スピード感をもって新規事業やイノベーションを生み出すために、斬新なサービスや技術を持つスタートアップと連携を図ることは、多くの大企業にとって急務となっている。それを実現させるための手法として注目を集めているのが、企業内のベンチャーキャピタルの機能をもたせる組織「CVC」(Corporate Venture Capital)の立ち上げだ。
そこでHIPでは、CVCを立ち上げ、スタートアップへ出資を行なっている企業にCVCのリアルを訊く企画「Impact of CVC」を開始する。第1回目は、サントリーホールディングスにおいてCVC機能をもつ、未来事業開発部にインタビュー。
同部署では、フードテック、ヘルス&ウエルネス、サステナビリティ、AI・データ・XRの4領域を中心に、スタートアップへの出資を行なっている。そもそもなぜサントリーホールディングスはCVCを立ち上げたのか、その後、どのようにスタートアップへの出資を進めていったのか。未来事業開発部の部長を務める青木幹夫氏に話を訊いた。
取材・文:サナダユキタカ 写真:坂口愛弥
DATA | |
社名・部署名 | サントリーホールディングス株式会社未来事業開発部 |
設立年 | 2021年 |
組織体制 | スタートアップへの直接出資、VCファンドへのLP出資 |
投資先企業 | WizWe(習慣化プラットフォーム「Smart Habit」)、Rem3dy(サプリメント・グミ・メーカー)など |
「社内CVC」だからできること
HIP編集部(以下、HIP):サントリーホールディングスでは、2021年6月にCVC機能を有する「未来事業開発部」を新設し、スタートアップとの連携を推進しています。まずは、同部署を立ち上げた背景や狙いについてお聞かせください。
青木幹夫氏(以下、青木):サントリーは基幹事業である酒類・飲食料品、健康、あるいは文化活動などを通じて、新しい価値を提供することに取り組んでいます。一方で、社会と企業としての持続可能性を高めるため、水の使用量や温室効果ガス排出量削減取り組みをしています。
そして同じ2030年に、サントリーを担う成長事業の確立を目指しており、その一環として未来事業開発部を設立しました。未来事業開発部はCVCの機能をもっており、有望なスタートアップを探索し出資を行なっています。
HIP:他社のCVCの例では、CVC専業の法人を立ち上げる例もあります。しかし、未来事業開発部は持株会社内の一部署という位置づけですね。
青木:スタートアップとの連携をクイックに進めるため、別会社化して立ち上げるという選択肢はありませんでした。サントリーグループとの共創のためにも、社内にあったほうがよかったと、いまも実感しています。
投資領域は「近すぎても遠すぎてもダメ」
HIP:未来事業開発部では、どのステージ(シード、アーリー、ミドル)のスタートアップをターゲットに投資・協業を行っているのでしょうか?
青木:意識して絞り込んではいません。しかし、シード期のスタートアップは、どのような価値を提供していくのか定まっていない場合も多く、サントリーとの協業が難しいと考えています。結果的に、すでにサービスやプロダクトがあり、一定の顧客がいるアーリー期、ミドル期のスタートアップに投資するケースが多いです。
HIP:サントリーの企業理念でもある「人間の生命の輝きをめざす」がテーマだそうですが、実際に食や健康に関する投資先が目立ちますね。
青木:たしかに、食、健康も大切な分野ですが、力を入れていきたい分野はそれだけではありません。私たちが注目しているのが、「フードテック」、「ヘルス&ウエルネス」のほかに、「サステナビリティ」、「AI・データ・XR」も合わせた4領域になります。
そのなかから「人間の生命の輝き」との親和性に鑑み、食を中心とした新たな顧客体験を目指しています。あまりに離れた領域に投資をしてもわれわれとの共創が難しいですし、近すぎると既存事業が進めているイノベーションと重なってしまいます。そのバランスを取りながら、スタートアップへの出資を考えています。
HIP:これらの領域をターゲットとする理由も教えてください。
青木:当社は食品メーカーでもありますのでフードテックは外せないですし、グループ会社のサントリーウエルネスはサプリなどを販売しており、ヘルス&ウエルネスも慣れ親しんだ領域です。
大きくはこの2領域が中心となりますが、それらを支えるサステナブルも重要なテーマですし、イノベーションの実現のためにAI・データ・XRも必要です。それぞれの領域ごとに分けて考えるのではなく、領域をまたいだスタートアップなどへの投資も行なっています。