仕事やスポーツの場で、女性が生理痛やPMS(※1)、更年期の不調などを抱えながら無理をすることは珍しくない。職場やチームで理解が得られず、「我慢するしかない」と感じる人も多い。
こうした課題に取り組むのが、株式会社LEANの立道友緯氏だ。中高生向けのフェムテック(※2)事業で起業し、女性スポーツチーム向けのコンディション管理アプリを提供。選手が自身の体調を把握し、パフォーマンス向上を図れる環境づくりを進めている。その実績が評価され、慶應義塾大学医学部主催のビジネスコンテスト「健康医療ベンチャー大賞」ウェルネスリーグで優勝を果たした。
その立道氏を支えるのが、慶應大医学部の産婦人科医師・大岡令奈氏だ。現役の医師でありながら健康医療ベンチャー大賞の実行委員長もつとめ、優勝したLEAN の取り組みを「社会と企業のあり方を変えるもの」として注目している。
女性特有の健康課題は依然として社会問題だが、その解決に向けた取り組みが広がれば、新たなビジネスの可能性も生まれる。今回は、女性の健康に対する社会全体のリテラシー向上と支援の仕組みを通じて社会をどう変えていくのか、2人のビジョンを伺う。
※1 月経前症候群。生理前に現れる心身の不調を指す
※2 女性の健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービスのこと
生理痛やPMSが「ごく普通のこと」として見過ごされる現実
- HIP編集部
(以下、HIP) - 立道さんと大岡さんは、女性の健康課題をどのようにとらえていますか。
- 立道友緯氏
(以下、立道) -
身近な友人・知人には、生理痛やPMSに悩む人が少なくありません。子宮内膜症が見つかった知り合いもいます。
日本では、妊娠を経験するまでこうした症状について婦人科を受診する機会が非常に少なく、自分の月経や痛みが正常かどうかを、他人と比較することができません。私が事業を通じて日頃接している中学生や高校生では、寝込むほどの痛みで部活や学校を休んでも、本人も「ごく普通のこと」と受け止めてしまうケースが多いようです。

- 大岡令奈氏
(以下、大岡) -
月経は若いうちに始まりますが、30代や40代になっても悩む人は多いものです。月に1回のことだから、周囲に打ち明けないまま、本人も「なんとなく」で済ませてしまうことが少なくありません。
婦人科を受診しても解決するとは限りません。ホルモン剤で月経を止める対症療法も、骨の成長などに影響を及ぼす可能性があります。

- 立道
- 大人の場合は、仕事のパフォーマンスが低下していることに本人が気づいていないケースもありますね。個人差はありますが、ある研究では「平均すると1か月に5日間、パフォーマンスに何らかの影響が出ている」と報告されています。
- 大岡
- それも職場ではなかなか相談しづらいですよね。
- 立道
-
はい。生理休暇がある企業でもPMSは適用されないなど、制度面もまだまだ行き届いていないように感じます。
近年はアスリートや俳優、インフルエンサーなど、知名度のある人が積極的に女性の健康課題について発信するようになりましたが、社会の認識はまだ低いのが現状です。特に10代ではその傾向が顕著ですね。
約30人の女子スポーツ部で講習会を行った際は、「PMS」という言葉を知っている人は1割にも満たず、多くが「生理痛が重いだけ」と思っていました。
- 大岡
- アスリートの世界は特殊かもしれません。スポーツ外来を訪れる女性は、無月経の問題を抱えているケースも多いです。
- 立道
- 中には「生理が来なくてラッキー」と考える選手もいます。練習や試合を優先し、生理が来ないほうが楽だと放置し、その結果、疲労骨折などの怪我に繋がることもあります。
- 大岡
- 本人だけではなく、部活のコーチや会社の上司、同僚など、周りのリテラシーが低いだけではなく、「解決策がない」と思い込んでいる人が多いことも問題だと感じています。生理痛やPMS、無月経の対処法を知らず、「そうなんだ、大変だね」で終わってしまう。女性特有の健康課題への理解と適切な対処法を知ることが重要ではないでしょうか。