INTERVIEW
富士ゼロックスで20年続くイノベーション文化。キーマンが語る秘訣とは?
森谷幸代(富士ゼロックス株式会社 バーチャルハリウッド・プラットフォーム グループ長)

INFORMATION

2018.06.29

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会社を変えるには、VHPで生き生き活動している人たちの姿を見せるのがいちばんだと思った。

HIP:森谷さんが異動して以来2018年までに、参加者数は約5倍、活動テーマ数は約4倍に増加していますね。具体的にどのような施策を行ったのでしょうか?

森谷:私がVHPグループに加わった頃、社内ではプログラム名が知られている程度で、取り組みの内容まで理解している社員は、私の周囲にはほとんどいませんでした。そこで活動の見せ方を変えることにしたんです。

HIP:見せ方ですか?

森谷:たとえばレストランを探すときって、口コミの情報を頼りますよね。ウェブサイトに掲載されたシェフの挨拶文とか、美しく撮られた料理や店内の写真よりも、「おいしかった」とか「コスパがよかった」とか、利用者からの生の情報に説得力がある。

VHPの場合もそれと同じで、推進スタッフである私たちが言葉であれこれ説明するより、実際に活動している人たちの姿を見せたほうが魅力を伝えられると思ったんです。当事者たちが生き生きと楽しく仕事をしている姿こそ、潜在的に何かやりたいと考えている人を触発する、いちばんのトリガーになるのではないかと。

年に一度行われるVHPの活動発表会『Open Forum』の様子

森谷:VHPで動いているプロジェクトと、そこで力になってくれそうな技術やリソースを持っている社内外の人を、私たちが引き合わせることもあります。そうやって多様な人を巻き込むことで活性化させていったんです。

HIP:VHPのプロジェクト活動を通じて、少しずつ関わる人を増やしていったんですね。

森谷:ポイントは、最初からメンバーとして参加してほしいと言わないこと。まずは簡単なアドバイスをもらうところから始めます。そうすると、巻き込まれた側は自然と関心を持つようになるんです。「あのプロジェクトどうなったのかな?」って。

そうやって部門や組織、会社を超えて、フットワーク軽く仲間を増やす活動ができているのは、VHPが社長直轄のグループだからというのも大きいです。この体制は、じつは私が社長に直談判して実現しました。「この活動を拡げるためには、経営の本気度を見せることが重要になります。社長が自らVHPを管掌してくだされば、その事実がそのまま私のセールストークになります」と話したんです。

違った角度から物事を見ることで、思わぬアイデアにつながることもある。その多様性が機能する場がVHP。

HIP:VHPでは、自ら手を上げてプロジェクトをスタートする人を「ディレクター」と呼んでいるそうですが、販社・関連会社を含め定年再雇用者でもディレクターになれると伺いました。

森谷:定年を迎えても、みなさん元気なんですよね。経験知があるし、モチベーションも高い。若手にとってもすごくいい刺激になっています。

また、経営層も意識的に巻き込みました。全執行役員に向けて社長のサイン入りの手紙を送って「何か思いがあればテーマを提案してください」とアイデアを募ったところ、想像以上に多くの応募があったんです。

さらに、それを社内のイントラネットに公開して、テーマに共感して実現のために動いてくれるディレクターを募集しました。当然、応募が集中したテーマと残念ながら手があがらなかったテーマが出てしまったのですが、その過程も全部公開したんです。

テーマを提示できなかった役員は、他の役員のテーマを見て何かしら思うところがあったでしょう。また、テーマを出したけど応募者がいなかった役員のなかには、リベンジの気持ちでリピートしてくれた役員もいます。経営層にも、VHPの取り組みを自分ごととして捉えてもらうのに効果があったと思っています。

HIP:情報の見える化をして、当事者意識を広げていったわけですね。そうしてさまざまなバックグラウンドの社員からアイデアを募っているためでしょうか、VHPで動いているテーマは非常に幅広いと伺っています。

森谷:そうですね。テーマは、何らかのかたちで会社に貢献できるのであれば自由です。そしてディレクターが旗振り役になって、その思いに共感する人たちが組織や会社の垣根を越えて集まります。だからパッションがあって、高いパフォーマンスができるんですね。

かつて私が在籍していた研究部門でも、研究者が自分たちでテーマを探索して上司に上げ、認められれば実現に向けて動ける仕組みがありました。でも会社として、ヒト・モノ・カネ、すべてのリソースは限られています。事業として取り組む以上、新しいものや面白そうなものより、実現可能性の高いものがどうしても優先されてしまう。

また、研究者同士だけで議論をしていると、深く掘り下げることはできても広げることが難しい。視点に多様性がないからです。まったく畑が違う人の意見があることで、違った角度から物事を見ることができて、それが思わぬアイデアにつながることもあります。その多様性が機能する場がVHPだと私は思っています。

VHPの活動事例のひとつ、静岡県松崎町での地域交流拠点創出。写真は地元の人々との対話会の様子

HIP:プロジェクトが途中で頓挫してしまうことはないのでしょうか?

森谷:あります。でも、それでもいいと思っています。VHPの活動は本業プラスワンとして行っていますが、参加者はそれで給料が増えるわけでもなく、むしろ本業を効率化して時間を捻出しなければいけません。つまり参加するだけでも価値があると思うんです。

また、活動を続けるなかで事業としてスケールアップしないという結果になったとしても、その過程で学んだことは必ずその人の成長につながります。「やめる」という決断ができるということは、「やるだけのことはやった」という自負があるからこそ。だから仮に軌道に乗っていないプロジェクトがあっても、本人がやめると言わない限り、私たちからストップを促すことはしません。自身が始めたことだから、自身がけじめをつけてやめるべきという考えです。

いまなおVHPの抱える課題とは? ネクストステージに向けて始動した新たなプログラム

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