INTERVIEW
VCが目指す、イノベーションのエコシステム「Incubation Hub Conference」イベントレポート(前編)
村田 祐介(Incubate Fund General Partner & Co-Founder)

INFORMATION

2015.06.11

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活況となってきているスタートアップ界隈。10億円以上の調達や買収のニュースを耳にする日も多くなってきた。そんな中、六本木ヒルズのアカデミーヒルズで2015年3月17日に開催されたのが「変革期を迎えたスタートアップファイナンス」をテーマにしたイベント、「Incubation Hub Conference 2015」だ。募集開始後すぐに定員に達したことからも、テーマや登壇者への期待や関心の高さがうかがえる。同イベントを、インキュベイトファンド代表パートナーの村田 祐介氏によるキーノートを前編とし、その後に続いた日本を代表するベンチャーキャピタリストによるパネルディスカッションを後編としてレポートする。
取材・文:HIP編集部

まず、キーノートとしてインキュベイトファンド代表パートナーの村田 祐介氏が登壇。ベンチャーキャピタルをめぐる変化について語った。

村田氏「スタートアップの資金調達やIPOといったニュースがメディアを騒がせています。ライブドアショック、リーマンショック以降、冬の時代が続いていたベンチャー界隈において、構造的な変化が起きていると感じています。本日はその変化についてお話できれば」

この領域に起きている構造的な変化として、村田氏は「ファンドの仕組み」「投資環境」「IPO」「M&A」の4つを挙げた。

リーマン・ショック後、立ち上がってきた独立系ベンチャーキャピタルたち

日本のベンチャーキャピタル(以下、VC)の歴史は、1972年に京都経済同友会のメンバー会社が共同出資によって京都エンタープライズディベロップメントを立ち上げたときから始まる。翌73年には現ジャフコの前身となる日本合同ファイナンスが設立された。

その後、金融機関系のVCが存在感を発揮し、証券会社の1営業ツールとして捉えられる時代が2000年代前半まで続いていた。実際にファンドも、ジャフコや金融機関系VCが多くの割合を占め、ファンドの調達の担い手でもあり、投資の担い手でもあった。

村田氏「しばらく続いていたこの体制が大きく変化してきました。リーマン・ショック後、ファンドレイズがなかなかできない中で、独立系VCが生まれてきました。この2年間で実に40ファンドが新たに立ち上がっており、その半数が独立系という状態になっています」

村田氏は、独立系第一世代として90年代後半に立ち上がったVCであるグロービスベンチャーパートナーズ、日本テクノロジーベンチャーパートナーズらを挙げた。その後、リーマン・ショックが明けた2010年前後に、Infinity VenturesやB Dash VenturesやEastVentures等が生まれ、直近ではANRIやSkyland Venturesといった若手ベンチャーキャピタリストによる独立系VCが登場してきた。これらのVCはゼネラル・パートナーが30歳前後と若いのが特徴。彼らはエンジェル投資家から資金を集め、自身でファンドを運営している若手キャピタリストだ。

数億から数百億に。急速に拡大する日本のファンド環境

村田氏「グロービスはいまでこそ累計で600億という規模のファンドを立ち上げてきていますが、最初は5億円からのスタートでした。ANRIやSkyland Ventureも一桁億からのスタートをしています。最近では、WiLは450億円、グローバルブレインもトータルで400億円、インキュベイトファンドも2010年からの累計で180億円と、3桁億を越えるようなファンドの組成をするプレイヤーがようやく増えてきました」

独立系VCが存在感を発揮する中、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)もここ3、4年で増加してきている。30、40社ほどがスタートアップに直接投資をする事業会社として活動している。大企業系のCVCもいくつかあるが、成功しているところとそうでないところが出てきていると村田氏は語る。

CVCは基本的に本業とのシナジーを追求して、本業の事業ポートフォリオを重視する。これまでは親会社の看板を背負いながら始めるVCが多かったが、結果を出してきているCVCはそのあたりが変化してきているという。

村田氏「親会社の事業シナジーを優先するのではなく、ファンドとして純粋に投資で収益を上げることを考え、親会社にはキャピタルゲインをしっかり返す。その中で事業シナジーを見込めるところがあれば十分だ、と考えるCVCが結果を出してきています。」

ベンチャーキャピタリストは個人で腹をくくって投資すべき

村田氏「また、会社の看板ではなく個人の看板で投資するキャピタリストが増えてきており、自分自身の名前で投資するからスタートアップからも信頼され、結果を出してきています」

ファンド機構にも変化の波は訪れている。これまで日本ではベンチャーキャピタル会社があり、そこがファンドの運用者となってお金を集め、サラリーマンキャピタリストが派遣されて投資を行うという形式だった。これは日本独自の方式だ。

村田氏「投資される起業家からすると、サラリーマンにそんな話をされても響きません。会社員であれば人事異動や転勤のリスクもあり、出資を決めた人と別の担当者がやってくることもあります。そうするとそれまで築いてきた関係が崩れてしまう。起業家にとってリスクが高いため、こうしたVCは敬遠されてきました」

ベンチャーキャピタル個人が自らも出資してファンドを作り、そのファンドに出資してくれる人を集めて、そのお金で投資活動をしていくのがあるべき姿だと、村田氏は語る。

村田氏「自ら出資をして個人としてそのファンドに関わることになればコミットするしかありません。そうすることで、起業家に対しても腹をくくれといえる関係、太くて長い信頼関係を築くことができます。また、この形式であれば成功報酬の面でも変わってきます。」

会社を介してしまうと投資が成功したとしても、その成功報酬はまず会社に入り、そこから支払われるため、キャピタリストに還元される金額が微々たるものになってしまう。個人として関わっていれば、得られる成功報酬も高いというインセンティブの高い状態となる。

村田氏「この方式が最近立ち上がった独立系VCに採用されています。最近では、CVCでも会社からも個人からも出資するというハイブリッドタイプが出てきています。より個のキャピタリストが際立つ形となり、起業家と信頼関係を築き始めています」

アメリカ、中国と比べると金額は小さい。長期的に投資環境を整備していく必要がある

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