考えるより実践。始動プロジェクト受賞者が語る、イノベーションに必要な思考
久保昇平(関西巻取箔工業株式会社) / 有川尚志(株式会社カネカ) / 野辺健一郎(株式会社NTTデータ / Nei-Kid / 株式会社biima)
2019.04.26

活躍するイノベーターになるための第一歩は、思いついたアイデアを「直ちに実践」すること。そのマインドセットを身につけられる人材育成プログラムがある。『始動 Next Innovator』(以下、始動プロジェクト)だ。主催は経済産業省で、2015年度から毎年開催されている。

起業家だけではなく、会社員、研究者、大学生、公務員など多岐にわたる人材が事業プランを携えて応募してくるという。約半年に渡るプログラムの最後には、プログラム総括イベント『始動 Next Innovator 2018 Demo Day』にて自ら立案した事業プランの最終構想を発表しあう。向上心のあるメンバーとともに自己成長を実現できるというが、具体的にはどんな取り組みをするのだろうか。

今回は、『始動 Next Innovator 2018 Demo Day』で最優秀賞・優秀賞を受賞した3人に、プログラム内容や得られたもの、イノベーターに必要なマインドセットとは何かを聞いた。


取材・文:笹林司 写真:玉村敬太

120人のなかから最優秀賞・優秀賞を受賞。未来のイノベーターたちが考案した事業プランとは

HIP編集部(以下、HIP):『始動 Next Innovator 2018 Demo Day』のピッチで、優秀賞を受賞したのが野辺さんと有川さん、最優秀賞に輝いたのが久保さんとうかがいました。応募時に、各自で策定した事業プランを提出するそうですが、それぞれどういった内容だったのでしょうか。

野辺健一郎氏(以下、野辺):ちょうど子どもを授かったこともあって、未来を担う子どもたちへの教育に興味を持つようになりました。それと同時に、もっと良くできるのではないかと強く思うようになったんです。そこで応募した事業プラン名が、「親が選択しなかった人生を歩む新しい人生のプラットフォーム」。

日本に住む子どもたちが日常的に出会う大人は、親か先生くらいですよね。大人と出会える場が非常に限定的です。だけど、子どもたちが将来の可能性を広げるには、多様な価値観を持っている大人たちにたくさん出会う機会が必要だと思ったんです。たとえば、各業界でトップを走り続けていたり、ユニークな経歴を持っていたり。そんな大人たちに出会えるプラットフォームをつくりたいと思い、事業プランを考えました。

ちなみに、いまでこそ、副業として教育事業の会社にも属していますが、本業はモバイルビジネス事業に取り組む企業さまを担当するNTTデータの社員。教育事業とはかかわりの少ない部署ですし、本業とは違う事業プランを推進するのは大変でした。

株式会社NTTデータ テレコム・ユーティリティ事業本部 モバイルビジネス事業部 課長代理 / Nei-Kid 副代表 / 株式会社biima 教育事業本部 新規事業準備室 室長 野辺健一郎氏

HIP:事業にかける思いの強さがうかがえますね。有川さんの事業プランは、どんなものでしたか。

有川尚志氏(以下、有川):いま話題になっている、プラスチックによる海洋汚染問題を解決するプランです。事業プラン名は「地球を救う天然プラスチック PHBH 〜海洋ごみ問題ソリューション〜」。

私は化学メーカーのカネカの研究者として、環境への悪影響が少ない「生分解性ポリマー」の開発をしています。始動プロジェクトの魅力は、さまざまな分野で活躍するイノベーティブ思考の人たちが集まり、意見交換できること。まったく異なる職種の人に事業プランを見てもらい、率直な意見をうかがうことで、開発に役立つ発見を得られればいいなと思い、応募しました。

また、私が所属するカネカのバイオテクノロジー研究所では、2015年の第1期から毎年、社員が始動プロジェクトに参加しているんです。彼らが口を揃えて、「非常に学びがあった」と言っていたことも、参加を決めた要因のひとつですね。

株式会社カネカ バイオテクノロジー研究所 主任 有川尚志氏

HIP:最優秀賞に選ばれた久保さんは、どんな事業プランだったのでしょうか。

久保昇平氏(以下、久保):ぼくの会社は祖父の代から60年以上続く老舗企業で、現在は「熱転写箔」というものを製造販売しています。始動プロジェクトでも、この技術を活かした事業プランを提案しました。熱転写箔とは、わかりやすいところでいうと、自動車部品・家電製品・化粧品・書籍・文房具などの製品にブランドロゴを転写する際などに用いられる技術です。

一般的にモノに転写する際に必要なのがインク。しかし、インクにはアルコールやシンナーといった揮発性有機化合物(VOC)が含まれている場合が大半です。VOCは大気中へ放出されると、環境破壊や健康被害を引き起こす可能性もあり、火災の原因にもなり得る危険物です。そこで、弊社の「熱転写箔」という技術なら、インクをコーティングする段階でVOCを揮発させて除去することができるんです。

関西巻取箔工業株式会社 取締役C.O.O 久保昇平氏

HIP:かなり専門性が高い事業プランですね。

久保:はい。おわかりのとおり、弊社自体がかなりニッチな業界です。これまでも、自分たちの技術を知ってもらうために、いろいろなビジネスコンペに参加し、われわれの技術を使った事業計画を発表してきました。

そんななか、関西を中心としたビジネスコンペで最優秀賞をいただけて。「次は日本一だ」と意気込んで、始動プロジェクトに参加したんです。まさか本当に最優秀賞をいただけるとは思っていませんでした。

明日、死ぬとしても、それをやるのか? 始動プロジェクトで気づいた事業プランの本質

HIP:始動プロジェクトは、約5か月の国内プログラム、その後の約2週間のシリコンバレープログラム(※選抜メンバーのみ)で構成されると聞きました。

最初の国内プログラムでは、「意識改革」「スキル向上」「事業化促進」「成長促進」の四つのタームを重視。ゲストスピーカーや講師から実践的なメソッドを聞き、メンタリングを受けながら、応募時に提出した事業プランのブラッシュアップを行うそうですね。国内プログラムのなかで、とくに印象に残っていることを教えてください。

野辺:私はゲストスピーカーの話と、講師のメンタリングが印象に残っています。

とくに心に響いたのが、ゲストスピーカーの一人だった、早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄先生のお話。入山先生は、専門性を持った人たちを「I型人材」、そして彼らを横軸でつなぐ人たちを「H型人材」と呼び、イノベーションにおける「H型人材」の重要性を語ってくれました。人脈をつくり、人を掛け合わせる存在が、これからの時代には重宝されると。

それまでは、自分のスキルや知識を使ってイノベーションを起こさなければいけないという考えに縛られていました。「そういうやり方もありなのか」と新たな発見でしたね。

HIP:メンタリングでは、どんなことが印象に残っているのでしょうか?

野辺:事業プランのことで非常に詰められました(笑)。プランニングの甘さにとどまらず、「なぜ君がその事業をやるのか?」「明日、死ぬかもしれなくても、それをやるのか?」など本質を問われるんです。

すると、こちらも本気で考え、真剣に取り組むようになります。2か月のうちに4回メンタリングを受けましたが、そのたびに余計な肉がそぎ落とされて、骨子が浮き彫りになっていく。自分がやりたい事業がはっきりと明確になる感覚は、この始動プロジェクトでないとなかなか得られない経験だと思います。

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イノベーターに必要なマインドセット、「ThinkerからDoerになる」とは?

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