もっと加入者に寄り添う保険へ。第一生命&東京海上が「インステック」を語る
中山新(第一生命ホールディングス株式会社 Dai-ichi Life Innovation Lab 部長) / 住隆幸(東京海上ホールディングス株式会社 事業戦略部 部長 / Global Head of Tokio Marine Innovation Lab)
2019.06.10

企業は、自社の商品やサービスをいかにして変化する時代に対応させていくべきなのか。この命題に対して、保険業界が見出した可能性のひとつが「インステック(InsTech)」だ。インステックとは、保険(Insurance)と情報技術(IT / Tech)を組み合わせた造語。テクノロジーやデジタルを駆使し、保険の仕組みやあり方そのものに変革をもたらす手法として、注目を集めている。

生命保険大手の第一生命ホールディングス株式会社(以下、第一生命)と、損害保険大手の東京海上ホールディングス株式会社(以下、東京海上)では、偶然にも約3年前の同時期に専任のチームを立ち上げ、インステックへの対応を強化。現在は国内のみならず、シリコンバレーやシンガポールなどにも拠点を構え、現地スタートアップ企業と連携しながら、最先端テクノロジーを活用した新たな保険サービスを模索している。

その取り組みの現在地、そして今後の展望を、両社でイノベーション領域のリーダーを務める中山新氏(第一生命ホールディングス Dai-ichi Life Innovation Lab 部長)、住隆幸氏(東京海上ホールディングス 事業戦略部 部長 / Global Head of Tokio Marine Innovation Lab)にうかがった。

損害保険と生命保険。対象は異なるものの、インステックで課題解決を目指すその先に、保険のあり方を広げる可能性が見えた。


取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:朝山啓司

「何かが起きてから」ではなく「起こる前」に。いまは保険のあり方が変わる過渡期

HIP編集部(以下、HIP):インステックは現在の保険業界を語るうえで欠かせないキーワードだそうですが、実際にインステックによって、実際に保険サービスはどう変化するのでしょうか?

中山新氏(以下、中山):第一生命では、ビッグデータを分析することで、新たな商品やサービスを提供したり、生命保険にご加入いただける範囲を広げたりしています。

たとえばこれまで、糖尿病などの健康状態を理由に、新規に生命保険に加入いただけない、あるいは保険料が割増になるといったケースがありました。しかし、高度なデータ分析が可能になったことで、そのような方々と健康な方々とで、入院や死亡などの可能性に差が少ない場合があることがわかってきたのです。こうした取り組みによって基準を見直すことができ、健康な方々と同じ条件で加入いただけるお客さまが増加しています。

第一生命ホールディングス株式会社 Dai-ichi Life Innovation Lab 部長 中山新氏

中山:生命保険は何かが起きたときに保険金や給付金のお支払いによってお客さまやご家族をサポートする商品ですが、データやテクノロジーを活用することで、疾病の予防や早期発見というかたちで、健康寿命の延伸やQOL(クオリティーオブライフ)の向上にもっと貢献できると考えています。

HIP:一方、東京海上が取り扱う「損害保険」の領域では、インステックの導入でどんな変化が起こるのでしょうか?

住隆幸氏(以下、住):わかりやすいのは自動車保険の例です。2017年には、自動車保険の特約としてドライブレコーダーをご提供するという、世界初のサービスを始めました。ドライブレコーダーが事故を検知すると、その映像がコールセンターへ共有され、オペレーターとやりとりができる仕組みです。ドライバーが呼びかけに応えない場合は、こちらから救急車を手配します。

東京海上ホールディングス株式会社 事業戦略部 部長 / Global Head of Tokio Marine Innovation Lab 住隆幸氏

HIP:事故データの収集にもつながりますね。

:事故の映像だけでなく、車の挙動や縦横・上下の動きも把握できます。たとえば事故を起こす前の車の挙動データを蓄積し、それを分析することで、危険な状態を検知するシステムを構築できないか、といったことも試しています。事故を起こしたあとの対応も大事ですが、そもそも「事故を起こさないためのサービス」を提供するべく、データを積極的に活用していくこともわれわれのミッションです。

「起こった変化に対応するだけでなく、みずから変化を起こしていきたい」

HIP:そもそも、両社がインステックに注力し始めた背景には、どのような課題感があったのですか?

中山:第一生命のインステックチームの立ち上げは2015年12月。当時は「社会情勢やビジネス環境の急激な変化、お客さまのニーズの多様化に、いかに応えていくか」というグループ全体の問題意識がありました。

起こった変化にただ「対応する」だけではなく、テクノロジーを活用して、むしろ「自ら変化を起こしていく」ことが必要だと考え、新たなビジネスやイノベーションを創出するチャレンジとして、インステックへの取り組みをスタートさせたのです。

イノベーションには外部のさまざまなパートナーとの連携や失敗を恐れずチャレンジする姿勢、機動的なトライ&エラーが欠かせませんが、既存の大企業のカルチャーではうまく進まない可能性もある。そこで、2018年4月には取り組みをさらに強化するために、専任組織という位置づけで「Dai-ichi Life Innovation Lab」を設立しています。

HIP:東京海上も、ほぼ同時期に取り組みをスタートさせていますね。

:東京海上では、2016年3月に、30年先の環境変化を見据え、中長期で取り組むべき課題を特定しました。そのなかで、もっとも早期に手を打たなければならないのがデジタルへの対応だったのです。

われわれが取り扱う近代的な損害保険は、17世紀にイギリスで始まったものです。以降、貨物保険から火災保険、やがて自動車保険や航空保険、近年ではサイバーリスク保険というように、保険の対象となるリスクは変わっても、基本的な形態が大きく変化することはありませんでした。ところが、デジタルの台頭で、約4世紀続いた仕組み自体が立ち行かなくなる可能性が出てきている。

そこで、具体的に何がどう変わるのか、どんな可能性があるのかを見出すために、2016年の7月にデジタル戦略室をつくり、インステックへの取り組みを本格的にスタートさせました。

テクノロジーが刻一刻と進化する一方、保険業界は法規制も多く、商品開発の自由度は低い。私はデジタル戦略室の設立と同時に室長に着任しましたが、当時から「早く始めないと時代に追いつけなくなる」という危機感がありました。

次のページ

大企業内での新チーム誕生。リーダーが最初に着手した仕事とは?

HIP Events Information

HIPイベント情報

Keep in touch!

HIPはこれから、
さまざまな活動をしていきます。
今後の活動をお知らせしますので、
メールアドレスをご登録ください。