新型コロナウイルスによる外出自粛で、オンライン上のやりとりが増えた昨今。とくにビジネスシーンでは、会議だけにとどまらず、イベントやセミナーなどもオンライン化の流れが加速している。
「今後はワークショップもオンラインが主流になる」と語るのは、タキザワケイタ氏だ。大手広告代理店でワークショップデザイナーとして15年間にわたり活躍してきた同氏は、2020年4月にPLAYWORKS株式会社を創業した。今後は、オンラインワークショップに注力していくという。
同じ空間で協働作業を行うのが、これまでのワークショップの常識だったが、はたしてオンラインの可能性とは? 実践的なテクニックも含めてお話をうかがった。
取材・文:吉田真也(CINRA)
(※本取材はオンラインで行い、写真は提供画像を使用しています)
リアルもオンラインも、ワークショップの本質は変わらない
HIP編集部(以下、HIP):タキザワさんにお話をうかがった前回の記事が2017年12月。そのときは「ワークショップデザイナー」の肩書きでしたが、いまは「オンラインワークショップデザイナー」を名乗られていますね。
タキザワケイタ氏(以下、タキザワ):はい。2020年4月に、ワークショップを活用したコンサルティングやサービスデザインを行うPLAYWORKS株式会社を立ち上げた際、その肩書きにしました。
HIP:オンラインに特化したのは、やはり新型コロナウイルスの影響が大きいですか?
タキザワ:そうですね。これまでは「ワークショップはリアルでやるからこそ意味がある」と、私自身も思っていました。でも、緊急事態宣言によって社会全体がテレワークや在宅勤務の流れになり、ワークショップもオンライン化は逃れられないと危機感を持ったのです。肩書きを変えたのも、自分自身の覚悟の現れでもありました。
それで、ワークショップの意義や本質はそのままでも、社会の状況に応じて手段は柔軟に変えていく必要があると判断。3月初旬からオンラインでのトライアルを始め、改善を繰り返しながらプログラムをデザインしていきました。現在は、6つのメニューを提供しています。
HIP:オンラインでのやり方を模索するなかで、リアルとの違いを感じることはありますか?
タキザワ:リアルもオンラインも、ワークショップの本質は変わらないです。目的の達成に向けて、問いの設定や手法の選択、プログラムデザインなどを準備していくだけですから。
ただ、オンラインならではのファシリテーションのコツはあります。たとえば、Googleスライドやスプレットシートなどのデジタルツールを使うと、リアルタイムにワークの進捗が把握できる。これにより、作業が遅れている参加者やグループのフォローも容易になります。さまざまなデジタルツールを活用できるのは、オンラインの特性ですね。
あえてアナログツールを使う。参加者の「創造性」を上げるテクニック
HIP:たしかに、デジタルツールを駆使できるかが肝になりそうです。
タキザワ:一方で、付箋や紙、ペンなどのアナログツールを使って、参加者に手を動かしてもらうのもおすすめです。身体性を伴うことで「創造力」が発揮されやすくなる。これはリアルなワークショップで実証してきたことですが、パソコンに向き合う時間が長いオンラインワークショップでは特に効果的です。
このように、リアルでやっていたことをオンラインに変換するなかで、いまは向き不向きを検証する段階です。長所は最大化させて、弱点はほかの方法で克服していくことを意識しています。
HIP:ほかにもオンラインの特徴があれば教えてください。
タキザワ:世間的にまだオンラインでのコミュニケーション経験が少なかったり、ツールへのリテラシーが高くなかったりするので、ワークショップへの参加に不安や緊張を感じる方が多いと思います。
オンラインだと発言時に注目が集まりますし、画面越しだとちゃんと伝わっているか不安になる。その不安や緊張感を払拭するためのアイスブレイクを実施しています。ワークショップの冒頭で喋る機会をつくると、以降も話しやすくなるんですよね。
HIP:そのアイスブレイクのコツがあれば知りたいです。
タキザワ:いろいろと試してみて効果的だったのは、「くらだないモノ紹介」です。突然、「家にあるもっともくだらないモノを1分で取ってきて!」と指示し、それを用いて自己紹介してもらいます。
HIP:借り物競争みたいで楽しそうですね。
タキザワ:これには、ふたつの意図があります。ひとつが「物理的にパソコンから離れる」こと。オンラインだとパソコンの前にずっと座ってないといけないイメージがありますが、そこから離れることで緊張がほぐれますし、アイデアを考える際の視野も広がります。
もうひとつの狙いが、「人となりを知ってもらう」こと。いつもの自己紹介では伝わらないプライベートな面を見せることで、一気に距離が縮まりチームビルディングになるんです。ワークショップに限らず、テレカンの社内外ミーティングなどで実施したら、一瞬で雰囲気が変わると思います。
大人数には向いてないが、1対1にはむしろ向いている
HIP:オンラインならではの強みがある一方、何か弱点はありますか?
タキザワ:ワークショップに限らず、オンラインは5人以上のディスカッションには向いていません。人数が多いと各自の発言機会が少なくなり、創発的な場になりにくいんですよ。
一方で、4人以下のディスカッションやブレストは活発になるので、個人ワークやペアワークは向いていますね。オンラインは自分だけの空間で内省や個人作業に集中できるため、1対1での濃密な対話に有効です。
HIP:では、参加人数が多い場合はどうすれば良いですか?
タキザワ:少人数のグループをつくり、メンバーをシャッフルしていくのがおすすめです。リアルだと最初から最後までグループを固定することが多いと思うのですが、それだと多様性を狭めてしまう。メンバーをシャッフルすることで、いろいろな意見や考えが混ざり合い、新たなアイデアが生まれやすくなります。
ちなみに、Zoomの「ブレイクアウトルーム」機能を使えば、簡単にランダムなグループをつくれます。わざわざテーブルを移動しなくて良いのも、オンラインのメリットですよね。
HIP:オンラインのベストなやり方を模索するなかで、逆にリアルのほうにメリットを感じたことはありますか?
タキザワ:プロジェクトのメンバー全員で本音をぶつけ合う場面ってあるじゃないですか。「言葉じゃなくて、魂で感じ合う」みたいな。ああいうターニングポイントになるような空間をオンラインで実現するのは難しいですね。
あとは、演劇などの身体表現やプロダクト開発でプロトタイプ(試作品)を扱うときなど。ディテールの検討を画面越しに行うのは限界があると思います。
そう考えると、100%オンラインということにはならないと思います。効率性や利便性においてはオンラインのほうが優勢ですが、今後はリアルとオンラインそれぞれの特徴を理解したうえで、うまく併用しながらプロジェクトを推進していくことになるでしょう。