消費者の日常に寄り添う「問い」をデザインすることが重要。そこから本当の声が聞こえてくる。
HIP:坂田さんは、もともと消費財メーカーでマーケティングを担当されていたと伺いました。そこから起業してBlabo!を立ち上げるに至った課題意識はどのようなものだったのでしょうか?
坂田:メーカー時代は、消費者との距離が遠いことに違和感を感じていましたね。当時は商品開発のための調査をする際、マジックミラー越しから消費者の回答を見ることの繰り返し。「なぜマーケターは直接話せないのだろう」とモヤモヤしていました。
「お客さまの声を聞く」というのは商売の基本、というより原点ですよね。八百屋さんでも、レストランでも、お客さまの声を受けて商品やサービスは良くなっていくものです。しかし、全国に流通する商品をつくるとなった途端、マーケターや開発担当者が会議室にこもり始める。お客さまと直接向き合わないで何を議論しているんだろう? という思いがありました。
また、同じ会社の社員同士だと考えも似通ってきますし、役員に企画を通すために余計な考えが入ってしまうこともあります。さらにアンケートに回答していただく消費者にとっても、わざわざ本音で答えるメリットがないんですよね。そんななかで、「単純なヒアリング相手としてだけでなく、パートナーとしてお客さまと一緒に商品をつくる」ことが、インターネット時代だからこそできるのではないかとずっと考えていました。
HIP:インターネットを活かして、商売の原点に立ち返るチャンスを見つけ、それを実現するためにBlabo!を立ち上げたということですね。
坂田:そういうことです。本音というのは、自然な会話のなかでぽろっとこぼれ落ちるものだと思うんです。Blabo!では、消費者の本音を引き出せるようにサービスを設計したり、ファシリテーションをサポートしたりしています。
宮戸:Blabo!は「社外に開かれた企画会議」のようなものですね。通常の消費者調査では、参加者に対して社名も明らかにせずに質問することが多いのですが、Blabo!の参加者は「自らハウス食品の会議に参加している」ので、その違いは大きいと思います。
HIP:とはいえ、Blabo!の企画会議とこれまでの消費者調査では、参加者に明確にメリットの違いがないようにも思います。どのように参加を促しているのでしょうか?
坂田:通常の「消費者調査」は、商品開発の途中で、企業が立てた仮説が正しいかどうかを検証する「答え合わせ」なんです。対してBlabo!では、企業側も答えを持っていない、根本的な疑問を参加者に問いかける。これを「共創」と呼んでいるのですが、「一緒に商品をつくる」という知的好奇心を満たすプロセスが入ることで、参加者にとって、消費者調査とはまったく違った体験になるんですね。
またBlabo!のユーザーには、「料理が好きだから、自分の得意なことを話したい」といったモチベーションが参加の動機になっている方が多くいらっしゃいます。好きな商品に対して、普段から思っていることってありますよね? でもその声を簡単に直接届けられる場所ってあるようでなかったんです。そんな思いを持った方々に「言いたいことを言える場」を提供することができれば、これまでの調査では見えてこなかった声が集まると思ったんです。
モチベーションに訴えかけることで、意見にもリアリティーが出てきます。自分の声が好きな商品のメーカー、開発者に届く。さらには、そのアイデアが採用されて商品になったり、メディアで話題になったりする。これはすごく大きな参加の動機になるんですね。
店頭でお客さんと話す感覚でマーケティングができれば、人間味のある良い商品が生まれると思います。
HIP:ハウス食品とBlaboのコラボレーションは、今後どのような展開を予定されているのでしょうか?
宮戸:Blaboさんとの取り組みは、クリームシチューの課題を解決するためにスタートしました。今後はビーフシチューなども含めた「洋風煮込み料理」としての提供価値を高めるべく、企画会議を行っていきたいと思っています。
坂田:ハウス食品さんのシチューには、創業の頃から大事にしている「食卓のママをサポートする。忙しいなかでもママが手料理をつくってあげられる、そんな世界をつくりたい」という「理念」が活かされています。この理念に立ち返りながら、商品だけでなく、企業がどのようなマーケティングをしていくべきかまで一緒に考えていきたいですね。そのためには、その時代ごとの消費者の声をしっかりと聞くことがますます重要になっていきます。
HIP:たしかに、ハウス食品さんの理念にある「食卓のママの悩み」も時代の変化とともに大きく変化していますね。企業理念の解釈も消費者に合わせてアップデートする必要がありそうです。
坂田:Blabo!では、メーカー担当者が消費者と一緒に語り合いながら、フィードバックをもらうことができる。つまり、消費者とともにマーケティングのPDCAサイクルを回していくことができるわけです。
モバイルアプリが毎週のようにアップデートを繰り返しているように、これからはメーカーも消費者と密にコミュニケーションをとりながら、PDCAサイクルを回していく、「アジャイル型」のマーケティングを行う時代になるのではないでしょうか。八百屋さんが店頭でお客さまと話すくらいの感覚でマーケティングを行えれば、もっとさまざまな価値が発見され、人間味のある良い商品が生まれていくと思います。