タニタがゲームコントローラーを開発。「知識ゼロ」でも実現できた秘訣とは?
久保彬子(株式会社タニタ ブランド統合本部 新事業企画推進部)
2020.01.30

タニタ食堂や体組成計などの健康計測機器メーカーとして有名なタニタが、ゲームコントローラーを商品化した。これまで健康に関する事業を軸としてきたタニタだが、なぜゲーム事業に取り組むことになったのだろうか。今回お話をうかがったのは、専任担当としてこのプロジェクトを推進した新規事業企画推進部の久保彬子氏。会社もご自身も、ゲーム開発のノウハウや知見はなく、資金調達もクラウドファンディングを利用したという。何もかも手探りのなか、プロジェクトを実現する秘訣となった久保氏の「社内外巻き込み術」に迫った。

取材・文:本多カツヒロ 写真:玉村敬太

社長のゲーム愛から始まった事業。鶴の一声で、コントローラー開発担当者に

HIP編集部(以下、HIP):健康事業を軸とするタニタが、ゲームコントローラーを開発したと聞いたときは驚きました。どういった経緯で開発に至ったのでしょうか?

久保彬子(以下、久保):社長の谷田自身がもともと『バーチャロン』シリーズの大ファンだったんです。セガゲームスの松原社長とも懇意にしていて、15年ぶりに同シリーズの新作が発売されることを直接聞いた谷田が「ぜひタニタで専用コントローラーをつくらせてほしい!」とその場で直談判。それで、専用コントローラー「ツインスティック」をタニタで開発することが決まりました。

『電脳戦機バーチャロン』は、セガ発売のアーケードゲーム。2018年2月発売で、15年ぶりの最新作となった今回のタイトルは『とある魔術の電脳戦機』(©SEGA CHARACTER DESIGN:KATOKI HAJIME ©2017 鎌池和馬 キャラクターデザイン・原作イラスト / はいむらきよたか Licensed by KADOKAWA CORPORATION ASCII MEDIA WORKS )
タニタが開発した『とある魔術の電脳戦機』の専用コントローラー「ツインスティック」。2019年11月より出荷(画像提供:タニタ)

久保:そのあと、2017年11月頃に社長の谷田から「今度、ゲームソフト『電脳戦機バーチャロン』の最新作がプレイステーション4対応で発売されるんだけど、専用コントローラーをウチでつくることになった。久保主導でつくってくれ」と突然言われたんです(笑)。

HIP:なぜか久保さんに白羽の矢が立ったと。久保さん自身はもともとゲームがお好きだったのでしょうか?

久保:いえ、まったく(笑)。幼い頃、親戚や友人の家でファミコンを少しやったことがあるくらいで、ゲームにはかなり疎いです。『バーチャロン』も知りませんでした。

株式会社タニタ ブランド統合本部 新事業企画推進部の久保彬子氏

久保:でも、仕事は頼まれたら断らないスタンス。ゲーム機器開発の経験はなくても、会社として健康機器の開発はしていますし、なんとかなるだろうと安易に引き受けました。

実際に取り組んでみると、思った以上に大変でしたね。当然ながら健康機器とゲーム機器ではつくり方がまったく違いましたし、弊社の工場で完結できるものではないことも、早い段階で判明しました。

しかも、これまでに生産されたコントローラーの金型はもう残っていないから、弊社が一からつくらないといけない。そのうえ資金調達は、やったことのないクラウドファンディングを利用してほしいと……。すべてが「初めてづくし」でした。

HIP:それは大変でしたね。そんな状態のなか、どのくらいのプロジェクト期間でコントローラーを出荷できたのでしょうか。

久保:2018年2月に正式にプロジェクトが始動し、そこから1年9か月後の2019年11月に量産型のコントローラーを出荷できました。その間には、社内外で協力者を地道に探したり、計3回のクラウドファンディングを実施したり、本当に紆余曲折ありました。会社としても、個人としても未経験の連続でしたが、なんとか無事にプロジェクトを成功させることができてホッとしています。

まずは身近なゲームファンを味方に。未経験の分野の知識を得る手段とは

HIP:未経験の分野を約2年でかたちにしたのはすごいと思います。やはり、社外のパートナー企業に協力してもらう部分は多かったですか?

久保:そうですね。セガゲームスさんや三和電子さんなどのゲーム関連企業にご協力いただきました。右も左もわからないなかで親身に支えてくださり、すごく心強かったです。

とはいえ、専門用語の意味合いや仕事の進め方などを理解するのに苦労した局面も多々ありました。最初の頃は言葉ひとつをとっても、ゲームに関する用語が理解できない状態でしたからね。

HIP:その状態を改善するために取り組んだことはありますか?

久保:まずは、社内でゲームに詳しい人を探しました。すると同シリーズのファンや、過去にゲーム関連会社に勤務していた社員がいて、そういった人たちの話をとにかく聞きました。

彼らの話を聞くうちに、『電脳戦機バーチャロン』の奥深さやコントローラーをつくるうえで重要になりそうなポイントが徐々にわかってきたんです。社内メンバーにコントローラーの使い方を教えてもらったり、金型の図面設計チェックを相談したりして、プロジェクトを推進しました。

ニッチな分野にこそ有効。クラウドファンディングを活用した理由とは

HIP:社内の人にサポートしてもらいながら開発を進めていたと。一方で、クラウドファンディングを利用して資金調達したとうかがいました。そもそもなぜクラウドファンディングを活用することになったのでしょうか?

久保:会社の資金を使わずに、ものづくりが可能か試したかったんです。まったく新しい事業だったので、資金調達も従来とは違う方法でやってみようと。

あとは、ひとつのゲームシリーズのコントローラーというニッチな市場に対し、どれくらいの需要があるのか不透明だったことも大きな要因です。社内で理解されなくても、世の中に支援者の方がいるとわかればプロダクトの価値を示せます。

それにクラウドファンディングならば、お客さまのニーズを聞きながらものづくりを進めることができるので、開発スピードを短縮できる。今回はゲームソフトがすでに発売されていたので、なるべく間をあけずに最速で販売したく、スピード感も重要でした。あらゆる面で、クラウドファンディングは有効でしたね。

HIP:さきほど、「計3回のクラウドファンディングを実施した」とおっしゃっていましたね。なぜ3回も実施することになったのでしょうか?

久保:その大きな原因となったのは、第1弾が目標金額を達成できなかったことです。失敗の要因はいくつかあります。

まず、金型を新たにつくらなければならないことから製造コストが2億円以上かかり、目標達成額が高くなりすぎたこと。そして、『バーチャロン』シリーズの既存ファンの意見を聞けていない状況で、目標達成金額やリターン品を設計してしまったことなどが挙げられます。

なかなか前途多難な状況でした。しかし、それでも前を向いて第1弾で失敗した要因をすべて解消し、第2弾、第3弾を実施することにしたんです。

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第1弾の失敗を克服するために。社内外で味方を増やすコツとは?

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