Blaboさんとの協業を社内で説明するとき、「イノベーション」「共創」といった言葉は、あえて使わないようにしました。
HIP:外部のプラットフォームで生まれたアイデアをもとに販促や商品開発を実現させていくというのは、ハウス食品がこれまで行っていた方法とは異なるプロセスだったと思います。社内で話を通していくうえで大変だった点はありますか?
宮戸:「わけかけシチュー」のプロモーション動画を展開する際、「かける」食べ方を正式なプロモーションとして世の中に投げかけていいのかという議論がありました。これまでハウス食品からシチューを「ご飯にかけるもの」として訴求したことは一度もありません。だから当然ではありますが、反対意見も少なくはなかったです。そのため、「わけるかかけるか」をアテンションとしつつも、プロモーション動画の目的は「シチュー1品で満足できるレシピの訴求」であることを明確にしました。
宮戸:動画アップ直後から多くのニュースサイトで取り上げていただき、後に、このプロモーションを毎日新聞や日本テレビの情報番組「ZIP!」に取り上げてもらったり、Yahoo!ニュースのトップに掲載されたり、想像以上にメディアからの反響をいただきました。そのタイミングでようやく社内で認められたという印象です。メディアなどで普段なかなか話題に上がることのないシチューがここまで盛り上がったことで、社内でお墨付きを得ることができました。
HIP:ベンチャー企業として新しいサービスを提供するBlaboとの協業について、社内に理解してもらうために意識したことはありますか?
宮戸:Blaboさんとの協業を社内で説明するときは「イノベーション」「共創」などといった言葉は、あえて使わないようにしました。こうした華やかな言葉を持ち込んでも、流行りものに飛びついた、上辺だけの変化のように思われ、社内から拒否反応が出ることは目に見えていましたから。「潜在ニーズを掴みます」「やり方を変えます」などと、あくまで社内のメンバーが普段使っている言葉で話をしていきました。
「手抜きできる」というのは、奥さまが楽になったということ。私たちにとっては褒め言葉です。
HIP:Blabo!でのリサーチを経て、これまでのハウス食品ではあり得なかった「シチューオンライス」という新商品が実現しました。何が決め手になったのでしょうか?
宮戸:弊社では以前から、商品開発の際にユーザーとなる主婦を対象に味覚評価と使用意向を確認する「味覚調査」を行っています。そこで反応が良いと、商品化の実現に一歩近づくのですが、じつはシチューオンライスの味覚調査では「このメニューを家族に出せますか?」という質問を追加したのです。
HIP:その質問の追加にはどのような意図があったのでしょうか?
宮戸:この製品に関しては、商品の買い手であり、つくり手である主婦が自分の好みだけでなく、夕食のメインディッシュとして家族に出せるものだと思えるかが成否のポイントだと考えていました。そのため、対象ユーザーを「わけ派」かつ「シチューを食べる際、ほかにおかずをつくっている主婦」に限定しました。
実際、味覚調査において主婦の方から「メーカーが製品化してくれたら家で堂々と食卓に出せる」というコメントをいただき、シチューオンライスはこ主婦の潜在ニーズに応えるアイデア・コンセプトだと確信しました。
そういった味覚調査の結果を踏まえて社内答申を行ったところ、比較的スムーズに承認を得ることができました。シチューに対する主婦の潜在的な不満に製品で応えるというストーリーが理解されたからだと思います。
HIP:主婦の方々の声が商品化実現の後押しになったのですね。発売後の反応はいかがでしたか?
宮戸:共働きの主婦の方から会社に「(この商品は)救世主です」という感想をいただきました。旦那さんに「シチューだけではおかずが足りない」と言われていた奥様から寄せられたのですが、「もう一品つくらないといけない」状況から解放され、夕食の準備が楽になったと。
そして、この「もう一品つくらないといけない」という状況こそが、家庭のなかでクリームシチューを食べる機会が減った主な原因と理解しました。多くの家庭で「寒いからシチューにしたい、でももう一品つくらないといけない、面倒くさいから鍋にしよう」という状況があったのだろうと推測します。
Instagramで「シチューオンライス」の写真をアップロードしている方々のコメントを見ると、「今日は手抜き」といった主婦の投稿が多いんです。普通ネガティブな意味で使う「手抜き」をポジティブに使っているのが特徴です。奥さまが楽になったということ。私たちにとっては褒め言葉なんです。