COVID-19による未曾有の危機。それでも未来への投資は止めない
セッションの終盤では、COVID-19の感染拡大による新規事業への影響についても話が及んだ。本業の業績悪化を受け、新規事業をストップさせる企業もあるなか、両社はいまもアグレッシブに新しい価値を生み出そうとしている。
このことについて河合氏は「むしろ、こうした状況だからこそやれることもあるのではないかと、社内の雰囲気は前向きだった」と振り返る。
今回の事態を受け、物流のあり方は大きく変わった。たとえば「置き配」など、これまでには考えられなかったサービスが新しいスタンダードになりつつある。人々の価値変容により宅配の常識が激変したいまだからこそ、ニューノーマルに応じた取り組みを考える契機になっていると、前を向く。
いっぽうの柴田氏も、ここで後退するつもりはまったくないという。むしろ、厳しい状況だからこそ、さらに取り組みを加速させなければならないと決意を語る。
COVID-19により本業の鉄道事業は壊滅的な打撃を受けているが、「鉄道がガラガラになるかもしれないということは、もともと予期していましたから。コロナ禍でそれが一気に前倒しされたのはさすがに予想外でしたが、だからこそよりスピードを上げて新規事業をつくっていかなければならない」と、言葉に力を込めた。本体のJR東日本が早々に「未来への投資は止めない」と宣言したことも、大きな力になっているという。
厳しい状況下でも前向きな両者。その表情には、最前線で変革に取り組む責任者としての覚悟が見られた。
そして、最後は二人から熱いメッセージが語られ、イベントは幕を閉じた。
柴田:ベンチャー企業と仕事をしていて感じるのは、みなさんピュアに夢を追いかけているということ。それって、私たち大企業の人間も、新人の頃は持っていたはずなんです。私自身、若い頃は「この会社でこんなことをやりたい、社会の役に立ちたい」と思っていました。でも、徐々に組織の目標やルールに飲み込まれ、いつしか忘れてしまった。それをいま、取り戻している最中ですね。
ちょっと青臭いですが、「青春リベンジ」をしているんです。こうした夢やチャレンジ精神を少しずつ本社にも伝えていきたいですし、それが広がっていけば本業のアップデートにもつながっていくんじゃないでしょうか。
河合:セイノーHDは、「物流を通じた社会課題解決」というメッセージを発信し続けています。ただ物を運んでいればいいということではなく、事業を社会課題の解決につなげるにはどうすればいいか、真剣に考えていきたい。本業を一気に変えることは難しいですが、さまざまな事業を仕掛けていくことで、物流業のバージョンアップにつなげていけたらと考えています。
合計1時間半の実りあるセッション。第一部では、大企業の新規事業創出は、VCやアクセラレーションプログラムを介したプロジェクトであっても、最終的には自分たちで巻き取る覚悟で取り組むことの大切さ。さらに壮大なビジョン、スケールのビジネスに挑戦できることが、ベンチャー企業にはない「大企業ならではの強み」として語られた。
また、第二部では、安心、安全、ブランド毀損など、リスク管理意識の強い大企業であっても、子会社などの「出島」を介して新規事業に取り組むことで、ベンチャー企業並みの挑戦的なアイデアを試すことも可能だと語られた。
後半のディスカッションでは、大企業の看板を背負う二人が、率直に「自分の言葉」で語ってくれたのが印象的だった。そこには、企業が抱く危機感や社会の課題を自分ごと化して取り組む、圧倒的な覚悟が垣間見えた。そんなことを感じさせるイベントだった。