放置も過干渉もしない。キリンと社内ベンチャーが「いい距離感」を築ける理由
日置淳平(株式会社リープスイン 代表取締役CEO) / 西前純子(キリンホールディングス株式会社 経営企画部 主査)
2019.11.20

大企業におけるオープンイノベーションや新規事業の現場では、事業を社内ベンチャー化する「出島」の重要性がたびたび語られる。しかし、「出島」化は本当に最適な選択肢なのだろうか?

大企業と社内ベンチャーの「いい距離感」を探るべく、今回取材したのはキリンホールディングス。

社内の事業提案コンテストを通過し、2018年に食品プロダクトの量産化をサポートする株式会社リープスイン(以下、LeapsIn)を立ち上げた同社代表取締役CEOの日置淳平氏と、本社から日置氏を支えるキリンホールディングス株式会社 経営企画部 主査の西前純子氏を訪ねた。

出島化のメリットやデメリットは何か。そして大企業は、会社を飛び出した新規事業プレイヤーとどのような関係性を築くべきなのか。気心の知れた二人の掛け合いから、そのヒントが見えてきた。


取材・文:岡田弘太郎 写真:丹野雄二

事業創出に注力するキリン。初の「出島」は社内コンテストから生まれた

HIP編集部(以下、HIP):今回は、イントレプレナーが興した社内ベンチャー、いわゆる「出島」と大企業のいい関係とは何か、というテーマでお話をうかがいたいと思います。

日置淳平氏(以下、日置):「ちょうどいい関係」って、難しいですよね。

株式会社リープスイン 代表取締役CEOの日置淳平氏

西前純子氏(以下、西前):必ずしも「出島」がいい選択だとは限りませんしね。今日はそんな話もできればと思っています。

キリンホールディングス株式会社 経営企画部 主査の西前純子氏

HIP:「出島」のリアルをうかがえるのが楽しみです。本題に入る前に、キリンホールディングス(以下、キリン)が新規事業をどのように位置づけているのかを教えていただけますか?

西前:2016年からの前中期経営計画で、酒類・飲料・医薬といった既存事業に加え、ヘルスケアを含めた新領域の事業に取り組む方針を打ち出しました。現在は、私が所属する経営企画部を始め、複数のプロジェクトが進んでいるほか、2016年からアクセラレータープログラムも運営しています。

外部スタートアップと協業するアクセラレータープログラムは、いわば「飛び地」に近い存在。そのため、キリングループの中核を担う飲料事業や医薬事業とは異なる領域の企業を支援することもあります。しかし、彼らもキリンのリソースを求めてエントリーしてくださっているのでそこまでのズレはありませんし、既存事業と大きく重複する企業は採択しないようにしています。

社内から生まれる新規事業も、キリングループの中核事業に関連するものが多いですね。事業提案コンテストからいち早く事業化した日置のサービスは、食品なので少し性質が異なりますが。

自身も新規事業プレイヤーの経験があることから、現在はプロジェクトのサポートや事業化の判断を担当している西前氏。「新しいことをやるとうまくいかないケースも多い。支援する立場からケアすべきポイントはたくさんあります」

事業計画やサービス自体もブラッシュアップ。「仮説の精度の高さ」が評価ポイントに

HIP:LeapsInのサービスとは、どのようなものですか?

日置:食品を新しくつくりたいと思っているブランドオーナーに対して、稼働に余裕のある工場や、最適な物流・販路とのマッチングをサポートするサービスです。具体的には、ウェブシステムの提供とコンサルティングが中心ですね。

LeepsInの提供するウェブサイトでは、つくりたい食品プロダクトのカテゴリから、それを製造できる工場を検索することが可能だ

日置:じつは2015年の事業提案コンテストでも、飲料を対象にした同様のサービスでエントリーしたのですが、既存事業と領域が近すぎて社内を説得するのが難しかった。そこで飲料から飲料以外の食品全体にフォーカスし直し、翌年に通過。2017年から事業検証に取り組み、2018年に子会社として立ち上げました。

生産管理や研究開発に携わるなかで、食品プロダクトをつくる際の「情報の非対称性」に気づいたという日置氏。「キリンほどの会社でも、新しい商品を生産まで落とし込むのは難しい。スタートアップや小規模な企業ならなおさらです」

HIP:日置さんはどこが優れていたのでしょうか?

西前:従来の「ものをつくって売る」ビジネスモデルではないということもありますが、仮説を立てながら、ビジネスアイデアを2、3回つくり変えて事業化を進めようとしている点が大きかったですね。ターゲットやソリューションが都度ブラッシュアップされていて、パッと考えたアイデアよりも仮説の精度が高かったのです。

社内事業か、出島化か。意思決定に必要なのは、リソースや環境の見極め

HIP:新規事業を「出島化」したケースはLeapsInが初めてだったそうですね。前例がないなかで、その選択をしたのはなぜですか?

西前:事業特性を考慮した結果です。LeapsInの事業領域やビジネスモデルが、キリンの既存事業と離れていたため、子会社化したほうがいいと判断しました。

日置:すごくありがたかったですね。社内の事業提案コンテストだと、最初から「採択された企画は事業会社に引き渡す」といった「出口」が決まっていることが多い。ですが今回は、プレイヤーである私自身にも、出島化するのか、社内事業として取り組むのかを選択する余地を与えていただきました。

HIP:キリンとして、事業を出島化するときの基準はありますか?

西前:数年後に伸びそうな領域であれば、出島化して距離を置いたほうが育ちやすい場合もあります。「足もとや目先でいろいろ言われるから成長できない」という事態を避けられますから。外部資本を入れたほうがスケールしやすい事業も、出島化に向いていると思います。

一方、出島にも当然リスクはあります。具体的には、「マネジメントが行き届かない」「内部のリソースを使いにくい」といった点ですね。

西前:このような記事が出ると「やはり新規事業は出島化すべきだ」と言い出す人が現れるかもしれませんが(笑)、必ずしも出島がいいと言っているのではなく、事業を成功させるためにはどのようなリソースが必要で、どのような環境が最適かを考えたうえで意思決定すべきということです。

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「筋が通っているか」がポイント。プレイヤーへのアドバイスは、あくまで第三者目線から

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