丸井だからできたFABRIC TOKYOの実店舗
- HIP
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代表的な投資事例についても教えてください。
- 武藤
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私はD2Cカスタムオーダーアパレルブランドを運営するFABRIC TOKYOというスタートアップへの出資を担当しました。丸井グループにはビサルノというメンズファッションのプライベートブランドがあり、もともと、そこでものづくりを手掛けていたので、当時の経験が活かされた案件になります。
2018年からFABRIC TOKYOを担当するようになったのですが、同社はIT企業なので、アパレルのサプライチェーンのパイプをもっている弊社が、工場などの紹介や、棚卸しの仕方など小売の知見・ノウハウについて大小さまざまなアドバイスをしました。
ほかにも、就業規則や社内ルールの相談を受けたり全面的にバックアップをしてきました。
- 相田
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FABRIC TOKYOは当初、スーツの寸法などを行なえる代わりにその場では商品を売らないリアル店舗を探していたのですが、ほとんどの百貨店や商業施設では売上が見込めないからと、場所の提供を受けることができなかったんです。
当社の場合はモノを売らない店舗でも問題ありませんので、そういった部分で共感いただき、共創を進めることができました。
- 武藤
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FABRIC TOKYOとはいまでも協業体制を継続していて、採寸などは丸井の店舗を使用しているのですが、繁忙期にはスペースを拡張するなど柔軟に対応しています。FABRIC TOKYOが丸井に出店したことは、ほかのD2Cスタートアップが出店するきっかけにもなっています。
- HIP
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まさにD2Cの事業ですね。
- 相田
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FABRIC TOKYOとの協業などが、その後の共創投資のフローにも好影響がもたらした側面もあります。
もともと、VCへのLP投資、INDUSTRY CO-CREATIONやB Dash Campといったカンファレンスへの協賛、オウンドメディア「この指とーまれ!」での発信といったさまざまな施策を展開していました。これらは、スタートアップやVCの方々に少しでも丸井グループを認知していただきたいとの意図によるもので、現在も続けております。
一方で、FABRIC TOKYOをはじめとした実績を積み重ねてきたことで、私たちの動きとは別にVCや起業家からのコンタクトがあります。現在は年間200件の新規面談など、安定的なディールフローにつながっていますね。
CVCから社会とのつながりもつくる
- HIP
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最近では、知的障がいのある作家や福祉施設とアートのライセンス契約を結び、さまざまな商品展開を行っているスタートアップ、ヘラルボニーとの共創も進めていますね。
- 武藤
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丸井グループとサムライインキュベートが共同開催しているスタートアップ向けピッチイベント「Marui Co-Creation Pitch」の第1回に、ヘラルボニーが参加したのが共創のきっかけです。ヘラルボニーは障がい者アートのライセンス事業を行っているのですが、ピッチイベントで「ヘラルボニーカード」を提案いただきました。
- HIP
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丸井では「エポスカード」というクレジットカードを展開されていますね。
- 武藤
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ええ。エポスカードは利用額の0.5%をカード利用者にポイント還元していますが、それを「ヘラルボニーカード」にするとポイントの0.1%が自動的にヘラルボニーを通して作家の創作活動やその普及、または福祉団体の活動に還元されるという仕組みになっています。
「ヘラルボニーカード」はローンチの段階からお客様から大変好評です。若い世代には「社会課題に興味があるものの自分がどのように関われるのかわからない」という人が多くいます。
そういった方々に「ヘラルボニーカード」の仕組みを説明すると、「このような社会貢献をしてみたかった」と共感いただき、その場でカードに加入をいただくというケースが多々ありました。
- 相田
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丸井グループはダイバーシティ&インクルージョンを推進している企業ですので、ヘラルボニーの多様性に対する取り組みと重なり合う部分が多くあります。このような共通点があったからこそ、ピッチイベントにも参加してくれたのだと思っています。
- HIP
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FABRIC TOKYOやヘラルボニーのケースは、丸井グループが展開する小売や金融に近しい事業における共創ですが、本業から離れた「飛び地」の事業を行っているスタートアップとの共創はありますか?
- 相田
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ライフイズテックという、中高生向けのプログラミング教室などを運営しているEdTech系スタートアップに出資し、共創しています。当初はプログラミング教室の案内やプログラミング教材を、当社が持つリアル店舗の場で売り出すというかたちを取っていたのですが、店頭プロモーションを展開してみても思うような成果が出ませんでした。
そこで、ライフイズテックと当社の共創チームで議論を重ねていくことに。視点を変えて、私たち丸井グループに目を向けてみると、社内のデジタル化推進に課題があることに気がつきました。
その結果、丸井グループ社員のリスキリング、DX人材育成をライフイズテックに依頼することにしたのです。まずは役員を対象にしたノーコードのプログラミング研修を実施。その後、社員向けのプログラミング研修を行ないました。
- HIP
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たしかに、大企業、有名企業でも本格的なリスキリングはこれからというケースがほとんどかもしれません。
- 相田
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ただ「学ぶ」だけでなく、それを活かす取り組みもしました。ライフイズテックでは、中高生向けのアプリ・WEBサービス開発コンテスト「アプリ甲子園」を10年以上開催しているのですが、昨年には同コンテストの丸井グループ版を行なったんです。
当初考えていた「リアル店舗でプログラミングに関わる商材を売る」というものから、大きく共創の中身を変えることで成功した事例になります。これをきっかけに、ライフイズテックでは企業向けのプログラミング研修といった新たなBtoBビジネスも展開できるようになったと聞いています。
意思決定のスピードから、信頼が生まれる
- HIP
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スタートアップへの投資は、どのような判断軸で行なっているのでしょうか?
- 相田
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どんな共創が期待できるのか、それは社会的インパクトを与えることができるか。さらに、どの程度の収益が実現できるかといったことが判断軸になっています。
また、社長の青井がスタートアップへの投資や共創にコミットしており、トップとの距離が近いからこそ投資への意思決定もスムーズです。また、青井が前のめりになった案件の方が、うまく進んでいくという傾向もありますね(笑)。
- 武藤
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スタートアップの場合は、社長などの経営層が私たちと直接コミュニケーションをするので意思決定が非常に早いんですね。そうしたスピード感の中で、当社側の社員が伝書鳩的な対応で、何の意思決定もできないと信頼関係を構築することができません。
それらを防ぐためにも、担当役員である相田や社長の青井に、すぐに判断してもらえる仕組みをつくっています。私自身、スタートアップの経営層に「相田にすぐにつなぐので安心してください」と伝えていて、スタートアップの意思を尊重するのと同じくらい、こちら側の意思決定のスピードも意識しています。
行動が伴わないと、正直、スタートアップから見限られてしまいますから。意見を課長に上げてから部長、役員へ、ではなく、大事な意見はすぐ役員に伝えるようにしています。
- HIP
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意思決定のスピードをスタートアップに合わせた組織体制にしているということですね。D2C&Co.や共創チームは、どのような人材で構成されているのでしょうか?
- 相田
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共創投資部の多くがプロパー社員ですが、経験の幅は広く、小売やクレジットカードなどの金融事業、FinTech、財務の経験をもっている人もいます。平均年齢は30代前半で、比較的若い世代が多くいますね。さらに特徴的なのが、組織の約6割が女性社員ということ。ママさん社員も4名いて、多様な人材が活躍しています。.や共創チームは、どのような人材で構成されているのでしょうか?
- HIP
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スタートアップへの投資は短期的に成果が出にくい側面があります。CVCに対する社内評価はどのようにしているのでしょうか?
- 相田
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評価に関しては、基本的にはプロセス評価を重要視していますね。半期ごとの目標において、たとえば課題解決に向けた提案を私まで上げることができれば100%達成。さらに社長に提案すると110%達成といったイメージです。ほかにも、スタートアップとの関わりを増やしていくタイミングでは、面談件数なども評価の対象に入れ、その時々で柔軟に評価を変えています。
- HIP
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なるほど。成果よりもプロセスを重視しているんですね。それでは最後に、今後ターゲットとしている投資分野や取り組みに関して教えてください。
- 相田
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スタートアップへの投資を始めたときは、FinTechやシェアリング・エコノミー、サーキュラーエコノミーといった分野への投資を中心に考えていました。しかし、さまざまなプロセスを経て、投資方針が整理されてきました。これから軸になってくるのは、丸井グループのお客様にオススメしたい商品やサービスを持っている、スタートアップに投資を行なっていくということ。そうすると、先ほどお伝えした分野以外にも、自然と投資の幅が広がっていきます。また、投資を行なうスタートアップと共創が見込めるかも大事なポイントですね。