スピーディーに新商品化できる秘訣は、即断即決の「新商品開発会議」
HIP:アイリスグループは食品事業に限らず、幅広い分野の新商品を出し続けています。特にここ10年ほどの間で手がける領域が拡大している印象があるのですが、何か転機はあったのでしょうか?
北尾:2010年に2,000円のLED電球を開発したことが、大きな転機になったと思います。当時、先行する電機メーカーが1万円ほどで販売していたLED電球を、2009年には半額の5,000円で発売し、さらにその半値以下に挑戦したのです。というのは、従来品は電球の球体をアルミダイキャスト(鋳造)でつくっていたのですが、弊社がもっていたプラスチック成形の技術によってコストダウンが図れたのです。このことが家電事業にぐっと舵を切る転換期になったとともに、社内全体で新規事業や新商品開発の機運が高まったように思います。また、さまざまな家電を開発・販売してきたノウハウや技術がほかのことにも活かせて、新しい着想ができるようになっています。アイリスオーヤマとしてもターニングポイントになったと感じております。
HIP:そうした新規事業や新商品を、スピーディーにかたちにできるのはなぜですか?
北尾:毎週月曜日の朝に、「新商品開発会議」があり、ここで社長以下、すべての決裁が降りる仕組みがあります。当然、アイリスフーズの事業も、この開発会議にはかられます。大きい組織の場合、企画ひとつ通すにもさまざまな根回しが必要であったりすると思うのですが、アイリスの場合はそういったものが一切なく、この月曜日の会議でのプレゼンテーションがすべてです。
ですから稟議に時間がかかるといったこともなく、スピーディーに商品化ができるわけです。もちろん、企画が通らないこともありますが、当社のアイデアやノウハウで課題解決ができる事業や新商品であれば、何度でもチャレンジすることができます。
また、「コミュニケーションセンター(コールセンター)」に届くご意見も活かされており、お客さまの声を重視していますね。
HIP:開発会議での新商品の採用率はどのくらいなのでしょうか?
北尾:あくまで私の体感ですが、先ほども申し上げたような何度もチャレンジしたものも含めすべてのアイデアで6割ほどは通過して商品化していると思います。
HIP:新しい企画を提案するモチベーションにつながっているんですね。
北尾:そうですね。会長はたびたび、「開発会議で承認した以上、たとえ失敗したとしても責任は経営側にある。だから、失敗を恐れず自分の発想を信じ、積極的に新商品を生み出す努力をしてほしい」ということを言っています。こうしたトップの姿勢や企業風土も、新しい試みへのモチベーションが高い要因ではないかと思います。
HIP:新規事業に取り組むにあたり、アイリスグループ本体のアセットはどのように生かされていますか?
北尾:既存のお客さまとの関係性、ネットワークに助けられた部分は大きいです。例えば、アイリスフーズの事業でいうと、当初はホームセンターに売り場をつくっていただいていました。販売しているのは重量のあるお米ですので、車で来られるお客様がメインのホームセンターに大きな売り場をつくろうという考えの元ですが、これを実現できたのは、アイリスオーヤマが数十年にわたってガーデニング用品やペット用品などを手がけ、ホームセンターと築いてきた関係性があったからです。
アイリスオーヤマにとってアイリスフーズの事業はある部分で「飛び地」的なビジネスになるわけですが、そうしたケースでも既存事業でのアセットが十分に活かせました。
世界に「パックごはん」の美味しさを広めたい。食品ビジネスの可能性
HIP:復興支援を目的にスタートした食品事業ですが、ビジネスとしての可能性についてはどうお考えですか?
北尾:社会貢献の側面が強い事業とはいえ、企業である以上は利益を無視するわけにはいきません。それに、黒字化して事業を拡大していくことで雇用もさらに増やせますし、未来に向けて持続可能な社会貢献ができるようになるはずです。
グループ内でもアイリスフーズへの期待は高く、食品事業と飲料水事業は今後も積極的に投資を行なっていく事業と位置づけられています。やはり、マーケットの規模がとても大きいだけに、伸びしろが期待できますから。
HIP:今後はどのような戦略を考えていますか?
北尾:世界への展開を視野に入れています。九州の鳥栖工場にパックごはんのラインをつくり、まずはASEANに輸出していく予定です。例えば台湾ではパックごはんの単価が日本よりも高いのにもかかわらず美味しさから人気が高く、十分に商機があるでしょう。たとえば、海外のお米を日本の炊き方で炊いても本来のうまみは引き出せませんし、逆もまた然りです。しかし、パックごはんであれば最適に調理された状態の美味しさ、そして食文化を世界に伝えることができます。日本のお米の美味しさを、パックごはんを通じて世界に広げていきたいと思います。
HIP:そのためには、パックごはん自体の品質も重要ですね。
北尾:そうですね。炊き立てのご飯が美味しいのは当たり前ですが、パックごはんにしたときにも美味しくなければいけません。その点は各メーカーが改良を重ね、間違いなく品質は向上しています。昔はパックごはんといえば「非常食」というイメージが強く、「仕方なく食べるもの」といった認識もあったと思いますが、いまでは日常食として親しまれているのではないでしょうか。もちろん、そういった状況に甘んじることなく、これまでの低温製法や賞味期限の設定と同様に品質を高める取り組みを行なっていきたいです。
HIP:最後にあらためて、アイリスフーズ全体としての今後の展望をお聞かせください。
北尾:まず、舞台アグリイノベーションの精米事業については、しっかりと国内でのお米のマーケットで事業拡大したいと考えています。そして工場の稼働率を維持し、雇用を確保していきます。また、アイリスフーズとしては先ほどお話しした海外展開に加え、お米を軸としたさらなる新商品の開発を促進していきたい。
正直、まだまだアイリスが食品事業を手がけていることを知っている人は、そう多くないと思います。さらに認知を広げるためには、新しい商品が必要です。特に、家電事業におけるLED電球のような、社会の問題を解決し、インパクトを与えるものを出していかなければいけません。そのためにもチャレンジを続け、お米や食の市場で新たな文化をつくっていきたいですね。