Web3と金融領域の相性の良さを生かす
HIP:言われてみると確かに、新しいキャンペーン手法にもつながっていきそうですね。ところで、この記事の読者には「そもそもNFTって?」という方も少なくないと思います。そこで今回のキャンペーンに絡めつつ、簡単にNFTのことをご説明いただけないでしょうか。そもそもNFTは「Web3(ウェブスリー)」というテクノロジートレンドに含まれることばですよね。
大島拓也氏(以下、大島):Web3をものすごく大雑把に言うと、「デジタルデータを民主化する」という流れのことを指しているといえます。その実現には「ブロックチェーン」という新しい暗号技術が欠かせませんが、そのブロックチェーンによって作成された代替不可能なデジタルデータのことをNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)と言います。

HIP:これまでのデジタルデータは簡単に複製ができましたが、NFTは複製ができない唯一性のあるデータ、ということですよね。しかし今回のように、コンビニ募金の証としてNFTを配布しようと考えたのはなぜだったんでしょう?
徳永:あえて迂遠な話をすると、たとえば僕がスマホのソーシャルゲームをやっていて、10万円課金してレアなキャラやアイテムをゲットしたとします。でも、そのキャラやアイテムって、果たして僕が所有していると言えるんでしょうか?
HIP:……ソーシャルゲーム会社がゲーム開発をやめてしまうと、頑張って手に入れたはずのキャラやアイテムもなくなってしまうので、必ずしも自分が所有できているわけではない、といえそうですね。
徳永:そのとおりです。これらのデジタルデータは、ゲーム会社が管理している中央のデータベースにアクセスできなくなれば、「自分のもの」ではなくなってしまいます。ところがNFTであれば、分散的にデータを管理できるので、「自分のもの」にできるわけです。

大島:いま「イノベーション」といえば、ChatGPTに代表される生成AIの分野に注目が集まり、Web3は勢いを失っていると感じていらっしゃる方も多いかもしれません。しかし、Web3の技術の金融領域との相性のよさは、非常に魅力的です。
HIP:デジタルな資産は、必ずどこかで管理する必要があります。
徳永:そのために「ウォレット」というものがあって、これは文字通りお財布=つまりNFTなどを受け取るためのものです。NFTを受け取るにはウォレットのアカウントが必要になるのですが、我々SUSHI TOP MARKETINGの技術では、スマホさえあればアカウントがなくてもNFTを受け取ることができます。
HIP:ユーザーはとりあえずNFTを受け取ることができて、さらにNFTに触れるなかでウォレットが必要だとなってからウォレットをつくればいいわけですね。
大島:私たちがSUSHI TOPさんにお声がけをしたのはまさに「ウォレットなしでも受け取れる」という点にあります。敷居が高そうに見えるNFTへの入口のソリューションを提供してくれたからなんです。

NFT活用が環境保護活動につなげられる?
HIP:気になるのは、セブン銀行はこれからNFTをどういうふうに活用していこうとしているのか? という点です。
山方:私は顧客理解のために活用できると考えています。ATMは年間で約9億回も使われています。セブン銀行の口座を持っている方がATMをどう使っているかは把握できても、それがどんな人かはわかりません。さらに、他行の取引となると、その内容は一切見えないんですよ。
徳永:そもそもセブン銀行さんもそうだと思うのですが、大きな企業ほど個人情報を取りたくはないものなのです。なぜかというと、当然ながら厳重な個人情報保護が必要になってしまうからです。
HIP:近年はGoogleやFacebookなどのメガプラットフォーマーが、個人情報をあまりに多く集めすぎていることが問題になっていますよね。大企業は顧客のデータは欲しいけれど、実は大量に集められるのがいいとも限らない、と。
徳永:その問題を解決してくれるのがブロックチェーンなんです。ブロックチェーンには「透過性」と呼ばれる特徴があるのですが、これは簡単にいえば「他の人のウォレットが見える」ということ。だけど、そのウォレットの持ち主が「誰なのか」はわかりません。つまり、どんなNFTを所有してるかによって、個人名と切り離したかたちでその人の行動や嗜好がわかるわけです。これってまったく新しいパラダイムで、僕らは「トークングラフマーケティング」と言っています。

HIP:Web3の技術を活用すれば、顧客の個人名を特定しないかたちでマーケティングデータが蓄積できるわけですね。しかし、そうして蓄積したデータをセブン銀行はどのように活かしていきたいのでしょうか。
山方:今回の集まった募金はセブン-イレブン記念財団さんの環境保護活動に役立てさせていただくわけですけど、本当は体験まで届けたいんです。
HIP:「体験まで届けたい」とは、どういうことなのでしょう?
山方:たとえばNFTを持っている方に、植樹活動に参加していただくことができたら、と考えているんです。
大島:今回の「NFT募金」の取り組みを実施してみて思ったのは、そもそも社会貢献活動にあまり興味のなかった人たちがたくさん参加してきてくれたということです。社会貢献活動って、かなり多くの人が「興味はあるけれど、行動は起こしていない」という状態です。しかし今回の企画では、それらの社会問題に興味はあるけれど行動までは起こせていなかった人たちに「募金」というかたちで参加してもらえた。今まで越えられなかったハードルを、NFTを使って越えてもらうことができたんです。これはやっぱり面白いなと。

HIP:貧困国に行く体験をしたり災害を経験したり、あるいは子どもができて未来のことを考えるようになったり。社会貢献活動の大切さをわかっていても、巨大なライフイベントがないと、なかなか行動にまで至れないですよね。でもそういうライフイベントがなくても、ハシゴを登ってもらえるようなものとしてNFTが活用できるかもしれない、と。
大島:セブン銀行という金融の会社に入って感じたのは、「ワクワクする企画」はどうしても生み出しづらい、というジレンマでした。でも今回の企画を通して、「ちょっとできたかも」と思う部分があります。
HIP:たしかに金融機関は社会インフラとしての使命感が非常に強いがゆえに、「ワクワクを生み出す」という発想に行きづらいかもしれません。ですが金融を経由して環境保護活動に参加してみたりとか、今までにない出会いが生み出せる可能性があるのは面白いですね。
オープンイノベーションが生まれる「場」として?
HIP:ここまでお話を伺って、今回のNFT募金キャンペーンの可能性が見えてきたように思います。最後に、この企画が生まれてきたきっかけをお伺いできますか?
山方:私と大島で、ATMでのNFT配布のアイデアを検討していて、肝心の「手段」をどうしようか相談しているときに、徳永さんがオンラインでピッチをしているのを拝見して「この人だ!」と(笑)。

徳永:ちょうど1年前、2022年の秋のことで、「スタートアップと大手企業のオープンイノベーション」をテーマに話しました。当時のSUSHI TOPはまだ創業して1年足らずで、しかもコロナ期間中だったこともあって、いろいろと苦労していました。わたし自身は今日初めてこちらのARCHさんにお邪魔しましたけど、こういうふうにベンチャーと大企業が集まってフェイス・トゥ・フェイスでお会いできる場があると、今回のようなオープンイノベーションも加速させられそうだと感じます。
山方:わたしは今年の始めからARCHに来るようになったんですが、もともと入居者に何人も知人がいて、「最近どう?」とお互いに壁打ちできるので、すごく刺激をもらっています。これからどんどん事例を生み出してオープンに共有し、「何か一緒にやろう」という心持ちで交流できたらと思っています。
大島:わたしは先日、ARCHのランチ会でNFT募金のお話をさせてもらって、終わったあとの名刺交換の際に、大手企業でWeb3に取り組んでいて、同じように悩まれている方とも知り合うことができました。ここに来なければ絶対生まれなかった繋がりだなと思います。
山方:ここは新規事業に前向きな方々と交流できる場なので、非常にありがたいですね。コンビニATMは本来オープンなプラットフォームなので、もし「一緒にやりたい」という企業さんがあれば、お声がけいただきたいなと思っています。
HIP:ARCHに限らず、会社の枠を超えて、しかも顔の見える距離で、オンタイムで日常的にコミュニケーションできる場を持っておくことがオープンイノベーションの鍵なのかもしれないですね。
Profile
プロフィール
山方大輝(やまがた・だいき)
1990年生まれ。2014年にSMBC日興証券に入社し、リテールセールスに従事。その後、投資情報部にて個人投資家向けの金融市場のリサーチ業務を担当後、2020年9月からセブン銀行にジョイン。
大島拓也(おおしま・たくや)
1998年生まれ。大学在学中のベンチャー企業でのインターンを経て、2021年にセブン銀行に入社。現在は、ATMソリューション部ITデザイン室所属。
徳永大輔(とくなが・だいすけ)
1989年生まれ。出版社の山と渓谷を経て、インプレスHDの子会社、天夢人で書籍プロデューサーを経てメディア事業で起業。2021年、SUSHI TOP MARKETING株式会社を起業。
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