INTERVIEW
もっと加入者に寄り添う保険へ。第一生命&東京海上が「インステック」を語る
中山新(第一生命ホールディングス株式会社 Dai-ichi Life Innovation Lab 部長) / 住隆幸(東京海上ホールディングス株式会社 事業戦略部 部長 / Global Head of Tokio Marine Innovation Lab)

INFORMATION

2019.06.10

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「浮いてしまいがち」なイノベーション組織だから、重視すべきは横のつながり

HIP:お二人がそれぞれチームの責任者に就任した当時、社内はどのような状況だったのですか?

中山:私は2016年から、IT部門でデジタル領域の業務に取り組むようになりました。社内各部では、取引のあるIT企業などから先進的なテクノロジーの情報をたくさん得ていましたが、それを活かす際に、「既存の仕組みに適合させる方法」のような発想が多かった。「テクノロジーを使って、既存の仕組みごと変えてしまおう」という発想にはなかなか至りにくかったのです。

HIP:第一生命に限らず、現業で十分な利益を上げている大手企業がぶつかりがちな壁かもしれませんね。

中山:そうですね。ただ、お客さまや会社にとってメリットがあるならば、新たなテクノロジーを活用して変えられるものは変えたほうがいいと思っていました。そこで、「既存の仕組みを維持する予算をより圧縮して、イノベーションに投資していこう」というIT戦略を策定しました。並行して、予算や人材などのリソースをしっかり確保してイノベーションに取り組もうという動きが進み、2018年度に「Dai-ichi Life Innovation Lab」が設立。同時に私が責任者に就任しました。

イノベーションを目指す組織は、社内で浮いてしまいがちかもしれません。それを解消するためには、現業に取り組む人たちを適度に巻き込んでいく必要がある。そのため、インステックというキーワードのもと、現業部門を横断するようにプロジェクトチームや会議体を組成しています。また、私自身、これまでの社歴から各部門のキーパーソンを把握できていたこともあり、現業部門とも比較的スムーズに連携が取れてきたと思っています。

HIP:一方、住さんは当初からプロジェクトリーダーを任されていたそうですが、最初にどんなことから着手されましたか?

:まずは現状の把握です。大きな組織ならではの弊害ともいえますが、当時はさまざまな部署にデジタルやイノベーションへの取り組みをしている担当者がいて、それぞれがバラバラに動いていました。そこで、各部の部長と話をして、デジタル領域に取り組んでいるメンバーを集め、デジタル戦略室との兼務というかたちで参加してもらったのです。

これは、現業部署の社員に「自分たちの庭に土足で入ってきた」と思われないためにも重要でした。引き抜くのではなく兼務をかけることで、現業の部署とも意思統一を図りたかったのです。さらに社内では「ラボ」を名乗り、メンバーでない人も出入りができるようにして、横のつながりを推奨しています。

HIP:それぞれの取り組みを、どう集約していったのですか?

:月に2、3回のミーティングを行い、それぞれの考えや取り組みを共有する機会を設けました。その次に、われわれがやるべきことの方向性と範囲を定めたのです。「このガードレールの範囲内であれば、どんどん取り組みを進めてもらって構わない」と。以降、さまざまな試行錯誤を続けていますが、特に苦心したのは最初の体制づくりですね。

社内周知にはトップダウンも必要。役員の熱弁で風向きが変わった

HIP:チーム立ち上げ当初、社内の反応はいかがでしたか?

中山:賛否両論あったのでしょうが、もともとインステックへの取り組みや外部への発信は社長(現代表取締役会長の渡邉光一郎氏)のトップダウンで始めていたこともあり、社内の期待は大きかったように思います。

なかでも、法人営業担当者からポジティブな声を多くもらったのは意外でしたね。話題性のある取り組みに挑戦していることで、お客さんの興味を惹くことができ、営業がしやすくなったりするそうです。イノベーションを担当する役員が、将来の市場や顧客の変化を見据え、大きな会議などさまざまな場面でインステックの重要性を浸透させてくれたことも大きかったです。

:社内に関しては、役員が声を上げてくれることも重要ですね。東京海上でも、2016年秋にシリコンバレー視察を行ったCEOの永野(毅氏)が、全国の部長や支店長にインステックの重要性を語ったことで、社内の認知度は一気に上がりました。「こういうことに挑戦しなければいけないんだ」という危機感が、現業に取り組む社員にも生まれたように思います。

HIP:チームの立ち上げから約3年が経ちました。現在、チームの規模感はどのくらいなのですか?

中山:「Dai-ichi Life Innovation Lab」は、東京とシリコンバレー、社外のラボなどへの出向者を含めて40名ほどです。それから、東京にはラボ以外にインステックの戦略立案を担うチームがあり、インステックの専任人材がシンガポール、ロンドン、中国にも在籍している状況ですね。グローバルで情報収集を行っており、グループの海外生命保険会社を含めてお互いに連携、協力しながら取り組みを進めています。

:弊社の東京ラボ(デジタル戦略室)も、専任者と兼務者を含めて60名と少しでしょうか。東京に加え、シリコンバレーとシンガポールにもラボを構えています。

「事故から修理開始まで」の1週間が一瞬に。インステックがもたらす未来とは

HIP:両社のインステックチームが行った、最近の取り組みを教えてください。

:2018年7月には、アメリカの自動車保険スタートアップであるメトロマイルに出資し、業務提携を始めました。メトロマイルは、最先端テクノロジーを導入し、損害査定から保険金の支払いまで、一連の手続きを自動化するサービスを展開しています。彼らがもつ技術をわれわれのサービスにも活用し、従来のプロセスを見直そうとしているのです。

HIP:具体的に、どのように改良できるのでしょうか?

:たとえば自動車事故を起こした際、保険金の請求までにはさまざまなプロセスがあり、時間もかかります。この部分を簡略化すれば、お客さまのストレスを軽減できると考えました。人身事故以外の車の破損の場合、修理工場への入庫から修理費用の見積もりまで、3、4日は必要になる。さらにお客さまが自費で直すか保険を使うか悩まれますので、最終的に修理が決まるまで1週間くらいはかかってしまうのです。

HIP:事故のショックがあるうえに1週間もやきもきするのは大きなストレスですね。

:そこで、われわれが実現したいのは、その場で破損箇所の写真を撮って送っていただき、AIの画像認識を活用して修理費の見積りを自動で出すシステムです。さらに、その場で費用を払えるようなところまで仕組み化したい。もちろん、破損箇所を捏造するといった不正がないことが前提ですが、実現すればお客さまのストレスを圧倒的に軽くできるはずです。

HIP:一方、第一生命もアメリカのスタートアップであるニューロトラックと提携していますね。

中山:ニューロトラックは、人の目の動きをAIと独自のアルゴリズムで解析することで、認知症リスクをチェックできる技術を開発しています。この技術を活用し、2018年12月から発売した「認知症保険」の付帯サービスとして、スマートフォンで動画を見ている目の動きを撮影し、認知症の進行度をチェックできるアプリを提供開始しました。疾病の早期発見や予防につながるような商品やサービスを追求することで、健康寿命の延伸やQOLの向上に貢献できるよう、引き続き注力していきたいと考えています。

HIP:お話をうかがっていると、インステックは保険に加入するユーザーにとってもメリットが大きい取り組みだと感じます。

:そうですね。インステックは、お客さまによりよい保険商品を提供するためのものでもあります。これからもテクノロジーによって、多くの人に「保険に入ってよかった」と感じていただけるようなサービスをつくっていきたいと考えています。

中山:生命保険にはどうしても堅苦しいイメージがあり、特に若い世代にとっては縁遠いものに感じられるかもしれません。たとえば、生活スタイルやニーズに応じて、スマートフォンから手軽に諸手続きを完結できるような若年層向け商品も検討しているところです。ほかにも、リアルとデジタルを融合させたお客さま対応など、お客さまの不便を解消し新たな顧客体験を創出しつつ、業務効率化につながるような取り組みを強化していくことが私たちのミッションですね。

Profile

プロフィール

中山新(第一生命ホールディングス株式会社 Dai-ichi Life Innovation Lab 部長)

1997年、第一生命保険相互会社(現第一生命保険株式会社)に入社。経営企画部門などを経て、2016年よりITビジネスプロセス企画部でIT戦略などを担当。その後、「Dai-ichi Life Innovation Lab」設立にともない2018年4月より現職。

住隆幸(東京海上ホールディングス株式会社 事業戦略部 部長 / Global Head of Tokio Marine Innovation Lab)

1989年に入社。入社後は国内リテール営業に配属されたのち、2年間のMBA留学を経て、1997年から商品開発部。その後、ロンドン、東京、バミューダで海外事業再保険業務に携わり、2011年に英国Tokio Millennium Re(UK)のCEOに就任。2015年に帰国し、現職。

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