「世の中が欲しがるコンビニを目指せ」。社内の声を受け、顔認証決済に踏み切った
HIP:NEC側も複数部門の技術を活用していますが、その調整は大変でしたか。
NEC田原:そうですね。省人化や生産性の向上は、昨今どの業界にとっても課題です。最初はこぢんまりと始めるつもりが、取り組みの注目度が徐々に高まり、「もっと最先端の技術が活かされた、世の中が欲しいと思うコンビニを目指さないとダメだ」という声が出てきたんです。
NEC森崎:それで、「既存の技術をそのまま使う」のではなく、最先端を意識して、コンビニ向けにカスタマイズする必要が生まれました。顕著だったのは決済手段で、最初は社員証をかざすと支払いができるシステムを考えていましたが、「顔認証技術」を取り入れることになったんです。
NECでは顔認証を扱うチームが一つの事業部になっており、精度で世界一にもなっている。それでも、社員証での支払いシステムと組み合わせた実績はありませんでした。社内とはいえ個人情報やお金のやり取りを扱うため、失敗が許されないなか、かなり多くの社員の協力を得て、情報のやり取り方法や認証の速度・精度改善を実施しました。
NEC田原:蓋を開けてみると、社員証でも購入ができるものの、よく利用する方ほど顔認証を使ってくださっています。私は最初「社員証でも十分便利だから、顔認証はいらないのでは?」と思っていたのですが、結果的にニーズはあったということですね。
HIP:まさに、顔認証技術は「世の中が欲しがるコンビニ」に進化するためのポイントだったのですね。
NEC田原:セブン‐イレブンさんのキャッチコピーは「近くて便利」ですが、今回私たちが目指した価値は「もっと近くて便利」。世の中の人の役に立ち、社会課題を解決するためには、私たちNECも変わらなくてはいけません。
以前は顧客が求めるシステムを、要望を聞いて開発し、納品することが重要でした。しかしこれからは、われわれの技術の活用方法を、自分たち自身で考えて積極的に提案する必要があります。いまはNECも他社との「共創」に舵を切り始めていますね。
潜在マーケットの開拓に成功。すでに全国の企業から問い合わせも
HIP:いろいろなご苦労の末、オープンした店舗。先ほどお邪魔しましたが、かなりたくさんの方が利用していましたね。
NEC田原:想定通りのニーズがあってホッとしました。やっぱり便利なんですよ。今回は上層階で働く1,000人の社員をターゲットとして店舗をオープンしましたが、結果、その規模ならば十分マイクロマーケットして成立することがわかりました。
セブン‐イレブン田澤:こちらの見立てどおり、潜在的なマーケットを開拓できたので、地下の店舗の売上にも影響はありませんでした。
セブン‐イレブン佐藤:実証実験は一定の期間続けて、採算性などを見極めたうえで、今後本格的にマイクロマーケットビジネスに参入するかを検討します。ただ、すでに全国各地の企業さまから「うちの会議室もコンビニに改装したい」などのお話をいただいており、引き合いの強さは感じますね。
さらなる「近くて便利」へ。省人技術を活かせば、夢は広がる
HIP:最後に、今後の展望や、皆さんが考えるコンビニの未来について聞かせて下さい。
NEC田原:私は、店舗が柔軟性を持てるようになればいいなと思います。現状のコンビニは基本的に全国、どこでも同じようなデザインでレイアウト。出店するのに必要な土地の大きさ、場所、従業員人数などにも縛りがあります。
しかし、今回のプロジェクトのノウハウを活かせば、いまある土地の場所や大きさに合わせて、最適なコンビニが出店できるようになるかもしれない。それによって、もっと「近くて便利」なサービスをつくる役に立てればいいですね。
セブン‐イレブン田澤:私の夢は「ビル一棟、各階にセブン‐イレブン」です。例えば、地下には普通のセブン‐イレブン、20階には省人型コンビニ、そして、各階にはセブンカフェの自販機がある。また、セブン‐イレブンは、おにぎりやパンなどを中心に販売する「セブン自販機」も展開しています。これも各階に設置して、ちょっとした軽食を買えるようにする。こうなったら、面白いと思いませんか。
HIP:現在はマイクロマーケットに合わせた小規模店舗による実証実験ですが、導入した技術は、一般の路面店にも展開できそうです。
セブン‐イレブン田澤:そうですね、われわれもそういった考えを持っており、広く展開していくための実証実験でもあります。
HIP:2019年3月には、セブン‐イレブン社内に「省人化プロジェクト」が設置され、これまで各部で推進してきた生産性向上への取り組みを、さらに推し進めていくそうですね。今回の実証実験の結果次第では、省人型店舗で使われている技術も、生産性を向上するソリューションの一つになりうるかもしれません。