“トイレそのものが注目をされるというのは海外では考えられない。トイレを話題に出すのは恥ずかしいという感じが強いから。(クライン)
HIP:「GALLERY TOTO』は建築家であるお二人に対して成田国際空港が敬意をはらい、TOTOもその心意気に応えた、三位一体でこそ成し遂げられた空間なのですね。実際に使用した方々からはどんな感想が聞かれますか。
橋田:わざわざ「GALLERY TOTO」を見るだけの為に台湾から来てくれた方や「自宅も同じトイレにする」と熱心に写真撮影をされていたアメリカの方など、さまざまです。共通しているのはみなさん「日本はスゴいね」「TOTOはスゴいね」と感動してくださっていること。トイレに感動するって、なかなかない経験ですよね。
クライン:トイレそのものが注目をされるというのは海外では考えられない。トイレを話題に出すのは恥ずかしいという感じが強いから。先日、ニューヨークの講演会で、高校生に「GALLERY TOTO」の写真を見せたら大笑いされましたよ。彼らには照れもあったのでしょうね。
ダイサム:海外では、日本のように清潔で機能的な公衆トイレは少ない。むしろ「汚い場所」という印象です。
クライン:今回のプロジェクトでは、日本のトイレの清潔さや便器の技術力の高さといった「トイレ文化」がベースにあったからこそ、冒険的なことができました。
ダイサム:「GALLERY TOTO」はデザイン性の高さや技術力だけではなく、常にトイレを清潔にしてくれるスタッフがいてこそ成り立っています。「GALLERY TOTO」に限らず、日本のトイレはとても清潔に使用されている。これは海外にも広めていきたい習慣です。
HIP:お二人は日本の清潔で機能的なトイレに慣れてしまったのではないですか?
ダイサム:そうだね。ただ、困ることもある。ぼくの息子が、いつも便座ヒーターの温度を最高まで上げるんですよ。ぼくには熱すぎる。ただ、先日まで来日していた妹は、「please bring back Japanese Toilet.」ってSNSに書き込んでいた。ぼくの故郷のイギリスは寒いから(笑)。
クライン:私はウォシュレットにトラウマがあるわ。来日した25年前にはすでにウォシュレットは販売されていていました。ある日、オープンハウスの内覧会でトイレを使ったのですが、ボタンが多過ぎでどうやって流していいかわからない。いろいろと押していたら水がプシュー。
一同:(笑)。
“悪いものは悪いし、素晴らしいものは素晴らしい。だから、日本のトイレ文化も絶対に受け入れられるはずです。(クライン)
HIP:日本に長く住む外国人の目線から、なぜ日本人はこれだけトイレにこだわりがあるのだと考えますか?
クライン:日本人は日常のさまざまな面で細部にまで気配りが行き届いている。だからこそ、トイレにも気を配るのは当たり前。逆に、海外のトイレにこだわりがないのは、そのほかのこともあまりこだわりがないからだと思いますよ。
ダイサム:そう、サービスや製品にも繊細さがない。
HIP:日本のトイレには繊細さや気づかいが具現化されているということですね。日本のトイレ文化が海外に広がると、そういった部分も広がるかもしれませんね。
クライン:海外の観光客が日本製便器の技術力に感動する話はよく聞くけれど、彼らはきれいにキープされたトイレを汚さないように使うといった日本人の姿勢にも感銘を受けています。人種や文化が違っても、素晴らしいものは素晴らしいという感覚はどこか似ているもの。だから、日本のトイレ文化も絶対に受け入れられるはずです。
HIP:もし、理想のトイレを設計できるとしたら、どういった空間をデザインしますか。
クライン:「GALLERY TOTO」はかなり理想的なトイレなので、その質問は難しいな。
橋田:このプロジェクトも「世界一のトイレをつくりましょう」ということで始まりましたからね。それに予算や広告宣伝の問題など、一つひとつのハードルをクリアしながらやってきた。タイミングや人材が揃ったからこそ、たまたま実現することができたんです。欲を言えば、世界中の空港に「GALLERY TOTO」ができると嬉しいですね。
クライン:それには一つ問題がありますね。それは日本のトイレのように、清掃とメンテナンスが行き届いた状態をキープし続けなければならないこと。機能やデザインだけでなく、文化として広めないと逆に悪い印象を与えかねません。
ダイサム:海外でも同じ機能の便器を使い、同じデザイン空間をしつらえ、同じレベルのメンテナンスができたら、ウォシュレットとともに日本のトイレ文化が世界中にが広まっていくかもしれませんね。
(※)「ウォシュレット」はTOTO株式会社の登録商標です