INTERVIEW
人生100年時代、ソニーグループが始めたBtoB。社内資源を最大化した戦略とは
廣部圭祐(ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社 IoT事業部門 事業推進2部 SF-Project 課長)

INFORMATION

2019.01.21

SHARE

数字よりチャレンジを評価する制度がなければ、優秀な人材も新規事業に取り組めない。

HIP:さまざまな部署に協力を仰ぎ、分業でプロジェクトを進められるのは、大企業ならではの新規事業の立ち上げ方です。ほかにも、大企業、またはソニーグループならではの優位性を感じたことはありましたか?

廣部:ブランド力には、大いに助けられましたね。FAITも初期の頃は飛び込み営業を行っていたのですが、話を聞いてもらえる可能性が圧倒的に高い。認知拡大のためのイベントを行う際も、ソニーのロゴで足を止めてもらえる。高齢者の方にとっても、「ソニー」という名前は安心感があるみたいですね。これはスタートアップ企業にはない強みだと思います。

HIP:一方で、大企業で新規事業を立ち上げる難しさはどういったことでしょうか。

廣部:一般論ですが、実際に新規事業を立ち上げた経験のある人が少ないことが挙げられるのではないでしょうか。身近なところにメンターがいない。その点ぼくの場合は、数々の新規事業を育てた経験のある先輩と、毎週のようにお話しして、たくさんのアドバイスをいただくことができました。

もうひとつ大企業の難点は、赤字が許容されにくい風土もありますね。大企業は年度単位で予算を組みますが、起ち上がったばかりの新規事業は不確実性が大きく、予算を下回ることも珍しくない。そのときに事業の将来性を鑑みて、ある程度、許容してサポートしてくれるような度量が必要です。人事評価も同様で、数字だけでなくチャレンジを評価する制度がなければ、優秀な人材が新規事業に取り組む足かせになってしまうと思います。

スポーツクラブに通う日本人はたった3%。さまざまな形式のB to B to Cを模索する必要がある。

HIP:2017年10月にFAITがローンチして約1年が経過しましたが、これまでに得ている手ごたえや、新たに感じている課題感を教えてください。

廣部:販売拡大の道筋が見えたのは、手応えのひとつです。最初は利用者のデータを集めるために、とにかく使ってもらうことを目的として、ある程度の完成度で販売をしました。導入した事業者とエンドユーザーの両方から、半年間使用したフィードバックを得て、現在はそれを反映したバージョンアップ版の再販売を始めています。当初は直販でしたが、いまは介護用品を扱う卸業者経由でも販売しており、事業として拡大していくフェーズに入れたと思っています。

課題については、本当にいろいろありますね(笑)。最も大きな課題は、そもそもヘルスケアをビジネスにする難易度が非常に高いこと。日本人は健康に投資しないんです。一例ですが、スポーツクラブに通う人口はたったの3%で、アメリカの17%と比較すると極端に少ない。そういった土壌で、ヘルスケアサービス普及させるには、利用者以外のステークホルダーに投資してもらうスキームにせざるをえないんです。つまりは、事業者がお金を払ってFAITを導入し、利用者は無料で使えるという仕組み。

そのスキームをよりスケール化するための取り組みが、福島県いわき市で始まっています。自治体がFAITを導入して、住民の健康寿命を伸ばすという試みです。健康寿命が延びれば、自治体の介護費用が下がる。そこに期待してFAITに投資いただいています。自治体と組んで大きなビジネスに育てるやり方を、この取り組みで試してかたちにできればと思っています。

ほかにも、大和ハウスさんと組んで分譲マンションや戸建てで使えるようにしたり、スポーツクラブや薬局でも使えるようにしたりと、導入の間口を広げています。FAITを使ってくれるお客さまが、介護事業者、自治体、マンションと多岐にわたるのは、「打率」の問題です。新規事業では、打率1割が当たり前、つまり10のやり方を試してひとつでも軌道に乗せられればすごいことです。だから手広くいろいろなことを試して、どれかひとつが当たれば、ほかで失敗してもカバーできるという状態にしておく必要があります。

HIP:最後に、今後の展望を聞かせてください。

廣部:最終的には、データの有効活用が重要になると考えています。なかでも要介護リスクの定量化は、大きなトピックですね。現状では、アンケートなど定性的な方法が主流で、定量的に要介護リスクを判定できる仕組みがないんです。でも、FAITを通じて集めたビッグデータと個人の測定結果を比較すれば、将来的に要介護になってしまうリスクがどのくらいあるかを数値化できる。それが可能になれば、年に1回FAIT測定を行うなどして、リスクが高い人には先んじて予防アクションに取り組んでもらうことができます。

まだオープンにできる情報が少ないのですが、データを活用することで、健康寿命の延長にもっと寄与していければと思っています。

Profile

プロフィール

廣部圭祐(ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社 IoT事業部門 事業推進2部 SF-Project 課長)

2004年ソニーエリクソンモバイルコミュニケーションズ入社。グローバルサプライチェーンマネジメントを務めたのち、2017年より現職。

SHARE

お問い合わせ

HIPでの取材や
お問い合わせは、
下記より
お問い合わせフォームにアクセスしてください。

SNSにて最新情報配信中

HIPでは随時、FacebookやWebサイトを通して
情報発信をいたします。
ぜひフォローしてください。