INTERVIEW
TechShop Japan有坂庄一×ライゾマティクス齋藤精一 都会にできた巨大な工房は人々をどう変える?
有坂庄一(TechShop Japan代表取締役社長) / 齋藤精一(ライゾマティクス代表取締役社長)

INFORMATION

2016.04.18

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メーカーはこれまで自前主義で、なんでも自分たちだけでやろうしてしまっていましたが、これからの時代は共創をしていく必要があります(有坂)

HIP:TechShop Tokyoを立ち上げることで、富士通という会社自体にも変化がもたらされそうですね。

有坂:そう思います。メーカーはこれまで自前主義で、なんでも自分たちだけでやろうしてしまっていましたが、これからの時代は共創をしていく必要があります。TechShop Tokyoのような場に、富士通の社員だけではなくいろんな企業の方に訪れていただき、多様な人が交わる中で新たなものが生まれたらと思います。

HIP:いろいろな人に訪れてもらうには、場所選びは悩まれたのではないかと思います。アークヒルズを選ばれた理由は何だったんでしょうか?

有坂:なかなか適したスペースが見つからなくて、50件以上足を運びました。郊外ではだめで、TechShop Tokyoに来ることを目的にしてわざわざ足を運ぶという状態ではなく、たまたま通りかかるような場所に作る必要があった。アイデアを持った人にどれだけ集まっていただけるかが大事だと考えていました。

HIP:六本木や赤坂はIT企業や広告・クリエイティブ系企業も密集していますし、アイデアを持つ人は特に多そうなエリアですよね。

有坂:「工房が街のど真ん中にある」という状況を作るとき、街にとって異物のような存在になるわけにはいきません。街に溶け込むことが大事だと考えている、クリエイティビティを大切にした街作りを行っている森ビルさんといっしょにやっていくのはイメージが湧きやすかったんです。

齋藤:今は重厚なビジネス街の雰囲気ですが、例えば材木を持ってアークヒルズのエスカレーターを登っていく人が増えていったら、「一体あれは何だ?」と話題になりますよね。街を変えていくのにはそういう風景が大事だと思うし、想像するとわくわくします。Appleのジーニアスバーみたいに、わからない人が駆け込む「もの作りのジーニアスバー」のような存在になったらいいですよね。

HIP:TechShop Tokyoのような場所が街中に生まれることで、街にどのような影響が与えられると思いますか?

齋藤:「想像したものを自分の手で作り出す」ということを、テクノロジーによって誰もが簡単に行うことができる。こういう場所が一つの拠点になると思っています。個人的に、この先10年はテクノロジーと街作りに力を入れて活動していきたいと思っていて。僕らが街作りに関わると、いつも魔法使いのように見られているんですよね(笑)。大体、みなさんが想像するのは、大きな3Dパネルを使ったかっこいい映像だったりして。でも、長い目で見ていくと、街作りで大事なのは「人」なんです。テクノロジーの発達によって、これまで半径2kmの人にしか届かなかったことが、無限大に届けられるようになった。そうしたことを踏まえ、街にいる人たちがどうマインドチェンジし、どう行動すると街が活性化するのか考えていくことが必要だと思っています。

新しいことに挑戦するときは、やりながら方法やルールを見出していくしかない(齋藤)

HIP:齋藤さんはライゾマティクスで様々な実験的なプロジェクトを行っていらっしゃいますが、新しいことに挑戦するときにはどのようなことを大切にされているのでしょうか?

齋藤:やってみないとわからないこともありますし、失敗してもしょうがない部分もある。これは事業ももの作りも同じだと思うんです。新しいことに挑戦するときは、やりながら方法やルールを見出していくしかない。こうした考え方はアメリカだと普通なことですが、日本ではあまり一般的ではないですね。

有坂:クリエイティビティと安全のバランスをとるのは難しいですからね。日本は監督責任に寄っていて、アメリカは自己責任に寄っている。

齋藤:アメリカにはDIY文化がありますが、日本はまだその文化が弱いですよね。「家は住宅メーカーが作っていて保証がついているもの」とまずは考えるから、ドリルで穴を開けたり壁にペンキを塗るというマインド自体を持っていない。こうした場所で、東京の都心でも簡単にものを作れるんだと気づくことがまずは必要だと思います。一度気づいてしまえば、オセロのように変化すると思いますね。

HIP:先ほどクリエイティビティと安全のバランスという話がありましたが、新しいことに挑戦していくときのリスクはどのように乗り越えていけば良いでしょうか?

齋藤:「わからないものはわからない」と周りに伝えることが必要ですよね。「危ないからここは見ておくけど、やってみな」という兄貴的な存在は、新しいことを始めるときにはすごく大事だと思います。安全性ももちろん大事ですが、尺度を持って悪ふざけができるかどうかかと。

有坂:TechShopにも設備の使い方を説明したり、アイデアの実現方法を一緒に考える「ドリームコンサルタント」というスタッフが常に何人かフロアにいるようになっています。その上で、できるだけルールや張り紙などは設けないようにしたいと思っています。「危険があるんじゃないか」という声もありますが、禁止や制限ばかりでは新しいことが生まれませんから。

イノベーションを生むことを先に考えるのではなく、まずは来た人同士が友達になることが大事だと思っています(有坂)

HIP:TechShop Tokyoでは、場所と機材の提供だけでなく、アイデアを形にすることを促すために様々な企画を行っていくそうですね。

有坂:アメリカのTechShopはコミュニティーを運営するために様々な工夫をこらしており、それがマニュアルにまとまっています。セミナーやワークショップに加えて、ドリームコンサルタントによる会員同士のマッチングも行っているんです。日本でもゆくゆくはこうした仕掛けで交流を促していきたいですね。

HIP:新たなイノベーションも生まれていきそうですね。

有坂:イノベーションを生むことを先に考えるのではなく、まずは来た人同士が友達になることが大事だと思っています。自分にないアイデアを持っている人と出会って、その人のアイデアを自分のアイデアに取り入れて、新しいものを生み出していく。これがイノベーションだと思うので、まずは出会うところから始めていきたいと思っています。

齋藤:最近、現場でマグライト(懐中電灯)の蓋が開かなくなって、周りにいた人に「これ、開かなくなっちゃったんだけど……」と何気なく聞いてみたんです。そのときに、いままで話したことがなかった人たちと初めて話すことができて。腕力でいく人もいるし、頭脳戦でいく人もいて、そういうときに人のタイプが見えてくるものなんですよね。初心者だから機械を使ってみるのは恥ずかしいという人もいるかもしれないですが、必ず助けてくれる人がいるし、人に頼むことで新たな交流が生まれますから。実はまだその蓋が開いていないので、今度TechShop Tokyoに持ってきてみてもいいですか?(笑)

有坂:ぜひ、持ってきてください!(笑)

Profile

プロフィール

有坂庄一(TechShop Japan代表取締役社長)

成蹊大学法学部法律学科卒。1998年富士通株式会社に入社、ICTシステムの海外向けマーケティングを担当。2015年10月TechShop Japan株式会社代表取締役社長に就任。2016年4月に東京港区でDIY工房『TechShop Tokyo』をオープン予定。

齋藤精一(ライゾマティクス代表取締役社長)

1975年神奈川県生まれ。ライゾマティクス代表取締役/クリエイティヴ&テクニカル・ディレクター。 建築デザインをコロンビア大学(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。その後 ArnellGroup にてクリエイティヴとして活動し、03年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。アート制作活動と同時にフリーランスのクリエイティヴとして活動後、06年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考をもとに、アートやコマーシャルの領域で立体作品やインタラクティヴ作品を制作する。09年〜13年に、国内外の広告賞にて多数受賞。現在、東京理科大学理工学部建築学科非常勤講師も務める。2015年、アート作品からコミュニティ形成を考えるまちづくりや施設開発等幅広く手がける部門「Rhizomatiks Architecture」を設立。

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