INTERVIEW
社内コンペに応募1,000件。リクルートの新規事業「育成術」をAirシリーズ統括に聞く
林裕大(株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 Air事業ユニット Airシリーズ総括プロデューサー)

INFORMATION

2020.01.20

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昨年10月にスタートした消費税増税、軽減税率制度で、小売店や飲食店などの店舗は新しい税制への対応を迫られた。そのタイミングで大きな注目を集めたのが、株式会社リクルートライフスタイル(以下、リクルートライフスタイル)が提供する「Airレジ」だった。

「Airレジ」は、iPhoneやiPadにダウンロードして使うPOSレジアプリ。会計だけにとどまらず、集計や売上分析、商品管理、顧客管理などのひととおりの機能を無料で使え、直感的に操作できる手軽さから、約45万もの店舗に選ばれているという。

そもそもリクルートライフスタイルといえば、「ホットペッパーグルメ」や「じゃらん」などメディア事業のイメージが強いが、はたして「Airレジ」はどのように生まれたのだろうか? 「卒業生」の起業家も多く輩出するリクルートグループの新規事業開発の裏側を探るべく、「Airレジ」を含むAirシリーズ総括プロデューサー・林裕大氏に話を聞いた。


取材・文:大橋博之 写真:玉村敬太

店舗の抱える課題を、リクルートのアセットでどう解決できるか?

HIP編集部(以下、HIP):リクルートライフスタイルといえば、「ホットペッパーグルメ」や「ホットペッパービューティー」「じゃらん」などのメディア事業を手がけています。そこからどうしてレジのサービスが生まれたのでしょうか。

林裕大氏(以下、林):リクルートでは挙げていただいたようなメディアを通じて、さまざまな業態の店舗の集客を広告でお手伝いしています。一方でその店舗の経営者の方々と現場でお話しするなかで、じつは集客だけでなくさまざまなバックヤードの店舗管理業務にも課題を抱えているという声を数多くいただきました。それをなんとか当社が解決できないかと考えたのが始まりです。

株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 Air事業ユニット Airシリーズ総括プロデューサー 林裕大氏

HIP:俳優のオダギリジョーさんが出演するCMが話題の「Airペイ」など、レジだけではなくさまざまなサービスを展開していますね。

:そうですね。2013年にリリースした「Airレジ」に始まり、お店の決済サービスの「Airペイ」や、受付管理の「Airウェイト」、スタッフのシフト管理の「Airシフト」など、現在10のサービスをAirシリーズとして展開しています。

店舗が抱える悩みを、われわれが持つアセットやテクノロジーでどう解決できるか。そのかけ合わせでサービスを進化させています。

テクノロジーの力で、中小店舗の「本社機能」を代替。店舗を活気づけ日本を豊かに

HIP:いきなりPOSレジサービスを始める、といっても、すでにできあがっている市場に入り込める勝算はあったのですか?

:たしかに全国展開している大規模チェーン店の多くは、カスタマイズされた独自のPOSレジを使用しています。でも、中小規模の店舗ではいまだに、POS機能(販売情報を記録、集計し、在庫管理や売上分析を行うシステム)がついていない昔ながらのいわゆる「ガチャレジ」を使っているところや、電卓と紙伝票を使っているところも多い。入り込める余地はあると思っていました。

HIP:大手ではなく、中小規模をターゲットにしたのですね。

:はい。一つひとつが小さくても、事業者数でいえば中小は日本の99.7%を占め、マーケットとしては広大です。中小事業者が抱える課題に踏み込み、具体的に業務を改善するソリューションを提供できれば、インパクトは大きいと考えていました。ひいては、労働者人口の減少という大きな社会課題の解決にもつながるのではと。

大規模チェーン店であれば、店舗の経営戦略や人材確保、オペレーションの最適化などは本社が立案し、各店舗はそれを実行しています。ところが中小の店舗では、運営課題の特定から解決策の実行までのすべてを経営者が行っている。自らお店に立ちながら膨大な量の管理業務をこなしています。また、アナログな作業も数多く残っています。

私たちがテクノロジーの力でこうした業務を少しでも効率化することができれば、中小店舗の経営者の管理業務は軽減され、もともと思い描いていたお店づくりに注力できるようになる。中小の店舗がもっと活気づけば、多様性のある街になり、そこで暮らす人の生活も豊かになるのではないかと思ったんです。

無料の「Airレジ」アプリをダウンロードし、周辺機器と接続すれば利用がスタートできる(写真提供:リクルートライフスタイル)

数名のプロジェクトが4年で400名に。オペレーションの変革が追いついていなかった

HIP:林さんご自身は、Airプロジェクトに携わる前は何を担当されていたのですか?

:新卒で入社して、最初は札幌で「ホットペッパーグルメ」の営業を担当しました。もともと企画をやりたいと思っていたのですが、現場を知らない企画担当になりたくなかったので、「まずは営業に配属してください」と言ったのです。5年くらい営業をやってから、「ホットペッパーグルメ」の商品企画に異動しました。

そのあとも新規事業やUXなどいろいろ担当して、2017年4月からAirプロジェクトに参加することになりました。

HIP:当時、Airプロジェクトでどんなミッションを与えられたのですか?

:上長からは「Airレジ」のプロダクトオーナーとして着任してほしいとオーダーを受けていました。ただ、ひととおり事業部の環境を見るなかで、まずは組織体系、事業体系を一度整えたほうがいいのではないかと感じました。そこでものづくりは別の方におまかせして、自分はチームの整備に注力することにしたのです。

HIP:どんな課題があったのでしょうか。

:「Airレジ」はもともと、数名のプロジェクトとして2013年にスタートしましたが、ぼくが着任したときにはすでに約400人もの規模になっていました。ところが、業務オペレーションはプロジェクト開始当初のままだったのです。

10人、20人なら集まって会議をすれば意志統一は図れますが、400人となるとそうはいかない。それゆえに認識齟齬が多発していましたし、事業としての意思を決めるフローも形骸化していて、何がどこで決裁されたのか見えにくい状況でした。

また、役割分担も事業初期の頃のままでした。一般的にプロジェクトの立ち上げ時は役割を分担しすぎず、みんなが全部ひととおりできる体制で進んでいくほうが効率的。ですが事業部が大きくなってからもその名残があり、一人ひとりの属人的な働きに頼りすぎていたのです。

もったいないなと感じました。400人が同じ方向を向いて進めたら、もっとすごいパワーが出るはずなのに。力の出力の方向がバラバラだったのです。

新規事業創出コンペに応募1,000件。「立ち話から生まれた事業も」

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