INTERVIEW
東京から世界にイノベーションを起こすには?産学官連携で実現したい未来
小池百合子(東京都知事)/ 梅澤高明(CIC Japan 会長)

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2020.11.26

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東京都は2020年1月に「スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム」を設立した。文字通り、東京のスタートアップと、大企業や中小企業、大学・研究機関、行政機関などをつなぐエコシステムの形成が目的。今後は、産学官によるスタートアップの創出や成長促進につながる取り組みを行なっていくという。

また、今年10月に日本最大級のスタートアップ集積拠点「CIC Tokyo」が設立されたことも重なり、ますます東京発のイノベーティブな取り組みは活発になるだろう。

今回お招きしたのは、小池百合子 東京都知事と「CIC Tokyo」の設立責任者である梅澤高明氏。行政と民間の立場の異なる両者は、東京都におけるイノベーションの重要性をどのように捉えているのだろうか? 東京都とCIC Tokyoが担う、多様なビジネスを創出するための仕組みづくりをうかがった。


取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太

(※本取材はマスク着用のうえ、短時間で行うなど感染拡大防止策を講じて実施しています)

スタートアップの躍動が、東京の活力を生み出す

HIP編集部(以下、HIP):世界最大級のイノベーションコミュニティー「CIC」が、アジア初の拠点として東京・虎ノ門に「CIC Tokyo」を立ち上げました。どのような場になるのでしょうか。

梅澤高明氏(以下、梅澤):最大250社を収容できるオフィスとコワーキングスペースを備えた、スタートアップ向けのイノベーションハブです。

CIC Tokyoの目的は、多様なスタートアップとさまざまな人たちが出会う機会を提供すること。イノベーティブなアイデアは、あらゆる知識や情報の結びつきによって生まれるものなので、スタートアップだけでなく、大企業や官公庁とのネットワークも拡大しています。このコミュニティーから、いくつもの「新結合」が生まれることで、グローバルなビジネスを創出することが狙いです。

また、CICは世界9か所に拠点があり、気軽に海外の企業とオンラインでやりとりすることも可能です。CIC Tokyoを拠点に、日本の有望なスタートアップが世界市場を対象にして、一気に成長していくことも夢ではないと思っています。

CIC Japan 会長の梅澤高明氏

HIP:スタートアップの成長を加速させるためのコミュニティーということですが、こうした場を「東京」に開く狙いについてお聞かせください。

梅澤:米中の経済戦争や新型コロナウイルスの影響もあり、世界の地政学的な変化が加速しているいま、イノベーションの勢力図もますます流動化していくでしょう。人や企業の動きは加速するでしょうし、日本は産業競争力をさらに向上させていかなければならない。

そのためには大企業だけではなく、スタートアップやアカデミア、行政などがタッグを組んで、総力戦でイノベーションの創出に挑むことが重要です。そう考えると、多くの起業家、大企業、研究者、投資家、行政機関などが集う日本の首都「東京」にCICの拠点を設立するのは自然な流れでした。

2020年10月1日に開催されたCIC Tokyoのオープンイベントの様子。左から、梅澤高明氏と小池都知事(画像提供:CIC Tokyo)

HIP:東京から生まれるスタートアップに期待することについて、小池都知事におうかがいしたいです。

小池百合子 氏(以下、小池都知事):先日、CIC Tokyoのオープニングイベントにお招きいただき、施設を拝見いたしましたが、あのようなコミュニティーの場で異業種の人々がともに刺激し合い、それが東京の新しいエネルギーにつながっていくことを期待しています。

どんな有名企業も、最初はスタートアップでしたし、松下幸之助さんやエジソンでさえ、最初は数人、あるいは一人で始めています。そうしたスタートアップがジャンプアップしていくためには、最初のひと押しを手助けしてくれる環境が必要だと思います。都としても、その役割を担うべく、エコシステムの構築を促進していきます。

小池百合子 東京都知事

CICが都の施策に与える影響は? 強固なスタートアップ・エコシステムの形成

HIP:東京都は、スタートアップの成長と創出の促進を目的に活動する「スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム」を2020年1月に設立しました。その目的もCIC Tokyoに通じる部分がありそうです。

小池都知事:まさに、産学官の多様なプレイヤーが有機的に交わって影響し合い、イノベーションを後押しするために設立されたのが「スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム」です。

2020年7月には、内閣府や各省庁による世界と渡り合える日本の「スタートアップ・エコシステム拠点都市」に東京都が選定されました。これらを追い風として、東京の強みであるヒト、モノ、カネ、情報が集積するファクターをより深め、広げていきたいと考えています。

HIP:実際にCIC Tokyoでも、こちらの東京コンソーシアムと連携していくとうかがいました。具体的に、どんな取り組みを考えていますか?

梅澤:私たちとしては、この「スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム」の活動のお役に立てることは、全部やらせていただこうと思っています。具体的にCIC Tokyoが提供できるものは場とコミュニティーです。

東京都では今後、さまざまなテーマでスタートアップの支援策を議論し、施策を検討されていくと思うので、そこに最適な起業家を紹介したり、マッチしそうなコミュニティーをつないだりすることでお役に立てるのではないかと考えています。

そして、そのなかから新しいスタートアップの芽が生まれ、結果的にCIC Tokyoの新しいクライアントになっていく。そんな大きな循環を生んでいけたら良いですね。

第4次産業革命におけるイノベーションのカギは? CIC Tokyoが虎ノ門を選んだ理由

HIP:CIC Tokyoと東京都や行政とのコラボレーションによって、具体的にどのようなことが可能になりそうでしょうか?

梅澤:やはり、スタートアップを支えるさまざまな「つながり」をつくっていきたいです。とくに、第4次産業革命と位置づけられるIoTのビジネスモデルをつくろうとした場合、スタートアップとベンチャーキャピタルだけではなかなか立ち行きません。

たとえば、都市にセンサー内蔵のデバイスを大量に設置して、そこからデータを集めて解析するシステムが必要だとします。その場合、大量のデバイスを配布できるインフラと体力を持った大企業との協業が不可欠ですし、そもそも法律などのレギュレーションを変える必要がある場合は、行政と密接なすり合わせを行わなければならない。

イノベーションのきっかけを生み出すためだけでなく、その実現のためにも、スタートアップとさまざまなセクターをつなげる場や機能が欠かせないわけです。CIC Tokyoは、そのわかりやすいフラッグシップとして、スタートアップと投資家だけではなく、行政、アカデミア、大企業の人たちが日常的に交差するような場をつくっていきたいと考えています。

CIC Tokyoの広々としたコワーキングスペース(画像提供:CIC Tokyo)
CIC Tokyoの通路にある、ちょっとしたブレストも可能なスペース(画像提供:CIC Tokyo)

HIP:その意味では、大企業が多く集まる虎ノ門にCIC Tokyoを設立したのは立地面でも優位性がありますね。

梅澤:そうですね。虎ノ門は世界のゲートウェイになる可能性を秘めた街だと思います。大企業が多い丸の内や大手町周辺にもアクセスが良く、中央省庁がある霞ヶ関にも近い。ぜひ東京都の行政の方にも定期的に出入りしていただき、日常的に意見や議論を交わせたら嬉しいです。

HIP:小池都知事は東京都とCIC Tokyoが連携することで、どんな効果を期待していますか?

小池都知事:企業に限らず、さまざまな人を巻き込みながら東京のイノベーションを活性化していけたら良いですね。たとえば東京には巧みな技術を持つ、ものづくりの職人がたくさんいます。しかし、後継者不足や、今回のコロナ禍によってサプライチェーンが機能しなくなり、多くの方が苦しんでいる。

そうした熟練の技術とスタートアップの斬新なアイデアなどを組み合わせることも、CIC Tokyoのような場所を通じて可能になるかもしれません。技を生かすことにもつながりますし、こうした出会いが東京を発展させるイノベーションを生んでくれるのではないでしょうか。

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