INTERVIEW
考えるより実践。始動プロジェクト受賞者が語る、イノベーションに必要な思考
久保昇平(関西巻取箔工業株式会社) / 有川尚志(株式会社カネカ) / 野辺健一郎(株式会社NTTデータ / Nei-Kid / 株式会社biima)

INFORMATION

2019.04.26

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セカンドキャリアは振り出しではない。シリコンバレーで学んだ、経験と努力の活かし方

HIP:シリコンバレーで学ぶプログラムには、現地スタートアップと交流を持ちながらイノベーターとしてのあり方を肌で感じることができると聞きました。久保さんは何か印象に残っていることはありますか。

久保:現地で学んだ「グロースマインドセット」という考え方が響きました。これは簡単にいってしまえば、「経験×努力」が自己成長につながるという考え方です。

ぼくは、いまでこそ家業を仕事にしていますが、若い頃は舞台演劇の演出家になりたくて、25歳まで劇団をやっていたんです。でも、いまの仕事についてからは、演劇の経験は無意識に切り離して考えていました。ところが、ハリウッド俳優のマシ・オカ氏の「Yes And」というワークショップで、自分の経歴が役に立った。

HIP:どのようなワークショップなんでしょうか。

久保:ざっくりいえば、即興劇のように相手とアイデアをどんどん出し合って、それを発展させていくワークショップです。

よくよく考えると、プレゼンにも演劇の演出のスキルを活かすことができる。演出家になれなかったことは挫折だと思っていたけれど、じつはいまの自分にとって大きな武器になることを知りました。ぼくだけでなく、日本ではセカンドキャリアと称して、これまでの経験を切り離して考えてしまう人が多い。でも、それは自分で決めつけちゃっているだけです。過去の経験と努力は、確実にいまの自分の構成要素になっていて、いろんなかたちで自分だけの武器になり得ます。

有川:いま久保さんがおっしゃった、マシ・オカさんの「Yes Andワークショップ」は、私も印象に残っています。私はそこで、「何事も楽しんでやる」ということの大切さに、あらためて気づかされました。

ネガティブなことを言わないのが、このワークショップのルールです。会社だと採算性や事業領域などを考えたツッコミが早期で入ることも多く、「Yes But」になりがち。早い段階でネガティブな要因に目を向けてしまうと、思考が制限されてしまい、アイデアが収束してしまうんです。

一方、「Yes And」では、まず相手のアイデアを肯定して、次に自分のアイデアを加えることを繰り返します。そうして会話を膨らませていくことで、面白い斬新なアイデアが引き出されていくんです。シリコンバレーでは最初に「Yes Andワークショップ」を行いましたが、事業プランに対する凝り固まった思考も一気にほぐれました。その後のプログラムについても、ポジティブなマインドで取り組むことができましたね。

会社の環境が物足りなくなり、自分が会社を変えてやろうという気持ちになる

HIP:約半年間の始動プロジェクトを経て、自分がどう変化したかを聞かせてください。

久保:経営者として、組織づくりの考え方が変化したと感じています。始動プロジェクトのゲストスピーカーや講師の話を聞いていると、日々の仕事において身につまされるような「耳の痛い話」が多く、いつも「自分はまだまだだ」と気づかされます。

リーダーとして組織を率いるときに、「頑張れ」という精神論で追い込むのではなく、「一緒に頑張ろう」と思わせるのが大事だとあらためて気づきました。個々の才能をどうやって発揮させてあげるのかを深く考えるようになりましたね。

野辺:私は圧倒的な主体性を得ることができたと思います。始動では、ことあるごとに「自分ごと」という言葉を意識させられる。それがイノベーターのマインドセットとして重要だと。

おかげで、自分が世の中のために何をしたいか考え、それを実現するためのマインドセットと行動力がつきました。たとえば、NTTデータがいままでやっていなかった分野のプロジェクトでも、「ノウハウやリソースがないからできない」ではなく「外部のノウハウを持った企業や人を集めれば短期間で実現できる」と考えるようになったんです。自分が「主体的に情熱を持って行動」すれば、周りも変わっていくと思います。

始動プロジェクトでは、積極性と向上心がある人間が120人集まり、半年間、濃くかかわり合う。そういった環境に身を置くと会社の枠組みやルールありきの考え方を飛び越え、自分が会社をもっと良くしてやろうという気持ちになります。

有川:私も始動プロジェクトのメンバーと過ごしたことで、より広い視野身につけることができたと思います。研究者なので、ひとつの専門性を突き詰めることも重要です。しかし、それだけでは世の中の問題を解決できません。本質的な課題が何かを見極めるためには、自分の専門領域にこだわらず幅広いアプローチを模索することが必要。そのためには、もっと外の人と話をすることが大切だと以前から感じていました。

始動プロジェクトに参加したことで、医者や中小企業の経営者など、さまざまな世界の人と触れ合えました。そのなかで、自分にはなかった視点や価値観を知ることができました。また、自分の考え方や思考を世の中に広く理解してもらうことの難しさにも、あらためて気づけましたね。おかげで、相手に伝わる表現方法を模索するようになり、客観的な視点を養えたと思います。

「考えるよりも実践」こそが、イノベーターに必要なマインドセット

HIP:始動プロジェクトの目的は、参加者の方々をイノベーターにすること。そのために必要なマインドセットが学べるように、プログラムを構成しているとうかがいました。始動プロジェクトを経験した皆さんが考える「イノベーターに必要なマインドセット」を教えてください。

久保:マインドセットは「経験×努力」の積み重ねによってできていくものだと思っています。目の前のことを一生懸命やれない人間が、夢を語ることはできない。だからこそ、いまの仕事に全力で取り組む姿勢をこれからも大事にしていきたいですね。

野辺:私が重要だと感じたのは知的好奇心ですね。好奇心があれば、相手の大切にしていることやスキルに興味を持つようになる。興味が生まれればより深掘りするようになるので、相手の人となりが見えてきます。そうやっていろんな人を深掘りすることで、誰と誰をつなげればイノベーションが生まれるかが見えてくるはず。先ほど話した、H型人材になるためには知的好奇心は欠かせないと思います。

HIP:有川さんはどうですか?

有川:イノベーターに必要なマインドセットは、「ThinkerからDoerになる」だと思っています。これは始動プロジェクトのコンセプトで、「考えるよりも実践」という意味。とにかく、動いてみないとわからないことはたくさんあります。そして、「動く」ときの原動力になるのは、自分が本当にやりたいという気持ちです。モチベーションがないと、新規事業やスタートアップを始めるのは難しい。これからも、自分がやりたいと思う分野を追求するために、スピーディーに実践していきたいですね。

Profile

プロフィール

久保昇平(関西巻取箔工業株式会社 取締役C.O.O)

京都府生まれ。京都産業大学在学中の1998年から舞台演劇の演出家として活動。その後、2006年に(公財)京都高度技術研究所(ASTEM)の創業支援を受け起業したのち、京都府デザインインキュベーション事業「KYOTO STYLE」に参画。2012年に関西巻取箔工業株式会社(KANMAKI Co.,Ltd.)に入社し、現職。受賞歴:京都文化ベンチャーコンペティション『京都府知事奨励賞』(2016年)、滋賀銀行ビジネスプランコンペ・野の花賞『大賞』(2018年)ほか

有川尚志(株式会社カネカ バイオテクノロジー研究所 主任)

2011年より株式会社カネカで、微生物によってつくられる生分解性ポリマーの研究開発に従事。生命工学技術と発酵技術により工業生産の実現に携わる。2017年に名古屋大学大学院にて博士(農学)を取得。2018年、生物工学技術賞(日本生物工学会)受賞。技術士(生物工学)。

野辺健一郎(株式会社NTTデータ テレコム・ユーティリティ事業本部 モバイルビジネス事業部 課長代理 / Nei-Kid 副代表 / 株式会社biima 教育事業本部 新規事業準備室 室長)

2008年に株式会社NTTデータ入社。大規模システム開発のプロジェクトリーダを経て、現在はデジタルマーケティングのアライアンス企画や新規事業の企画営業を担当、現職。2018年7月より「親が選択しなかった人生を歩む教育プラットフォーム“Nei-Kid”」の副代表に就任し、法人向けに子供のワークショップの企画を推進。2019年2月より株式会社biimaで兼業中。同社にて、21世紀型の保育園設立をはじめとした教育分野の新規事業責任者に就任。

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