中にもっと増やしていくことですね。私たちもZENBヌードルやZENBペースト以外に、カレーやスープといった商品を展開していますし、これからもラインナップを強化していきます。

また、さまざまな生活スタイルに対応していくことも重要です。世のなかには調理が苦にならない人もいれば、できる限り手間をかけたくない人もいます。食べる時間や場所も人それぞれです。たとえ忙しくても、不規則な生活でも食事くらいは健康的なチョイスができるよう、シーンを選ばず手軽に食べられる商品の開発を進めています。

HIP:そうやってZENBのようなブランドが日常に浸透していけば、食に対する人々の意識も変わっていくかもしれませんね。

長岡:私たちも、まさにそれを目指しています。食べることはお腹を満たすだけでなく、自身の健康や地球環境の保全といった「未来」にもつながっています。つまり、食べ物を選ぶことは、未来を選ぶことでもある。必ずしもZENBを選んでほしいというわけではなく、そうした考えが広く浸透し、毎回の食事を大事に考える人が増えていくことを望んでいます。

また、ZENBが大事にしている「素材を可能な限り丸ごと使う」という部分も、多くの人に伝わってほしいですね。自分で料理をする時も、皮や芯を捨てずに食べ切ることが当たり前になれば、家庭から出るゴミが確実に減り、私たちが目指す「人と社会と地球の健康」の実現に近づくはずですから。

ZENBというブランドが、人々の意識が良い方向に変わるきっかけになれば嬉しいですね。

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プロフィール

長岡雅彦(株式会社ZENB JAPAN ZENB事業 マネージャー)

1992年 株式会社中埜酢店(ミツカンの前身)入社。ミツカンではマーケティング部門で新規事業開発やブランドマネージャーを担当し、17年Nプロジェクト立ち上げと同時に参加。ZENBブランドの企画や商品開発に関わり、その後、PRやプロモーションを歴任、現在は商品企画を担当。

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