富士ゼロ、ANA総研。大企業が集うイノベーションコミュニティー運営の秘訣
花田光世(一般財団法人SFCフォーラム代表理事 / 慶應義塾大学名誉教授)
2019.01.10

いまでこそ当たり前のように行われているオープンイノベーション。富士ゼロックス株式会社(以下、富士ゼロックス)では、その言葉がまだ世の中に浸透する前の1999年から、率先して社内外の人たちとともに新たな価値創造に取り組んでいる。「Virtual HollywoodⓇ Platform(以下、VHP)」というプログラムのもと、新規ビジネス創出や社会課題解決などへの想いを持つ社員が、自ら手を上げて具現化に向け実践する場を設ける。

2006年には、VHP活動を富士ゼロックス社外へと広め、企業間シナジーを生むための組織「バーチャルハリウッド協議会」が発足。現在、株式会社ANA総合研究所(以下、ANA)や株式会社NTTデータ(以下、NTTデータ)、三菱重工株式会社など名だたる大企業16社が参加し、互いに学び合いながら活動している。

このバーチャルハリウッド協議会の立ち上げメンバーであり、現在は副会長として運営に携わるのが、慶應義塾大学名誉教授の花田光世氏だ。人材開発やキャリアの領域の研究者として、企業の人事・教育制度づくり、社員のキャリア支援プログラムづくりなどに積極的に関わる花田氏は、VHPについて「イノベーション創出を促す仕組みであると同時に、多様な生き方、働き方を実現する機会でもある」という。これからの時代の「組織と個人の理想的な関係」、そしてVHPがいかにそれを実現するかについて聞いた。


取材・文:村上広大 写真:金壮龍

社員同士の自発的な活動を、経営課題の解決に活かす。VHPはこの考え方に基づいてつくられた。

HIP編集部(以下、HIP):花田さんは、富士ゼロックス社内におけるVHP制度づくりのお手伝いに関わられてきたそうですね。

花田光世氏(以下、花田):もともと私は、富士ゼロックスが1988年から取り組んでいる「ニューワークウエイ」という経営刷新運動に協力していました。社員の個を尊重し、多様な生き方、働き方を支援するための取り組みで、この運動から育児休職制度やボランティア休暇・休職制度、家族介護休職制度など、新たな制度が生まれました。その延長で、働き方の新たな枠組みであるVHPの制度をつくるお手伝いをすることになったのです。

花田光世氏

HIP:イノベーションの創出というより、「働き方」の文脈から生まれた制度だったのですね。

花田:VHPの設立にあたり参考にしたのが、1990年代初頭あたりから、アメリカのゼロックスコーポレーションの研究者が提唱した「コミュニティー・オブ・プラクティス(実践コミュニティー)」です。組織内の所属を越え、あるテーマに対して関心や問題意識を持ったメンバーが集まり、その分野の知識や技術を自発的に身につけていく。そうした活動を企業内に取り入れ、経営課題の解決に活かしていこうとする考え方です。

これを参考につくられたVHPの特徴は、企業が打ち出した指針に沿って社員が活動するのではなく、社員一人ひとりが自発的に手を挙げ、自分の興味のあるテーマに取り組めること。VHP活動を裏方でサポートする事務局はありますが、積極的に介入はせず、あくまでメンバーの自主性に任せます。

「バーチャルハリウッド」という名称の由来は、この考え方がハリウッドでの映画制作の仕組みに似ているのではないか、ということからきています。ハリウッドではプロデューサーや監督が「こういう映画をつくりたい」と口火を切り、その趣旨に賛同したスタッフが、自らの意志でチームに加わる。VHPでもこのような仕組みで、日々新しいプロジェクトが生まれています。

ANAの「アバター事業」は、既存事業とのしがらみから自由なVHPだからこそ生まれた。

HIP:現在16社が参加するイノベーションコミュニティー「バーチャルハリウッド協議会」はどのように誕生したのでしょうか?

花田:VHP活動が富士ゼロックス社外に広がるきっかけになったのは、ANAの社内誌『ていくおふ』でVHPの取り組みを紹介させていただいたことでした。それを読んだANAの教育担当者から「ぜひANAでもVHP活動を行いたい」と連絡があったのです。同時期に、私がVHPについてまとめたエッセーをNTTデータの方がご覧になり、興味を持ってくださいました。そこでこの三社を中核として、バーチャルハリウッド協議会を発足する運びとなったのです。

その後は活動の評判が少しずつ広まり、新しい働き方に興味を持たれた企業が参加されて、活動が拡がっていきました。協議会ではそれぞれの企業内の取り組みを紹介し合うのみにとどまらず、共同で勉強会やワークショップを行って、異業種間で学び合い、イノベーションのヒントを得ています。

HIP:これまでの活動のなかで、特に花田さんの印象に残っている事例はありますか。

花田:VHP活動のメリットは、企業が想定していなかった、従来の発想とは異なる新しいプロジェクトが生まれうることにあると思います。その意味で、最近の活動のなかで強く印象に残っているのが、ANAのVHPから始まった「アバター事業化プロジェクト」。VRやセンサー、ロボティクスなどの技術を統合し、遠隔地から操作できる自分の分身「アバター」をつくって実用化することを目指しているものです。

航空会社の生業は、ある地点から別の地点へと人や物を運搬することですよね。自分のいまいる場所に留まりながら、遠く離れた場所のできごとを体験できる「アバター」は、ややもすれば自社の存在否定にもつながりかねません。普通なら、既存事業とのしがらみも生じるでしょう。そうした問題に直面することなく、組織から独立したチームとしてプロジェクトを実行できるのがVHPの強みだといえます。

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「イノベーション創出のためには、社員個人の自発性を重んじるべき」。花田氏がそう語る理由は?

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