先に答えを出すことをやめ、ひたすら問い続ける
HIP:朴さんはアンカースターに来て3か月が過ぎたということですが、いまはどのような業務を担当し、どんな学びを得ていますか?
朴:現在は、4つのプロジェクトに携わっています。クライアント企業の新しいデジタル教育事業のサポート、企業役員と今後の事業戦略について考えるためのデジタル勉強会に向けた資料の作成、アンカースターの今後の新規事業の立上げ、NTT東日本の出向社員たちによる「NTT東日本を変えようプロジェクト」の立上げですね。
どれもNTT東日本のときとは違う領域で、とてもおもしろいです。営業をしていたときは、所属する部署の担当ミッションの成果を最大化していくことをずっと考えていました。悪く言えば、一部署の成果のことしか見ていなかったんですよね。
それがアンカースターに来たことで、その目線がググっと上がったように思います。地上階から高速エレベーターに乗って、一気に45階まで連れてこられたような感覚です。
HIP:さまざまな企業にコンサルタントとして入り、そのビジネスについて一緒に考えることで視点が広がったということでしょうか?
朴:そうですね。アンカースターという会社を一言で表現するのは難しいのですが、少なくとも一般的なコンサルタントとはまったく違うかなと思っています。
黒柳茂(以下、黒柳):補足すると、アンカースターのすべての社員は、海外で育ったり長い間外資系企業に勤務していたり、複数の会社で勤務した経験があったり、必ず国や組織の複数の文化をまたいできた人材で構成されています。日本の進化をゴールに、海外のパートナーたちとともに日本やクライアント企業の様々な事象をグローバルかつ複眼的にとらえているので、必然的に自分の目線が上がってくるんです。
朴:あと、アンカースターには1つの事象に対して深く考え抜き、自分の言葉で表現する文化がありますね。たとえば「オリンピックの開会式などについてどう思ったか?」と聞かれれば、自分なりの視点で意見を言い合う。
たとえば、「私は、多くのことを大切にする時代になってきているなかで、国境というくくりで入場していく光景に違和感を感じるようになりました」など。世界の変化や出来事に目を向け深掘りし、自分の意見を持って議論し合う文化があります。
黒柳:ただ「良かったです」なんて言えば、児玉にめちゃくちゃ怒られますからね(笑)。「具体的に、どこがどう良かったんだよ!」って。それは児玉やメンバーのみんなが、自分たちの体験を共有し合うことでお互い高め合うことを大事にしているから。
朴:まさにそうですよね(笑)。自分たちの体験を共有し合えば、個々の経験に加え、ほかの人の経験も糧にできると考えているんです。これって大企業にはあまりないカルチャーや考え方で、ぼく自身にも欠けていた部分。これ以外にも日々、自分の課題を見つけて必死についていっています。
HIP:たとえば、ほかにどんなところが課題だと感じましたか?
朴:一番は、コレという自分の世界観を持てていないことですね。アンカースターはそれぞれが、自分の得意分野を軸にした確固たる世界観を持っています。
たとえば、ここにいるシゲさん(黒柳)は、一流のデータサイエンティストですし、ほかにもグローバルな視点に長けている人、政治や経済に精通したメンバーなど、コレという自分の世界観を持っている。
各自がその世界観を軸にプロジェクトと照らし合わせて行動したり、発言したりしているんです。それはスキルというよりも、もっと本質的なもの。
HIP:各自の世界観が作用した例でいうと、どんなプロジェクトがありますか?
黒柳:某大企業の睡眠の新規事業の立上げを一例に話します。アンカースターと話す前まではその企業は、いかに自社サービスを世の中に広げていくのかという観点で話が進んでいました。
しかし、そこにアンカースターが入ることで、その企業の考えは、大企業なら睡眠市場を大きくするために他企業が参入できるような仕組みを作っていくべきだという方向に変わりました。大企業には大企業の戦い方がある。まさにアンカースターらしさを体現している良い事例だと思っています。
朴:こうした世界観は自分自身が仕事をする意味、もっと言えば「自分の仕事で世の中をどう変えたいか」みたいなところにも通じるのではないかと思います。いまのぼくは、いかに収益や利益を最大化するかという観点しか持てていない。この3か月で痛感しましたね。
HIP:一緒に仕事をしている黒柳さんから見ていかがでしょう? 朴さんの当初の印象と、この3か月で成長したと感じる部分はありますか?
黒柳:まず、彼はとても素直ですね。自分に足りないものを素直に自覚して学ぼうとする姿勢を持っている。大企業から来る人って、いままでのやり方をなかなか変えることが難しかったりもするのですが、彼はそれをあっさり捨てて、新しいものを吸収しようとしています。そして、ドライブ力があります。次の日には新しいアウトプットがすぐに出てくる。
黒柳:スライドのつくり方ひとつ、プロジェクトの流れのつくり方ひとつとっても、最初はめちゃくちゃきっちりしていました。悪いことではありませんが、きっちりし過ぎていて臨機応変さに欠けていた。
プロジェクトって流動的なもので、進めていくなかで新たな情報が得られたり、お客さんの状況も変わったりしていきますよね。
最初の時点ではとらえられなかったプロジェクトのキーファクターが、急にぽっと出てくることもある。そうした変化に合わせ、柔軟にアプローチを見直していく必要があるのですが、彼はこの3か月でその柔軟性が着実に身についてきたと感じます。
朴:まさにいま、自分の足りていない部分を言い当てられましたね(笑)。これまでは自分であらかじめゴールを設定し、そこに向けてひたすらPDCAを回していくようなやり方でした。
こっちに来てからは先に答えを出すのではなく、ひたすら問い続けることを心がけています。それによって目線がどんどん高くなっていくようにも思います。先に自分のなかでゴールを持ってしまうと、それ以上の広がりがなく、結果として、可能性が狭まってしまうんです。
1年後、どんな自分になっているか楽しみ
HIP:アンカースターへの出向期間は1年。残りの8か月でどんなことを得たいと思っていますか?
朴:最近それをあらためて考え、マンダラチャートに落とし込んでみました。野球の大谷翔平選手が高校時代からやっていた目標達成シートですね。
朴:まず、ぼくの目標は中央の「ビジネスをスケールさせる」こと。NTT東日本に戻ったときに、収益の柱になるようなビジネスを立ち上げたいと思っています。そのために必要な9つの要素とその要素ごとに必要な9つのスキルを書き出しました。
このうち、アンカースターで重点的に学んでいるのは右側の一列にある「意識」「センス」「ハードスキル」の部分で、NTT東日本で学びアンカースターでアップデートされているのが真ん中上の「スタンス」と左上の「仲間」の部分です。
NTT東日本で学び、今も非常に生きている自分の強みは右下の「ソフトスキル」「メンタル」ですね。こうして書き出してみると、足りないことも多いですね。とくに「センス」の部分はまだハッキリと言語化すらできていません。これも、この1年でしっかり定義づけできるようにしたいと思っています。
ただ、このシートもこれで確定というわけではありません。先ほどお話したように、自分に問い続けていくうちにゴールが変わるかもしれない。もしかしたらビジネスをスケールさせたいという目標や骨子自体が変わる可能性だってあります。
問い続けた結果、1年後にどんなことを考えているのか、どんなスキルを身につけているのか。そこは、自分自身でも楽しみですね。