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東日本大震災直後に社長に就任。逆境から会員定着率95%を実現したスポーツジムの躍進劇
株式会社ルネサンス 代表取締役社長執行役員 吉田正昭
2016.04.04

「入会したものの、気がつけば数か月行っていない」――フィットネスジムやスポーツクラブに入会したことのある人の中には、こうした苦い経験を持つ人も多いのではないだろうか。そんな中、「新規入会者の3か月定着率が95%以上」という脅威の数字を誇っているのが、全国に132店舗(受託施設、リハビリ施設、小型店含む)を展開する「ルネサンス」だ。定着率の高さだけでなく、2012年にはリハビリ特化型デイサービス施設「元氣ジム」の設立、2014年にはベトナム・ハノイへ進出するなど、この数年の間に多様な変化を遂げてきた。

「ルネサンス」のこうした改革を牽引してきたのは、東日本大震災直後の2011年4月に同社代表取締役に就任した吉田正昭氏。逆境が押し寄せる中、どのように経営の回復、さらには躍進を図ったのか。その立役者である吉田氏にお話を伺った。

取材・文:HIP編集部 写真:大畑陽子

入会者を多く獲得することから、いかに長く通っていただけるクラブに変貌するかに考え方を転換したんです

HIP編集部(以下、HIP):吉田さんは子どもの頃からスポーツがお得意だったそうですね。

吉田正昭(以下、吉田):昔から運動神経は良い方でしたね。高校からずっとフェンシングをしていて、オリンピックを目指したいと思っていたので、就職のときはスポーツ系の会社ならそれができるかなという甘い考えを持っていました。それで、大学卒業後は現在の株式会社コナミスポーツクラブの前身であるピープルという会社に入ったんですけれど、いざ入社してみたらそれどころじゃなかった。

HIP:というのは?

吉田:入社してすぐ、スイミングスクールのコーチを担当することになったのですが、これがものすごく忙しくて。とてもじゃないけど「(フェンシングを)練習させてほしい」なんて言えなくて、1日も練習したことはありませんでした。そこで一度オリンピックへの夢は諦めたんですけれど、30歳のときにまたフェンシングに挑戦することにしたんです。公に仕事を休める理由として、国体に出るのが一番なんじゃないかと思って、いきなり予選会に出場しましたね(笑)。

HIP:再び夢に挑戦されたんですね。ルネサンスへの転職は国体に出場したことがきっかけだったのでしょうか?

吉田:いえ、転職したのはもっと後でした。人事の責任者だった頃にピープルがコナミさんに買収されることになり、思想が違う人間が集まることでぶつかることも増えたりしました。その状況をなんとか切り抜けてからもともとの営業職に戻り、専務として1年務めたところで業績もしっかり出すことができたんです。それで、2004年にルネサンスに転職することに決めました。

HIP:転職先のルネサンスではどのようなことを実現したいという気持ちで入社されたのでしょうか。

吉田:当時は「何かを変える」という気持ちではなく、前の会社で経験して培った思想をこの会社でも実現させたいという想いがありました。その頃のルネサンスはちょうど上場したばかりの時期で勢いもあったんですよ。ただ、入社後に業績が急激に下降して、厳しい時期に突入することになったんです。そのような状況でしたが、どうやって業績が上がるかは一度通った道があるので、やり方さえ間違えなければ改善できるという自信はありました。

HIP:改善に向けて、具体的にはどういうことをされたのでしょうか。

吉田:まずは考え方を改めました。当時は入会を多く取ることが業界内での評価につながっていたのですが、そのためには当然、大きなお金を使って販促しないといけません。けれども、結局入会しても早いタイミングで辞めてしまう人が多いんです。フィットネス業界はずっとそれを繰り返してきたのですが、「いかに入会者を多く獲得するか」という考え方から、「いかに長く通っていただけるクラブに変貌するか」に転換しようと思いました。それで、入会予算を落とし、すべてのデータを見直して、配布しているのに入会者が少ないエリアのチラシを止めることにしたんです。その分のお金をそれまで後手に回っていた施設の修繕費用に回しました。

HIP:お客さまに長く通っていただくためへの第一歩ですね。

吉田:お客さまに対しても大事なことなのですが、従業員たちは本当にホスピタリティを持って仕事をしてくれているのに、施設が傷んでいるせいで自分たちの技術や想いを発揮できないのはナンセンスだな、と。環境が整ってこそ、初めて腕を見せられるというか。でも、すぐに成果が出るわけではないので、営業本部長になった年の年度末は一番業績が悪かったんです。でも、その翌年から徐々に上がっていったんですよね。

社長就任直前に東日本大震災が発生。辞めていく人がいっぱい出てくるだろうという覚悟はしていました

HIP:そうした功績を買われて吉田さんが社長に就任されたのが2011年4月。前の月に東日本大震災という未曾有の出来事があった直後ということで、かなりの苦境に立たされたのではないかと思うのですが、いかがでしたか?

吉田:当然のことながら当時は新たに入会する方は極端に減り、退会する方も増えました。会員の定着がせっかく実現されてきていたのに、そこで増えた1万人分がまた0に戻った感じで、それに伴い収入も落ちましたね。

HIP:厳しい状況ですね。

吉田:地震が起きた日、本社に対策本部を設置して、全国の会員と従業員の安否確認をしたんですね。その結果、幸いなことに一人の犠牲者も大きな怪我をした人もいないということがわかったんです。命に変わるものはないですから、それが頑張る土壌になりました。「1年かけて会員を取り戻そう」という話はしていたものの、辞めていく人は更に増えていくだろうという覚悟はしていましたね。

HIP:予想されていた通り、辞める人は増えていったのでしょうか。

吉田:実は、5月から急に入会する方が増え始めたんです。特に東北地方は前年比150%の伸びを示しました。あの日、関東でも交通機関が麻痺しましたよね。当社の本社ビルの前を通る京葉道路も、歩いて帰る方の列ができました。健康な人は自分で歩いて帰れるんですよ。それで、「自分の身体は自分で作らないといけない」という考えも出てきたのではないでしょうか。

HIP:健康に対する意識が高まったんですね。

吉田:そうだと思います。また、東北でライフラインが止まった際、仙台のクラブから地域の人にお風呂を開放したいという申し出があったんですよ。安全面の確保ができれば問題ないということで実施したのですが、朝から本当に多くの方がいらしてくださって。フィットネスクラブというと敷居が高いというイメージだったのが、いざ自分の目で見てみるとそうでもなかったと思う方もいたでしょうし、現地のスタッフも地域の方々とさまざまなコミュニケーションを取ることができたんです。そういったことが相まって、当初1年を予定していた会員数の回復が、半年強でクリアできました。

HIP:東北のスタッフの方々は、自分たちも被災者でありながら地域の人たちをバックアップしていたんですね。

吉田:それが当社の特長だと思うんですよ。地域と連動して活動していくという想いは、「生きがい創造企業」としてお客様に健康で快適なライフスタイルを提案するという創業当時からの理念にもつながっていますし、その中でみんな育ってますから。なので、東北での活動も特別に何かしたということではなく、当たり前の行動だったんだと思います。

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東日本大震災を乗り越え、成長を続けるルネサンス。3か月定着率を95%まで引き上げた秘訣と、ベトナム展開の理由を語る

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