富士ゼロ、ANA総研。大企業が集うイノベーションコミュニティー運営の秘訣
花田光世(一般財団法人SFCフォーラム代表理事 / 慶應義塾大学名誉教授)
2019.01.10

個人の自発性をなおざりに、企業の視点からイノベーション創出を標榜してもうまくいかない。

HIP:近年、多くの日本企業がイノベーション創出に取り組んでいますが、さまざまな課題からうまくいかない現状があるといわれます。協議会の運営や企業の人材育成、活動の実践に関わられている花田さんの視点から、その大きな壁になっているものは何だと思われますか?

花田:個人の自発性や主体性をなおざりにしたまま、企業の視点からイノベーション創出を標榜するだけではうまくいかないと思います。

組織視点から見たVHP活動のメリットには色々ありますよね。新しいサービスや商品などを次々と生み出すイノベーションの土壌づくりはその代表例だと思います。でも、個人視点のメリットにもっと目を向けていただきたいと思います。

個々人が互いに自発的に活動することから、自発性を磨くとともに、相互の啓発・支援が育まれ、個人だけではなしとげることができなかった価値創造が生まれます。それを通じて個々人がさらに成長し、働きがいを実感できるようになると考えています。

花田:最近は社員の評価制度としても、企業側の期待に対する達成度で社員をランクづけする従来の制度ではなく、個々人が伸ばしたい能力に沿った目標を設定し、その達成を組織がしっかりと後押しして評価する「パフォーマンスデベロプメント」という手法が普及してきています。まずは個々人が、自分の興味・関心を持つ活動領域で、自ら積極的に自分の能力の拡大のために努力し、企業はそれを支援する。その結果として組織の目標を達成していこうという考え方です。

ここ数年、グーグルやアドビ システムズ、グーグルやギャップといった企業、さらには目標管理制度を従来重視してきたゼネラル・エレクトリック・カンパニーが方針を変え、一人ひとりの社員の自主性・成長を重視するパフォーマンスデベロプメントの制度の導入に踏み出しています。アジアの企業では台湾のトレンドマイクロなどもこの動きに積極的です。

これからは、個人が能動的、主体的に、自らにとって必要な能力を見極め、獲得していかなければならない時代。もはや組織視点でスキルを叩き込む「教育」だけでは成り立たないのです。

本質的に「自分はなぜ働くのか」「本当に大切にしたいことは何か」考えてみてほしい。

HIP:個人にとっては、それぞれの志向に沿った働き方が選べる反面、これまでのように企業に任せていればいいというわけにはいかない、難しい時代になってきているということですね。

花田:そのとおりです。2015年にオックスフォード大学のオズボーン先生と野村総合研究所が発表した研究によると、2030年頃には、現在の日本の労働者の49%が就業している職業は、AIやIoTなどの技術の進歩によってなくなっていくと予測されています。つまり、半数の人が仕事を乗り換えなければならない。

そういう時代に向けて、個々人が当事者意識をきちんと持たないといけません。年金の受給開始年齢は上がり、受け取れる額は下がり、これまでのように60歳で定年退職というわけにはいかないでしょう。多くの人が、75歳や80歳近くまで働くことになるのではないでしょうか。それだけ長く働くにあたって、仕事に対するモチベーションを保てるかどうか、本当の意味での価値を見出せるかどうかが、ますます大切になってきます。

HIP:自分の仕事に価値を見出せるか……あらためて問われると背筋が伸びますね。

花田:普段働くなかでは、あまり考えないことかもしれません。転職するときに何を聞かれるかといえば、職歴や得意な仕事内容、実績など、身につけているスキルや知識がほとんどだと思います。

でもたとえば、自分が卒業した中学校に行って、総合学習の「働くとは」の授業で講師をするとしたら。中学生相手に、自分のスキルや知識を説明しても理解されませんよね。それより、「自分はこんなことを大切にして働いている」「こんなことにやりがいを感じている」……そんな話をするのではないでしょうか。

HIP:たしかにそうかもしれません。

花田:変化の速い現代において、スキルや知識の価値はすぐに移りゆく。それよりも、もっと本質的に「自分はなぜ働くのか」「自分が働くうえで本当に大切にしたいことは何か」を、自ら意識して考えてみてほしいんです。自分が「価値がある」と思うことに対して、VHPのような活動を通じて、座学ではなく実践的に取り組む経験は、自分の仕事観をあらためて見つめ直す機会につながります。

VHPをイノベーション創出のための機能として捉えると、個々のプロジェクトは必ず成功させなければなりませんが、社員にとっての成長の機会と捉えれば、必ずしも結果が成功である必要はない。過程で得たものが、将来のキャリアや活動につながれば、それこそが非常に意義のあることです。またそのように自律的な活動に励み、相互啓発に努力した社員からこそ、イノベーティブな思想が生まれると私は思います。

フリーランスやベンチャー企業、中小企業と、より多面的なコミュニティーを形成していく可能性も。

HIP:忙しさのなかで、日々、与えられた仕事をこなすので手一杯になってしまうことは誰しもあると思います。あらためて考えさせられるお話でした。

花田:会社員にとっては、良い上司や同僚に恵まれ、興味のある仕事を与えられて、働きに見合った給与を得られれば、それに越したことはありません。でもたとえば、上司の理解を得られず、与えられた仕事に興味がわかない、同僚同士は無関心か足の引っ張り合い——そんな状況のときこそ、キャリアを長い目で見たときに、自分が本当の意味で仕事に求めるものは何かを考えてほしいと思います。

HIP:個々人の心構えに加え、VHPのようなイノベーション創出を促進する制度をつくるうえで、企業側が気をつけるべきポイントは何でしょうか?

花田:組織の視点から見た人事や教育活動の一環として位置づけないことだと思います。階層別の教育や、業務スキルの向上といった従来の内容に落とし込まれてしまうことのないよう、組織の枠組みからは少し離れた活動を担保する仕組みをつくること。そして人事や教育部門と協業はしても、コントロールはされない関係をつくることが大切です。

HIP:今後、バーチャルハリウッド協議会はどのような活動をしていくのでしょうか?

花田:これまでの活動は比較的、大企業内でのイノベーション創出のための取り組みや教育制度の延長といった意味合いが濃かったといえます。しかし今後、政府による働き方改革が推し進められ、ますます多様な働き方が出てくることを考えると、たとえばフリーランスの方々や、ベンチャー企業、中小企業とのネットワークもつくりながら、より多面的なコミュニティーを形成していく可能性もあると思います。

これからも、変化し成長する組織のあり方や、イキイキと自分らしさや特技を発揮して働きがいを実践できるような事例づくり、プラットフォームづくりができれればと考えています。

Profile

プロフィール

花田光世(一般財団法人SFCフォーラム代表理事 / 慶應義塾大学名誉教授)

南カリフォルニア大学Ph.D.-Distinction(組織社会学)。産業能率大学教授、同大学国際経営研究所所長を経て、1990年より慶應義塾大学総合政策学部教授、現在同大学名誉教授。日本企業の組織・人事・教育の問題を研究調査、経営指導する組織調査研究所を主宰。産業組織心理学会理事、アウトソーシング協議会会長をはじめとする公的な活動に加えて、企業の社外取締役、経営諮問委員会、報酬委員会などの民間企業に対する活動にも従事。現在は、キャリア・リソース・ラボの活動に加え、一般財団法人SFCフォーラム代表理事として活動。

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