人生100年時代、ソニーグループが始めたBtoB。社内資源を最大化した戦略とは
廣部圭祐(ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社 IoT事業部門 事業推進2部 SF-Project 課長)
2019.01.21

事業化に向けて動き出すまでは、「スモールスタート」の意味さえ勘違いしていました。

HIP:FAITの事業を進めていくにあたり、SAPの経験で役立ったことがあれば教えてください。

廣部:講師の先生が新規事業の起ち上げについていろいろと教えてくださったので、知識としては学びがありました。ただ、机上での議論と実際にやってみるのとでは、まったく違いましたね。教わるだけで新規事業が成功するなら、成功率はもっと高いはずです。

とはいえ、やりたいことがあるのにくすぶっている社員にとっては、SAPは重要なきっかけとなりうると思います。「誰でも新規事業を考えていい」という雰囲気、それがあったからこそぼくも挑戦できました。

HIP:FAITの事業化に本腰を入れて取り組むにあたり、まずは何から始められたのでしょうか?

廣部:スポーツクラブや介護施設、小売店など、さまざまな事業者へのヒアリングからスタートしました。そのうちに、当初ぼくがSAPで考えていたようなB to Cのビジネスモデルは、新規事業に向かないとわかってきたんです。そこで、法人をターゲットにし、B to B to Cでスモールスタートしようと考えました。

じつはヒアリングを始めるまでは、「スモールスタート」の意味さえきちんと理解していなかったんです。「開発費をできるだけ小さく抑え、まずは事業をローンチすること」がスモールスタートだと思っていました。

しかし、本来の意味は「最小の要件でビジネスとして成り立たせること」。つまり開発費に見合うだけの売上が必要なんです。そのためには、サービスを多く利用してくれて、ある程度の売上が見込める、いわゆる「太い客」を一社でもつけることが近道だと気づきました。

FAITの潜在顧客はどこにいるのか、また彼らが何を欲しているのかを検討すべくさらなるヒアリングを続け、徐々にターゲットを高齢者に絞っていきました。そして結果的に、介護施設やスポーツジム、薬局などを顧客とした現在のビジネスモデルに落ち着いたんです。

実際に現場に赴くことは非常に大事ですね。普段の生活のなかでは、老人ホームやデイサービスとは関わりがなかったので、体力が低下した高齢者が実際にどのように低力測定をしているのか、その際何に困っているのかを知れたのは大きかったです。

センサーにクラウド、UI。必要な技術は社内で見つけ、自ら声をかけて回りました。

HIP:現在FAITに携わるコアメンバーは何人でしょうか。

廣部:ぼくを含めて3人しかいません。ぼくは事業ドライバーで、ビジネスプランニングと営業、ハード開発、法務、経理などを担当。残り2人がソフトウェア開発を担当しています。コアメンバーが少ないぶん、情報マネジメントにかかる工数が減って、素早く動けています。

そのほかのクラウドやデバイス開発、UI(ユーザーインターフェイス)のデザイン、販売などは、すべてソニーグループの関係部署が手伝ってくれています。初期投資ではなく、レベニューシェア(支払い額固定の委託契約ではなく、お互いの協力で生み出した利益をあらかじめ決めておいた配分率で分け合うこと)で動いてくれている部分もあります。

HIP:具体的には、どういった部署が関わっていますか。

廣部:センサーデバイスでは、テニスのサーブのスピードやインパクト位置、ボールのスピンなどを測る「スマート テニス センサー」を開発した部署に助けてもらいました。1,000分の1秒の世界で戦っているテニスセンサーの技術はまさにFAITが求めていたものだったので、直談判したんです。クラウドやAIなども同じように、合う技術を探して各部署に直接お願いしました。ただ、サービスのローンチ後は、社内で声をかけてもらえることも増えてきましたね。

HIP:大企業のなかで新規事業に取り組むメリットを、最大限に活かされている印象です。ただ、新規事業はレベニューシェアの割合が精密には予測できません。売上げ以外で、関係部署が手伝いたいと思ってくれる理由はあったのですか。

廣部:例えば、UIはソニーのインハウスデザインチーム「クリエイティブセンター」と協働して、高齢者にとって最も使いやすいものにつくり上げました。クリエイティブセンターは高齢者をターゲットにしたUIデザイン開発経験がほぼなかったので、非常に価値のある知見が得られたと思います。少子高齢化が進みソニー内でもさまざまなプロジェクトで高齢者へのアプローチを模索していますから、今回の知見は今後有効に活用されると思います。

クリエイティブセンターと制作したUIは、認知機能の低下した高齢者でも使いこなせるよう考え尽くされている

人づての紹介のほうが、興味を持ってもらえる確率は高かったです。

HIP:大企業は縦割りのイメージがありますが、ソニーグループは横串がしっかりしているのですね。

廣部:そうはいっても、ただ手をこまねいているだけでは難しいですね。こちらからアプローチすることで、乗ってきてくれる部署もあるという感じです。

HIP:そうした横のつながりは、どのように築いていったのでしょうか。

廣部:ぼくの場合はSAPで生まれた人脈をベースに、人づての紹介で話を聞きに行きました。正攻法でアポを取るよりはそのほうが、会ってもらえる、興味を持ってもらえる確率が高かったですね。社内の技術を組み合わせてプロトタイプをつくったあとは、測定の内容や方法、データの分析方法を詰めるにあたって筑波大学とも共同研究をさせていただいたのですが、この出会いも人づてで実現しました。

「ウォークマン」や「ハンディカム」「AIBO」など、時代を先取りする商品を生み出してきたソニーグループには、まだまだイノベーティブな文化が残っていると感じます。組織的には大企業になり、平均値、中央値をとれば、イノベーションに積極的な人材は一般的な企業とあまり変わらないのかもしれませんが、じつは変な社員も多いんですよ(笑)。

HIP:変な社員とは?

廣部:ぼくの主観ですが、経済合理性を無視して、自分が面白いと思うことを追求している人たち。そういった人に話を聞いたり、協力してもらったりできる文化はいまだにあると思います。

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廣部氏が語る、大企業で新規事業を起ち上げるメリット・デメリットとは?

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