商品化前のテクノロジーを、異例の公表。花王発の「皮膚を超える皮膚」って?
東城武彦(花王株式会社 加工・プロセス開発研究所 グループリーダー) / 長澤英広(花王株式会社 スキンケア研究所 グループリーダー)
2019.08.09

「オフィシャルな場で横のつながりができているので、何かあったら声をかけ合える」

長澤:開発研の「こういう商品をつくりたい」というアイデアから逆算して、「こういう技術や素材がほしい」と基盤研に相談することもあれば、今回のように基盤研から生まれた技術のタネをベースに商品化への道を模索することもあります。

東城:「I-マトリックス会議」では、本当に生まれたばかりのタネのような、海のものとも山のものともつかない技術も紹介し、ざっくばらんに情報交換しています。

ほかにも、さまざまな研究所がそれぞれ一年の成果発表を行う研究発表会があります。研究者は若手からベテランまで、また研究以外の、事業部門や生産、販売の社員まで、幅広い社員が自由に参加できます。

こうしたオフィシャルな場で横のつながりができているので、何かあったときにフランクに声をかけ合えるんです。今回のFine Fiberにしても、基盤研の私だけでは「化粧品に使えそうかな」というアイデアは浮かんでも、具体的にどうしたらいいかわからない。そんなとき、腹を割って議論ができる環境があるのは大きいと思います。

「技術に対してこだわりの強い社員が多く、みんないい意味で『諦めが悪い』(笑)」

HIP:だからこそ、トップダウンで与えられたミッションとは別に生まれた技術でも、無駄になることはないんですね。

東城:もちろんいろいろと検討の末、残念ながら商品化への道が見えない、ということもありますよ。ただ、事業計画に対して求められているものだけをつくる、という一方通行ではないですし、たとえばオムツに使おうと思っていた技術が別の分野で活かせたりと、ヨコ展開ができるのも面白いところです。花王の事業展開の幅が広いからこそですね。

長澤:花王にはモノづくりにこだわりを持った社員が多いので、組織全体の風土として、いい意味で「諦めが悪い」(笑)。「まだ先は見えないけれど、何か希望がありそうだ」という技術に対して、社内で「もうちょっと粘れるんじゃないか」と発破をかけられることもありますね。辞める寸前で光が見えて、そこから挽回するケースも往往にしてあるんです。

だからこそ、結果だけではなくプロセスも評価されますし、「絶対に諦めない」と頑張る強い意志を持った研究員が多い。10年、20年という長いスパンで見て、いずれは大きな成果につながると信じてやり続けています。

HIP:やり続けることこそが、イノベーションにつながると。

長澤:個人的な意見ですが、狙ってできるイノベーションはないと思っています。「狙っている」時点で、それは「想像の範疇に入っている」ということ。そうではなく意外なもの同士が結びついたときにこそ、想像を超えた、世の中にないものが生まれると思います。「何かに使えそう」という技術のタネを温めていればこそ、何かほかのものを見たときに「あれとかけ合わせられるんじゃないか」と発想できる。

東城:私も「つねに考えていること」は大事だと思います。それから、大きな目標やミッションを掲げること。たとえば「コストを10%カットする」という小さなテーマより「生産性を2倍にする」といった達成の難しい目標を掲げたほうが、新しい発想が生まれると思います。

早期社外発表の裏側は?「真似できるような技術なら、花王が取り組む必要はない」

HIP:Fine Fiberについては2018年11月に、商品化を待たずして社外発表が行われています。通常とは大きく異なるフローですね。

東城:たしかに、通常はビジネスの観点から、商品に関する情報発信がメインになります。しかし、商品だけでのブランディングはどうしても既視感がありますし、もともと花王は高品質な商品を下支えする技術を大事にしてきた企業。そこで技術そのものをもっと外に発信しようと、Fine Fiberを含めた5つの最新技術を、社外向けの「技術イノベーション発表会」というかたちで公表したのです。

長澤:花王として、さまざまな社会課題に対して、自らの技術力で役に立ちたいという意図もありました。だからこそ、一社ですべてをまかなうのではなく、他企業や大学、研究機関などと協業するオープンイノベーションで開発期間を短縮しつつ、より多様なニーズに応える商品づくりを行っていこうと。

HIP:早期に社外発表を行うリスクに対して、懸念の声はなかったのでしょうか?

東城:それに関しては「真似できるような技術なら、そもそも花王が取り組む必要はない」という考えでした。模倣を恐れるより、技術を少しでも早く社会に役立てられる可能性があるのであれば、チャレンジしてみようと。

消費者の方々にとって、花王は身近な商品のイメージが強く、「イノベーティブな企業」という印象はないかもしれません。でも、じつは裏では10年、20年という長いスパンで、幅広い領域の本質研究を行っています。世の中にあまり伝えてこなかった花王の技術力や、「それを使ってこんな課題を解決していきたい」という想いをあらためて伝えたいという考えでした。

HIP:発表後の反響はどうでしたか?

長澤:大きかったですね。協業の問い合わせや、「もっと詳しく教えてほしい」「サンプルが欲しい」などのご意見のほか、「こんなことに使えるんじゃないか」といったアイデアもたくさんいただきました。思ってもいなかった発想もあり、たくさんの刺激を受けました。

東城:私は10年以上もFine Fiberを見ているので慣れてしまっているところもあり、「そんなにすごいのか」と価値をあらためて再確認させてもらいました(笑)。

HIP:今後オープンイノベーションの取り組みを加速させれば、より早いスピードでの製品化が実現できるかもしれないですね。見る人に、「こんなことや、あんなことにも」といろいろなインスピレーションを湧かせる技術です。

長澤:やはり、一度体験いただけると面白がってもらえますね。文章や写真ではなかなか伝わらない魅力をどう伝えるかが課題です。いろいろな方の反応を見ていると、「剥がせる」ということが、単純だけど新鮮なようです。開発側としては、「剥がせる」ことをどう活かせるだろうと意味を見出しにくかったので、新鮮な視点で見てもらえるのは面白い。本プロジェクトに限らず、世の中に驚きと感動を与えられる技術を提案する重要性を再認識しました。

東城:これまで技術そのものがフォーカスされることは少なかったのですが、基盤研究に携わる者にとっては、大きなモチベーションになったと感じています。

長澤:Fine Fiberについては、いまはまだ発表できない成果が、他にもいろいろあります。この技術でみなさんの生活がどう変わるのか、お披露目できる日を楽しみにしています。

Profile

プロフィール

東城武彦(花王株式会社 加工・プロセス開発研究所 グループリーダー)

1990年花王に入社。これまでに、シート製品、特に不織布の改良研究や基礎研究を担当。

長澤英広(花王株式会社 スキンケア研究所 グループリーダー)

1998年花王に入社。これまでに、保湿化粧品、日やけ止めなど、スキンケア製品の開発を担当。

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