INTERVIEW
世界初のグローバル総合出版社へ。講談社のパーパスとはなにか?
川治豊成(株式会社講談社) / 岸勇喜(株式会社講談社) / ザイドラー・アンドレアス(アンカースター株式会社)

INFORMATION

2021.08.31

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2021年で創業112年目を迎える講談社。日本を代表する総合出版社は今年、新たなパーパスとして「Inspire Impossible Stories」というブランドストーリーを掲げ、グローバル戦略を本格的に強化する方針を打ち出した。

講談社はなぜこのタイミングで海外へ本格進出をしようとしているのか? また、そのためになぜ企業ブランドを刷新する必要があったのか? その課題感や思いについて、リブランディングのプロジェクトリーダーを務めた講談社の川治豊成氏、パートナーとして並走してきたアンカースター株式会社のザイドラー・アンドレアス氏、そして講談社からアンカースターに出向しつつ、事務局としてプロジェクトに参加した岸勇喜氏にうかがった。


文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太

112年目のグローバル宣言。しかし、現場の思いは……

HIP編集部(以下、HIP):講談社では創業112年目にあたる今年、パーパスとロゴマークを刷新し、グローバル展開を強化していくと宣言しました。まずは、その経緯から教えていただけますか?

川治豊成氏(以下、川治):信じられないかもしれませんが、講談社にはそもそもオフィシャルなコーポレート・ロゴがなかったんですよ。「オフィシャルっぽいロゴ」が何種類もあって、現場はてんでバラバラに使っていました(笑)

われわれにとって大事なのは、作品のタイトルであり、媒体名であって、それ自体がブランドなんですね。だから、講談社という会社自体をブランドとして認識する視点は、ほとんどなかったと思います。

企業理念としては「おもしろくて、ためになる」という言葉があって、言えない社員はたぶんいません。ただ、日本語で表現されているので、日本語話者にしか通じない……。というのが、出発点でした。

川治豊成氏

川治:そういう社内の状況で、2019年に創業110周年を迎えるにあたって野間省伸社長が打ち出したのが「グローバル」です。

講談社はこれまでにもアメリカや中国に現地法人を設立していますし、一部のコンテンツは世界に広く展開してきました。たとえば、『進撃の巨人』はコミックス・電子書籍の累計発行部数が全世界で1億部を突破しています。海外で海賊版マンガがよく読まれているというのも、そこに確かなニーズがあることを示しています。そういう意味ではもともとグローバルの土壌があったともいえます。

HIP:あえて明言することで、そのグローバルの土壌をさらに育てていこうと?

川治:そうですね。作品がヒットして単発のタイトルが知られるだけでなく、次々におもしろいコンテンツを生み出す会社として、グローバルに知られる存在になっていこうということだと思います。

ザイドラー・アンドレアス氏(以下、アンドレアス):この前、講談社公式Twitterの動画で見たんですが、講談社は創業者の野間清治さんのときから「世界第一の雑誌社になってみたい」と意気込んでいたんです。その想いは根本的にあると思います。それに加えて、ビジネスの観点でも、海外はチャンスですし、国内の出版市場はある種の飽和状態なので、大手出版社は海外に進出せざるを得ない状況もあるとは思いますね。

ザイドラー・アンドレアス氏

HIP:とはいえ、現場の社員からすれば、いきなりグローバルといわれても戸惑うのではないかと思います。川治さんは、ずっと編集者としてキャリアを重ねてこられたそうですが、「グローバル」という方針に対して、率直にどうお感じになりましたか?

川治:戸惑いは……ありましたね(笑)。私は入社以来長い間、現代新書の編集を担当していて、それから「現代ビジネス」というウェブメディアの編集長をやりました。

ずっと日本語で日本の読者を相手に仕事をしてきましたし、編集者の仕事というのは書き手・クリエイターに伴走してコツコツ作業する内向的な世界なんですよ。だから、正直、「これからは海外に出ていくぞ」といわれてもピンときませんでしたね。一部のビッグタイトルが海外に展開していくことはあっても、基本的には日本語圏のなかでビジネスをしてきた会社ですから。

岸勇喜氏

HIP:岸さんはいかがですか? 後に講談社からアンカースターへ出向するかたちでリブランディングプロジェクトに参加していますが、この時点ではまだ自分が関わるとは思っていないわけですよね?

岸勇喜氏(以下、岸):はい。私は当時、広告の部署にいました。国内企業から宣伝費を頂戴し、日本語の雑誌に広告を掲載していましたので、川治と同じく、海外と言われてもあまりピンとこなかったのが正直なところです。いまでこそ東アジアでは『ViVi』などのイベントを開催していますが、会社を挙げてグローバルに展開していくというのは、すごく遠い話のように感じていた気がします。

「グローバルとはなにか?」を考えるところからのスタート

HIP:アンカースター株式会社は2018年から講談社とのコラボレーションを開始し、今回のグローバルに向けたリブランディングプロジェクトをサポートされているそうですが、まずはなにからはじめたのでしょうか?

アンドレアス:講談社だけでなく、多くの企業にとって「グローバル」は多面的で大きなテーマで、ややとっつきにくいと思います。先ほど川治さん、岸さんがおっしゃったように、最初は講談社もグローバルを掲げているものの、野間社長と役員の間にも温度差があったように思います。

もちろんグローバル展開が大きな好機であることはわかっているのですが、具体的にどのように考えて、どういうゴールを設定すればいいのか……。仮に明確な答えがあったとしてもいまの講談社が、そこへどう向かって展開すればいいのかを構想する状態でしたね。

ですから、まずは「グローバルとはなにか?」について、みんなで考えるところからスタートしました。月2回ほど、講談社の役員のみなさんにお集まりいただき、ワークショップ形式で一人ひとりの思いや考えを深掘りしていったんです。当然、アンカースターのなかでも答えがなく、ひたすら考え続けるような時間でした。さまざまなテーマを立てて、一年以上かけてじっくりとヒアリングしていきましたね。

HIP:結果、どんな答えが出ましたか?

アンドレアス:結論は出なかったのですが、一人ひとりの役員が内に秘めている思いや意見を引き出し、十分に語り尽くすことができました。講談社の役員には、男性誌、女性誌、文芸、コミックなど、各ジャンルのプロフェッショナルの方が多いのですが、そういったジャンルや部署の壁を超えて、会社全体の視点から議論できたのもよかったですね。おそらく、それも野間社長の狙いだったのではないかと思います。

また、ワークショップでの活発な議論を通じて、グローバル展開に向けて必要なピースも浮かび上がってきました。その一つが、企業ブランドの刷新です。グローバルに展開するなら、まずは「自分たちが何者なのか?」を明確に示さないといけないだろうと。

HIP:そうして新たにスタートしたのが、ニューヨークのクリエイティブスタジオ、グレーテル社との協働による、リブランディングプロジェクトになるわけですね。

川治:はい。プロジェクトのスタートと同時に、私もリーダーとしてメンバーに加わりました。ある日突然、役員に電話で呼び出されて、「……というわけで、よろしくな」と(笑)。

自分がこのプロジェクトにアサインされたことは驚きましたが、同時に、NetflixやNational Geographicなど、グローバルに活動する企業のブランディングを手掛けているグレーテル社のクリエイターと仕事ができるのは、すごく楽しそうだなと思いました。実際、彼らと講談社の新たなブランディングについて考えていく作業は、とても刺激的でしたね。

世界のクリエイター集団「グレーテル社」が引き出した、知られざる講談社の魅力とは?

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