INTERVIEW
日本屈指の大企業が抱く、圧倒的な危機感とは?『HIP meetup』レポ
児玉太郎(アンカースター株式会社) / 小松原威(株式会社WiL Partner) / 河合秀治(セイノーホールディングス株式会社) / 柴田裕(JR東日本スタートアップ株式会社)

INFORMATION

2020.11.09

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日本屈指の大企業が抱く、「超・圧倒的」な危機感とは?

セカンドセッションでは、実際に大企業で新規事業にチャレンジしている二人の担当者が登壇。河合秀治氏は物流大手のセイノーホールディングス株式会社(以下、セイノーHD)で、柴田裕氏はJR東日本株式会社100%出資のコーポレートベンチャーキャピタル・JR東日本スタートアップ株式会社で、それぞれ新規事業を担当している

河合氏と柴田氏には共通点が多い。河合氏はセイノーHDのラストワンマイル推進室室長でありつつ、自ら立ち上げた社内ベンチャーの代表も兼務する。いっぽう柴田氏もJR東日本に籍を置きつつ、JR東日本スタートアップでは経営者という立場で新規事業を手掛けている。

どちらも大企業に属しつつも、グループ企業で経営者の肩書を持ち、ある程度の裁量権を与えられているという。また、セイノーHDは物流、JR東日本スタートアップは鉄道という、ともに生活インフラを支える企業グループでもある。

左から、河合秀治氏、柴田裕氏

さらに、新規事業にかける姿勢も非常に近しいものがある。河合氏が、「これまでにアクセラレーションプログラムもVC出資も、CVCもすべてやりました。とにかく必死に、なんでも全部やろうとしています」と語ったのに対し、柴田氏は「弊社はアクセラレーションプログラムの運営が主ですが、そこから一つでも多く事業化したいと考えています。年間20件くらいのプロジェクトを採択しますが、年度内に最低でも実証実験を行うことを目指してやっています」と話す。ともに、非常にがむしゃらな姿勢がうかがえるのだ。

そんな二人の話を受け、モデレーターの児玉氏から「盤石にも思える本業を持つ会社が、なぜそうまで積極的に新規事業を推進するのか?」という疑問が投げかけられる。

これに対しても「危機感」と、両者の回答は一致。特に柴田氏は「『超・圧倒的』な危機感がありました」と、JR東日本スタートアップの設立の背景を次のように振り返った。

柴田裕氏(以下、柴田):日本では人口減少が加速していますし、コロナ以前から働き方改革が進んでいました。このままでは近い将来、みんなが鉄道に乗らない時代がやってくるのではないか。そう考えていました。

JR東日本では、2018年に策定した10年間の中期経営ビジョンでもこのことについて言及。10年後に訪れるかもしれない未来として「閑散とした鉄道車両」のイラストを掲載するなど、強い危機感を持っていたと柴田氏は明かす。そこで、JR東日本が持つインフラとベンチャー企業のアイデアやテクノロジーを掛け合わせ、新しい事業を生み出すためにJR東日本スタートアップが設立されたのだという。

いっぽうセイノーHDにもやはり、いずれ本業が立ち行かなくなるかもしれないという危機感があったようだ。それに加え「物流インフラを担う会社の社会的責任として、さらに大きな価値を提供したいという思いもありました」と河合氏は語る。日本の物流業界は長年、同じ仕組みで動いており、価値や利便性があまり向上していない。これを変えるためには、まったく違う角度からの変革が必要だと訴えた。

河合秀治氏(以下、河合):新しい事業をつくることで、物流の価値も向上させる。そんな考え方をベースに、ベンチャー企業などとオープンイノベーションの取り組みをしています。面白い事例を一つ挙げると、西濃運輸の物流センターの2階にレタスの栽培工場をつくりました。これにより、物流の少ない時期に収穫タイミングを合わせて、新鮮なレタスを出荷できる。物流の最適化やイノベーションが、一次産業の価値を高めることにもつながるわけです。

キックオフセッションでも語られた「危機感」が、まさに新規事業の発端になったという両社。以来、ともに積極果敢にチャレンジし、新しい事業を生み出し続けている。

やんちゃしてもいい。ただし「黄色い線」の内側で

続いて、児玉氏は「文化が異なる大企業とベンチャー企業が協業する難しさ」をテーマに挙げる。

これまでに多くのベンチャー企業と協業しているJR東日本スタートアップに対し、児玉氏は「スピード優先で、『失敗しても修正すればいい』というベンチャーに対し、JRのような大企業は『安全優先、絶対に事故を起こせない』という考えに基づく企業文化があると思います。そうした文化の違いは、どのように解消しているのでしょうか?」と質問をぶつける。

これに対し柴田氏は「そのギャップは自分たち、つまり大企業側が受け入れることが多い」と回答。たとえば、JR東日本の本体であれば確実にNGが出そうなアイデアが提案されたとしても、JR東日本スタートアップは「出島」の立場であるためGOを出しやすいという。

ただし何でもアリではなく、もちろん線引きはある。特に、誰かを危険に晒すようなこと、鉄道の安全を脅かすようなことは言うまでもなく完全NG。「パートナー企業やメンバーには、やんちゃをしてもいいけど、黄色い線の内側でやってくれと言っています」と柴田氏は語る。

これに、セイノーHDの河合氏も同調。ベンチャー企業と組む際には、安全や安心、ブランドの毀損が起きることがないよう、やはり厳しくジャッジしているという。そのいっぽうで「とはいえ、変革を起こすためには、ある程度のリスクは吸収しなくてはならない」とも述べ、こう続ける。

河合:そこは社内の理解を得るために、われわれラストワンマイル推進室が頑張っています。セイノーHDは、鉄道がメインだった長距離輸送をトラックにシフトさせるなど、もともと物流業のパイオニアで、創業者の時代からチャレンジングなDNAが根付いているはず。そんなイノベーティブな精神を思い起こさせるような言葉を使いながら、上を説得しています。

新型コロナによって常識が激変したいまだからこそ、やれることがある

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