ここ数年、ChatGPTをはじめとした生成AIのビジネスへの活用が注目されているが、日本企業の導入率は他の先進国に比べまだ高くない。生成AIを使ったことはあっても、自分が望む回答が得られなくて、継続的に活用できていない人も少なくないだろう。
「生成AIを使いこなすには、プロンプトエンジニアリングという概念を知ることが重要」と語るのは、生成AIのビジネス活用を支援する株式会社スパイクスタジオのCEOで、日本プロンプトエンジニアリング協会の代表理事も務める黒柳茂氏だ。
プロンプトとは、生成AIに投げかける指示や命令のこと。プロンプトの設計や最適化次第で、得られる情報の質は大きく変わってくる。果たして生成AIは、新規事業を創出するためにどう役立てられるのか。人間とAIが共創していくための「使いこなし方」を黒柳氏に聞いた。
生成AIを使いこなすために必須の「プロンプト」とは?
- HIP編集部
(以下、HIP) - 黒柳さんはさまざまな企業のAI活用を支援していらっしゃいますが、日本企業における生成AIの活用をどう見ていますか。
- 黒柳茂氏
(以下、黒柳) - スピード感を持って導入している企業も少なくありませんが、社内で生成AIが使える環境を用意しても、なかなか使ってもらえなかったり、継続して使ってもらえなかったりという課題はありますね。
- 黒柳
- たとえば、プログラミング言語、もしくはPhotoshopやIllustratorのようなデザインツールであれば「まずは扱い方を勉強しなければ」と誰もが思いますよね。一方、生成AIの場合、自然言語——私たちが普段話している言語——で扱うことができるため、多くの人は、「勉強しなければ」という意識を持ちにくいのだと思います。
しかし、実際はユーザーが望む回答を引き出すためのテクニックがあり、それを学んでいく必要があります。私が推進している「プロンプトエンジニアリング」は、生成AIから望ましい結果を得るための指示・命令(プロンプト)を設計、最適化することなんですね。
- HIP
- なるほど。ビジネスシーンで実用的な活用ができるプロンプトをあげるとしたらどのようなものがありますか。
- 黒柳
- 代表的なものは2つあり、1つは「ゴールシークプロンプト」ですね。そもそも自分が求める答えを導き出す問いがわからないときに、生成AIからの質問に答えていくことで最適なプロンプトが得られる、というものです。
- 黒柳
- もう1つは、ソフトバンクグループの孫正義会長も活用していることで知られる「無限議論プロンプト」があります。生成AIに【専門家1】、【専門家2】、【専門家3】などのロール(役割)を与え、あるトピックについて無限に議論させることが可能なプロンプトです(※)。
これらは誰でも簡単に使えるので、まずは試してみて、「生成AIは思ったよりいろんなことに活かせるな」ということを体感していただくのが良いと思います。
※ロールを与え、ゴールを設定したうえで、「トピックについて交互に発話させ課題と解決方法も混ぜながら、水平思考を使い議論してください。ゴールに向かって議論してください。かならず{ゴール}について結論を出してください」というプロンプト
「創造性」にこそ生成AIの可能性がある?
- HIP
- 先ほど紹介していただいたプロンプトを使って、実際に新規事業を推進するとしたら、どのように使うのでしょうか。
- 黒柳
- 私がよくやるのは、無限議論プロンプトを使って、各業界の未来について生成AIに議論させることです。たとえば、オフィスビル事業を担当しているのであれば、「10年後のオフィス賃貸市場はどうなっているか」など、テーマを設定すれば事業アイデアのヒントに役立てることができると思います。
- HIP
- なるほど。しかし生成AIはサマリーをつくったりするアシスタント的な業務は得意だけれど、斬新なアイデアを創造するのは苦手な印象があります。
- 黒柳
- いえ、そうとも言い切れないんです。たとえば「あなたはSF作家です」というロールを与えて、「20年後の語学学習はどうなっていますか」と問うてみると、「紙はまったく使わず、脳に直接USBメモリのようなデバイスを挿して学んでいます」といった、突飛なアイデアが出てきたりします。
- HIP
- 生成AIはむしろ創造性の部分を担うことができる、ということですか。
- 黒柳
- はい、私はそう考えています。生成AIは経済指標などの現実のマーケット情報も当然把握していますが、同時に人間の何万倍ものSF作品を学習しているので、突飛なアイデアを出すのも得意なんですね。クリエイティブ業界で活躍する人たちで、すでに生成AIを使っている方々は、こういった部分で活用していると思います。