大切なのは「人の手による接客」。だからこそ省人化に取り組む必要がある
NEC田原:プロジェクトの発足は2017年1月。当時は「省人」ではなく「無人店舗プロジェクト」と呼んでいました。
HIP:「無人」から「省人」に変更した理由は何だったのですか。
セブン‐イレブン佐藤:弊社の社長も言っていますが、結局は人の手による接客がないと、商売として成り立たないからです。それはセブン‐イレブンの、ホスピタリティーに対するこだわりです。
とはいえ少子高齢化や人口減少など、社会構造の変化にもしっかりと対応していかなければならない。そこで、掃除やレジ決済など、機械やシステムに任せられることは任せて、人は発注の工夫など、人にしかできないことに注力してもらえたらと考えています。発注もAIが助けてくれるようにはなりますが、例えば、あえて特定の商品をたくさん仕入れ、キャンペーン的に販売するといった決断は、人でないとできません。
NEC森崎:世の中の話題は、「Amazon Go」のような「無人コンビニ」に集まっていますよね。しかし、「人と技術の融合」による温かみこそ、これからのコンビニにとって大切なキーワードの一つになるのではと思うんです。
「何から始めればいいのか」。まったくのゼロからスタートした新店舗づくり
HIP:実証実験のための店舗が設置されたのはNECが入居するビルで、利用者はグループ社員限定だそうですね。セブン‐イレブンは、店舗で使うITシステムや技術をNECに発注する立場ですが、一方でNECがコンビニを利用する「お客さま」でもあるわけです。
セブン‐イレブン田澤:そういった意味では、本当にフラットな意見交換をしましたね。どういった店舗にしたいのか、どういった技術を入れたいのか。議論を重ねながら、詳細を詰めていきました。
セブン‐イレブン佐藤:これが本当に大変でした。そもそも、前例がないから、何から始めていいのかわからない。最初は、省人化に最低限必要な技術のみを導入する予定だったのですが、気づけば「あれもこれも」と広がっていき、最終的には7つのシステム、技術を導入することになりました。
顔認証を使った決済に始まり、コミュニケーションロボットによるお客さまへのおすすめ商品提案、冷蔵庫などの設備のデータ収集・安定稼働サポートや、AIを活用した商品の発注提案など。まったく新しい店舗をつくることになり、影響する社内の部署も、本当に多岐に渡りました。
HIP:具体的には、どういった部署に影響が出るのでしょう。
セブン‐イレブン佐藤:例えば、顔認証決済は初の試みですので、会計担当の部署に確認をとる必要があります。従業員が少ない状態での品質担保にはクオリティー・コントロールの部署、セブン‐イレブンブランドを保つための店舗設営のルールには建築関連の部署や法務部などが関係してきます。システム担当としては、普段あまり接点がない部署とのやり取りも多かったですね。
HIP:最も苦労したのは、どのような点でしたか?
セブン‐イレブン佐藤:いろいろな点で苦労はしましたが、店舗デザインの問題もその一つです。セブン‐イレブンは基本的に全店で、インテリアカラーや照明の強さなどを統一しています。しかし今回の店舗は「オフィスのオアシス」をコンセプトにしたかったので、床を木目調にしたり、ダウンライトをぶら下げたり、什器を黒と茶で統一したり、内装についてもNECさんと検討を重ねました。そのため、社内でも細かい部分のすり合わせが必要でした。
関係部署をヨコでつなぐ。NECメンバーも一緒に、セブン‐イレブン社内調整に奔走
HIP:各部署とやり取りをしていたら、あちらとこちらで矛盾するルールややり方が発生する場合もあります。今回はどうでしたか。
セブン‐イレブン佐藤:もちろんありましたよ(笑)。ただそこは、膝をつき合わせながら、丁寧に説明をするしかない。
セブン‐イレブン田澤:わかってもらえるまで、毎日のように突撃したり(笑)。
NEC田原:この調整は、私もお手伝いさせてもらいました。結局、局所的に見ていくと、どちらの意見も正しいことが多い。その場合、状況に応じて、さらに上のレイヤーでルールをつくるしかありません。
現状の仕組みは、既存事業を上手く動かすために最適化されています。しかし今回のプロジェクトは、それを全部変える新しいチャレンジ。関係する部署をつなぐ人がいなければ実現しません。会社の垣根を越えて「省人型コンビニプロジェクトチーム」として、その役割を担えればと思っていました。