INTERVIEW
ロンドンとニューヨークの事例から考える、オリンピック以降の東京の街作り — Innovative City Forumレポート(2)
リッキー・バーデット(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授) / ティム・トンプキンズ(タイムズ・スクエア・アライアンス代表)/ マイケル・キンメルマン(ニューヨーク・タイムズ建築批評家) ほか

INFORMATION

2015.11.30

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「21世紀は『都市の時代』」ーー多くの識者はそう語る。「国民国家の時代」、「グローバル企業の時代」を経て、やってきた「都市の時代」。人材も、企業も、魅力ある都市に集まり、そこで新たなイノベーションを生み出している。こうした流れは加速し続けており、都市が今後どう変化していくのかは非常に重要な課題だ。

2015年10月14日〜16日に開催された「Innovative City Forum 2015」では、20年後の都市における私たちの暮らしに焦点をあて、さまざまなセッションが開催された。HIPでは、その中から2つのセッションを取り上げる。

テクノロジーやアートを駆使して、都市でいかに「遊ぶ」かをテーマにした「Playable City」のセッションに続き、今回は都市開発とエリアマネジメントをテーマにしたセッション「ロンドンとニューヨークにおける街づくりの先進事例に学ぶ」を取り上げたい。

ゲストには、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授のリッキー・バーデット氏、タイムズ・スクエア・アライアンス代表のティム・トンプキンズ氏、『ニューヨーク・タイムズ』紙で建築批評を担当するマイケル・キンメルマン氏らが登壇。モデレータは、明治大学専門職大学院長で森記念財団理事の市川宏雄氏が務めた。

取材・文:HIP編集部 写真:御厨慎一郎

東京オリンピックに向けて重要視される「エリアマネジメント」とは

世界の都市は常に変化している。ニューヨーク、ロンドン、パリ、上海など、世界中の都市で超高層化が進んでいるが、東京も例外ではない。この先、丸の内、日本橋、虎ノ門、渋谷など各エリアで高層ビルの建設がかなりの数計画されている。こうした超高層化は、外見による都市の差別化が難しくなるという課題を孕んでいる。単に超高層ビルを建てていくのみの都市開発では、都市間競争に勝つことは難しいのだ。

各都市でどう特色を出し、他の都市と差別化を図っていくのか。そのためには、どのようにエリアを運営するかという「エリアマネジメント」という視点が重要になる。この取り組みには、美しい街並みの形成や資産価値の保全などだけではなく、地域作りやコミュニティの形成、地域の伝統・文化の継承といったソフト領域も含まれる。

東京の各地域でも、都市開発やエリアマネジメントに向けた動きが見られるようになってきており、2020年の東京オリンピックを控えその重要度は今後増していくと考えられる。エリアマネジメントにおいて先進的な事例が数多く見られるロンドンやニューヨークでは、どのような取り組みが行われてきたのだろうか。

「オリンピックは、私たちにとって魅力的な街作りとは何かを考えさせてくれました」

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授であり、ロンドン市長の建築アドバイザーとしても活動してきたリッキー・バーデット氏は、まず初めに都市がどのように形作られているのかについて語った。都市における意思決定者は誰なのか、運営の形態や建物やインフラの密度はどうなっているのか、人がどこに住み、交通システムはどのように整備されているのかなど、さまざまな要素が都市の形成に影響を与えているという。

ロンドンは、大量の移民の受け入れによって人種が多様で、人口の4分の1が25歳以下で高齢化も進んでいない若い都市だ。一方、都市の東側に住む人々は寿命が短い上に失業率も高く、さらに教育水準も低い。バーデット氏は「西側と東側とで差が生まれている。この東西の格差に手を打たなければならない」と語る。

また、1940年代に実施された都市計画により「グリーンベルト」と呼ばれる一帯が生まれている。これは、郊外地帯における人口の過密化を防ぐため、都心から20~30キロ圏をグリーンベルトと呼ばれる緑化地帯にして開発を抑制するという計画だ。こうした歴史がある中で、ロンドンは変化を求められているという。

バーデット「ロンドンでは、今後15年で100万人ほど人口が増えると予測されています。東西格差の問題だけでなく、こうした変化に備え、街も変化していく必要があります。」

リッキー・バーデット氏(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授)

では、今後ロンドンではどのような開発が行われていくのか。ロンドンは比較的東京の事情に近く、自動車ではなく電車などの公共交通機関に依存して開発が進むと予測されている。バーデット氏によれば、ロンドンを対角線上に横切る地下鉄の建設が予定されている他、以前から存在していた路線を活用して環状線を開発することも予定しているという。こうした新たなインフラの開発により、ロンドンに住むことができない人たちも都心にアクセスしやすくなるだろう。

『ハリー・ポッター』で始発駅として登場するキングズ・クロス駅周辺も再開発が進んでいる。大学や研究機関、商業施設などが開発されており、公共空間同士のネットワークを考えて設計されているそうだ。これには新しい建物だけではなく、250年前からある建物や広場なども含まれる。企業からの投資も行われており、Googleはこのキングズ・クロスに新社屋を建設しているそうだ。

再開発後のキングズ・クロス駅周辺 Photo courtesy of Ricky Burdett

文化面、芸術面も都市開発において重要なポイントだ。ロンドンではアクセスがそれほど良くないところでも、ふとしたきっかけで開発が進むことがある。イギリスの代表的な建築家ノーマン・フォスターが設計したテムズ川に架かる橋「ミレニアム・ブリッジ」は、待ち合わせ場所として人気のスポットとなり、その周辺ではアート・クリエイティブ関連の投資が盛んになったという。「計画書があったわけではないが、こうした開発も起こる」とバーデット氏は語る。

最後に、バーデット氏は2012年に開催されたロンドンオリンピックについて語った。

バーデット「オリンピックは、私たちにとって魅力的な街作りとは何かを考えさせてくれました。2012年のために何かしようと考え、その際に20年、30年先の未来に向けて計画したことが、いま少しずつ形になり始めています。オリンピックの前、イースト・ロンドンは最も貧しい地域でした。オリンピックを通じて、そのエリアに『ロンドン・アクアティック・センター』という屋内水泳施設などを作り、オリンピックで使用した後は、家族を連れていつでも利用できる施設にして、社会サービスを充実させたのです。このように、オリンピックの公的資金をうまく地域社会に使うことで、長期的な価値を生み出すことができます。」

ロンドン・アクアティック・センターを右手に見たオリンピック・パーク周辺 Photo courtesy of Ricky Burdett

オリンピックを控えた東京にとって、ロンドンの都市開発から学ぶことは多いのではないだろうか。

タイムズ・スクエアは、治安の悪い場所からいかにして世界的に有名な公共空間となったか?

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