日本テレビの情報番組『SENSORS』が2023年、装いも新たに『Z STUDIO SENSORS』として再スタート。このリブートの背景には何があるのか。番組プロデューサーを務める井上統暉に、大企業内でイノベーションに取り組むためのヒントを聞いた。
目指すは「R&D」としてのテレビ番組
2014年から2018年にかけ、日本テレビで放映されていた“先進的”な番組がありました。毎週日曜深夜に放映されていた『SENSORS』。ゲストを招き“未来のエンタテインメント”を議論する番組で、ウェブメディアも絡めて多層的に紹介される先端テクノロジーに、刺激を受けたビジネスパーソンも多くいたでしょう。
この番組が、2023年から『Z STUDIO SENSORS』として再始動しています。
リブートされた『Z STUDIO SENSORS』の放送は深夜枠月1回。音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」の詩羽(うたは)をナビゲーターに迎え、これまでの『SENSORS』と同じく尖った話題を扱いつつも、より間口の広い番組へとアップデートされています。
『Z STUDIO SENSORS』が扱う話題は、Web3にはじまり縦型動画やウェブトゥーン(縦読みマンガ)、さらには生成AIから宇宙ビジネス、スマートシティまで幅広く、先端テクノロジーとわたしたちの生活を往復するようなセレクトが目を引きます。
この『SENSORS』ブランドのアップデートにはどのような背景があるのでしょう。30歳の若さでこの番組のプロデューサーのひとりとして舵取りを担う井上統暉にその背景を聞いたところ、「R&D(研究開発)としてのテレビ番組」という新たなテレビのあり方が見えてきました。
何をやろうとしているのか?
- HIP編集部
(以下、HIP) - かつて先端テクノロジーを議論する番組として人気だった『SENSORS』ですが、今回のリブートで番組名に「Z STUDIO」と冠がついたのはなぜなんでしょう?
- 井上統暉
(以下、井上) - この番組は『SENSORS』のリブートという位置づけであると同時に、2022年まで深夜枠で放送していた『Z STUDIO ひまつぶ荘』という番組の後継という要素もあるんです。『ひまつぶ荘』はZ世代のTikTokクリエイターの方々を集めて、彼らの創造性を番組で発揮してもらうという企画でした。
- HIP
- 『Z STUDIO SENSORS』は、番組全体に「Z世代的な感性の輪郭を描き出したい」というコンセプトがあるように感じましたが、そういう背景があったわけですね。井上さんがここにたどり着くまでのキャリアはどんなものだったのでしょう?
- 井上
- 入社した最初の数年は、『ヒルナンデス!』『人生が変わる1分間の深イイ話』といった情報バラエティを制作する部署にいました。が、いざ仕事を離れると、自分自身、YouTubeばかりを見ていることに気づいてしまったんです。「これから人びとに影響力を与えるメディアは変わってくるだろう」と思い、異動願いを出しました。ICT(情報通信技術)の事業部署に移らせてもらい、さらにいまは編成部のメディア開発部門にいます。
- HIP
- 一般的な「テレビ局の編成部」のイメージは「番組表を編成する部署」。制作には直接関わらないイメージがありますが、日本テレビの場合、そうではないのですね。
- 井上
- ぼくのいる部署はいわば新規事業開発部で、これまでのテレビ番組制作とは異なるかたちで収益を上げるビジネスを模索しています。
そもそも日本テレビには、エンタメコンテンツとは直接関係のない新規事業開発部──ファッション事業やサービス事業などが存在しています。一方、「新規事業開発」とお題目こそ同じですが、ぼくたちの役割は、テレビ局の本業であるコンテンツやエンタメに絡んだ新しいビジネスを創出することです。そのために必要ならば、番組制作にも携わります。
- HIP
- エンタメと掛け合わせた新規ビジネスでいえば、最近TikTokで人気の縦型ショートドラマシリーズ『毎日はにかむ僕たちは。(略称まいはに)』は、日本テレビが制作していますよね。
- 井上
- ぼく自身は『まいはに』に直接関わっていませんが、同じ部署のメンバーが同じ精神でつくっています。『まいはに』は『Z STUDIO SENSORS』でも取り上げましたが、ショートドラマクリエイターチームとしてもっとも注目されている「ごっこ倶楽部」とコラボして制作しているんですよね。そういった自社の新しい取り組みを紹介する役割も、『Z STUDIO SENSORS』は担っています。