INTERVIEW
TechShop Japan有坂庄一×ライゾマティクス齋藤精一 都会にできた巨大な工房は人々をどう変える?
有坂庄一(TechShop Japan代表取締役社長) / 齋藤精一(ライゾマティクス代表取締役社長)

INFORMATION

2016.04.18

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2016年、赤坂のアークヒルズに新たなもの作りスペースが誕生した。会員制オープンアクセス型DIY工房を展開する米TechShopのアジア第1号店「TechShop Tokyo」だ。3Dプリンターやレーザーカッターといった機器はもちろん、テキスタイル用の高性能ミシンから木工用、金属加工用の機材まで幅広く揃えられており、広大なワークスペースも用意されている。場所と機材の提供だけでなく、会員同士の共創によるビジネス化、地域コミュニティーを巻き込んだオープンなエコシステムの形成を目指しているという。

中を歩いて回るだけで「何かを作ってみたい」と刺激されるこの空間は、富士通の100%子会社として米TechShop, Inc.の支援を受けて設立されたTechShop Japanが運営する。「TechShop Tokyo」の出現が、日本のビジネスやクリエイティブシーンに与える影響はどのようなものになるのだろうか? TechShop Japan代表取締役社長の有坂庄一氏と、最先端のテクノロジーを駆使したクリエイティブを手がけるライゾマティクス代表取締役社長の齋藤精一氏のお二人にお話を伺った。

取材・文:HIP編集部 写真:豊島望

アイデアは持っているけれど作ってこなかった人にもムーブメントを広げていきたい(有坂)

HIP編集部(以下、HIP):齋藤さんは今日初めて「TechShop Tokyo」をご覧になっていかがでしたか?

齋藤精一氏(以下、齋藤):これだけの施設が東京のど真ん中に誕生し、いつでも自分たちで作れる環境があるというのは素晴らしいことですよね。これまでは3Dプリンターを使ってモックアップを作り、その後外部に発注するということが多かったけれど、TechShop Tokyoは木工や金属加工用の機材もあるから、すべて自分たちの手で作ることができる。「作れるのに、作っていない」という外注体質のマインドを、僕たちから変えていかなければと思いました。

有坂庄一氏(以下、有坂):ありがとうございます。TechShop Tokyoは齋藤さんのようなクリエイターはもちろん、もの作りの経験がないビギナーの方でも気軽に来ていただけるように、アイデアを生み出すワークショップやデザイン講習なども実施する予定なんです。

左から、齋藤精一氏(ライゾマティクス)、有坂庄一(TechShop Japan)

HIP:DIY工房というと、すでにもの作りをしている人をターゲットとしているかと思っていましたが、そうではないんですね。

有坂:TechShop Tokyoはターゲットを絞らない場所にしていきたいと思っています。というのも、今は「ものを作る人」と「アイデアを持っている人」が別々の場所にいると思うんです。アイデアは持っているけれども作ってこなかった人にもムーブメントを広げていきたい。2年ほど時間が必要かもしれませんが、徐々に作ることに興味を持ってもらえるといいですね。

齋藤:有坂さんがおっしゃるように、意識が変わるまでに2年くらいは必要かもしれません。例えば、製造メーカーの中には事業部やマーケティング部、R&Dとたくさん部署があり、それぞれあまりコミュニケーションがとれていない場合が多い。それは、アイデアを考えた人がパワーポイントの資料などで他の人に伝えているだけで、手を動かして作っていないからなのではないかと思うんです。

HIP:言葉や資料で説明するのではなく、ものを作って説明したほうがいいと。

齋藤:そう思います。僕たちは事例のない新しいことをやってきていますが、やってみないとわからないことが多いんです。そんな中でも信頼を得るためには、説得材料になるようにまずは形を見せるということが大事になってきます。TechShop Tokyoのようなスペースが都心にあることで、モックアップは格段に作りやすくなりますよね。これまで資料でアイデアの説明をしていた人が、簡単なモックアップを作って説明するようになれば、日本全体のクリエイティビティが向上すると思います。

日本は、失敗を避ける文化があるせいか、「とりあえずやってみよう」ができていないことが多いですから(齋藤)

HIP:富士通は、なぜアメリカの「TechShop」を日本で展開しようとお考えになったのでしょうか?

有坂:もともとTechShopに関心を持ったのは当時の役員でした。富士通はもの作りの機会を多くの人に広めるということを大切に考えている会社なので、メイカームーブメントを推進しているTechShopと共感する部分があり、役員直々にコンタクトをとり、2014年にアメリカで「TechShop Inside! – Powered by Fujitsu」という取り組みを始めることになりました。様々なツールやテクノロジーを備えたトレーラーで学校を訪問し、子どもたちにもの作りを体験してもらうというもので、富士通もPCやタブレットを提供しています。

HIP:既に協業が進んでいたんですね。TechShop Tokyoを立ち上げるという話もスムーズに進んだんでしょうか?

有坂:それはまた別で、経営会議を改めて通すことになりました。私は当時、海外に向けたマーケティングを担当していて、他の人とは少し違った動き方をしていたので、TechShop Tokyoのプロジェクトが発足したときに「やるとしたら自分だな」という自覚はありましたね。

HIP:経営会議ではどのような反応があったのでしょうか?

有坂:半分くらいは「よくわからない」という反応でした。都心に作ることの意義を伝えることが難しく、「工房であれば蒲田か川崎がいいのではないか」という意見もありました。ただ、最終的には「なんだかよくわからないけどやってみよう」と言ってもらえたんです。結局は、3割くらいの人がわかれば十分だと考えています。全員が価値をわかっている状態では新しいことと言えないですしね。

齋藤:「よくわからないけどやってみよう」と決断できるかどうかが大きなわかれ道ですよね。日本は、失敗を避ける文化があるせいか、「とりあえずやってみよう」ができていないことが多いですから。

有坂:そうですね。特に技術屋さんには、「こうだからできない」と理屈でできない理由を考える人が多いです。TechShop Tokyoで人を採用するときには、「こうやって何とかやりましょう」と考えるタイプの人を採るようにしました。クリエイティビティを生み出す場所として大事なことですね。

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