タニタがゲームコントローラーを開発。「知識ゼロ」でも実現できた秘訣とは?
久保彬子(株式会社タニタ ブランド統合本部 新事業企画推進部)
2020.01.30

プライベートでゲーム合宿に参加。ビジネス外で既存ファンを味方に

HIP:第1弾の敗因をどうやって解消したのでしょうか?

久保:まず、第1弾が失敗に終わったタイミングで、それまでパーツの部品のみ提供してくれることになっていた三和電子さんが、トータルで制作部分を担ってくれることになったんです。これでコストを大幅に下げることができました。

さらには、ファン主催のイベントなどにも積極的に参加し、そこで聞いた生の声を意識してクラウドファンディングの設定に反映しました。

そうした取り組みを積み重ね、第2弾、第3弾を実施し、合計約3,500人の支援者の方から約1億3,600万円もの支援金を集めることができ、いずれも目標金額を達成できました。

「CAMPFIRE」にてクラウドファンディングを計3回実施。画像は3回目のクラウドファンディング

HIP:ものすごい金額ですね。そう簡単に集まる額ではないと思います。

久保:『バーチャロン』シリーズには、昔からのコアなファンが大勢います。その方たちが味方になってくれたのは大きかったと思います。第2回以降のクラウドファンディングは情報を拡散してくださったおかげで、目標金額の達成につながりました。ファンの方々には本当に感謝しています。

HIP:さきほどおっしゃっていたファン主催のイベントに参加したのも、「ファンを味方につける」という狙いが最初からあったのでしょうか?

久保:いえ、当初の目的は「味方につける」ためではありませんでした。失敗に終わってしまった第1弾のクラウドファンディングですが、本当に大勢のファンの方に支援していただいたので直接お礼が言いたかったんです。

また、次回のチャレンジに向けて「開発のヒントを得る」ためでもありました。ファンの理想のコントローラーをつくるには、あらためてファンの方々から直接意見を聞いたほうが早いと思ったので。それにビジネスとは関係ないところでゲームに詳しい人たちと仲良くなれれば、ゲームの知識も楽しく学べるかなと(笑)。

HIP:具体的に、どういったイベントに参加したのでしょうか?

久保:熱狂的なファンが集まって夜な夜なバーチャロンをやるゲーム合宿などに参加しました。そういった場で、ファンの方たちと仲良くなり、いろいろと教えてもらえました。

新コントローラーの開発者ということは明かしていましたが、「イベントを見物」するスタンスではなく、あくまで「イベントの参加者」として参加したのでファンの方も心を開いてくれたのだと思います。

実際にユーザーの生の声は、開発を進めるうえでどれも貴重な意見でした。たとえば、操作の感覚について。今回のコントローラーは最新作の操作に対応するため、過去に発売されていたものよりもスティック部のボタンをひとつ増やさなければなりませんでした。そのことをファンの方に話すと「昔の操作感を損なわないように配置してほしい」という意見が圧倒的に多かったんです。その声を参考に、追加するボタンの位置を決めましたね。

専門知識や最新技術だけでは、ファンの求めるコントローラーがつくれるわけではないということに気づけました。勇気を出して参加してみて良かったです。

戦力になってくれそうな人の巻き込み方。コツは、「仕事量を見える化」すること

HIP:久保さんのお話をうかがうと、社員・社外パートナー企業・ファンなど、社内外の人たちをうまく巻き込めたことがこのプロジェクトの成功の要因だと感じます。周囲の人を巻き込むうえで意識したことはありますか?

久保:まず、社内では、とにかく協力していただけそうなメンバーを見つけては、「スポットでもいいから参加してほしい」と声をかけましたね。ただ、本人が乗り気でも、所属部署側からしたら大事な戦力。断られることもたくさんありました。トップダウンで始まったプロジェクトとはいえ、担当者ベースで社内を巻き込むことは想像以上に難しかったです。

それで、各所属部署の了承を得るために工夫したのが、「仕事量の見える化」です。

HIP:「仕事量の見える化」とは?

久保:たとえば、「毎週これくらいの時間で、◯◯さんにサポートいただきたいです」というお願いの仕方だと、その担当者が具体的に何をやらされているのか、所属部署の方々にはわからない。そうなると、毎週時間を割く納得感も薄くなり、「本当に毎週必要なの?」と不信感につながる可能性もあります。

ですが、「◯◯さんの得意分野であるこの範囲を、このくらいの時間で手伝ってほしいです」という伝え方なら、時間だけでなく仕事の質や量が明確になり、本人も所属部署の人たちも理解を示してくれます。戦力になる人を巻き込むには、本人だけでなく、その周りの人たちにも安心感を与えることが重要だと思います。

HIP:なるほど。では、社外の人に協力してもらううえで意識したことを教えてください。

久保:今回のように異分野の企業と協業する場合、仕事の進め方が違って戸惑うのは、向こうも同じです。だからこそ、併走するためには「譲り合い」が大事。

なるべくゲーム業界のやり方に沿うようにしつつも、弊社も製造業として譲れないところはきちんと保ちながら推し進めました。その際も、「自社の場合はこうだ」ではなく、一つひとつを丁寧にコミュニケートするように意識しましたね。

もっと自由にものづくりを。ゲーム事業がタニタ社内に与えた影響

HIP:今回のゲームコントローラー開発によって、タニタの社内にどのような影響を与えたと思いますか?

久保:「もっと自由にものづくりをして良いんだ」ということを見せられたかなと思います。たとえ健康を軸にしていない製品でも、お客さまがタニタの製品やサービスを好きになってくれることで、従来の強みである健康の事業とのシナジーはつくれると私は思っています。

今回のゲームコントローラーも、購入者の約9割が30、40代の男性で、ちょうど健康を気にし始める世代です。そういう人たちをファンにできたことで、「次に健康計測器を買うときはタニタの製品にしよう」と思ってくれるかもしれません。実際そうなれば嬉しいですね。

HIP:今後もゲームを通じた事業の展開を予定されていますか?

久保:2019年1月にアメリカで開かれた、電子機器の世界的な見本市『2019 International CES』に、楽しみながら健康づくりができる「TANITA PINBALL」のコンセプトモデルを展示しました。そういった「健康×ゲーム」の製品を展開する可能性は大いにあると思います。

ゲーム機能つき体組成計「TANITA PINBALL」。ゲームをプレイしながら健康管理ができる(画像提供:タニタ)

HIP:最後に、ゼロベースでゲームコントローラーを開発した経験を活かし、久保さんご自身が今後チャレンジしたいことを教えてください。

久保:このプロジェクトで身につけた「人を巻き込む力」を武器に、自ら社内外のメンバーを集めたプロジェクトチームをつくって新たな事業を推進していきたいですね。

最初から最後まで自分のアイデアに固執するのではなく、いろんな人の意見を聞きながらアイデアを磨いていくことの重要性を今回あらためて感じました。これからも人とのつながりを大事にしながら、失敗を恐れずに挑戦し、また新しいものを生み出していきたいと思っています。

Profile

プロフィール

久保彬子(株式会社タニタ ブランド統合本部 新事業企画推進部)

2007年に株式会社タニタに入社。国内営業戦略本部にて、ネット通販や家電量販店の営業を担当。2017年から、社員から個人事業主に転じるタニタの新しい働き方「日本活性化プロジェクト」に参加。新事業企画推進部の立ち上げから携わり、2018年に「TANITAツインスティック・プロジェクト」を担当。「健康」の間口を広げる新たな商品やサービスの開発に取り組む。

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