ものづくりで成長してきた老舗サプライヤーの大胆な変革。社内外のリアクションは?
HIP:「2030年ビジョン」やオープンイノベーションに対する、社内外の反応はいかがでしたか。
平船:社外の方には、驚きをもって歓迎していただきました。ビジョンの策定と同時に組織新設などの活動を始めたこともあり、「フジクラさんがそれをやるんですか」と、新鮮に感じていただけましたね。
今井:一方、社内からは、正直冷ややかな反応もありました。「自前主義」の伝統があるがゆえに、外部から新しい技術を受け入れることに対してとても慎重で、「それなら自分たちでもできる」という声も少なくない。ビジョンには共感するけれど、「モノ」ではなくサービスやプラットフォームをつくるべき理由がわからないという意見もありましたね。
ですがそれらを「困ったものだ」と捉えるべきではありません。「自前主義」で成長してきた日本企業は、現場の声が強いのも当たり前。少しずつ説明し、少しずつ理解してもらうことで、現在も仲間を増やそうとしている最中です。
生涯を通じたQoLの向上を、フジクラの新たなブランドに成長させたい
HIP:現在、具体的な事業化に向けて動いているものはあるのでしょうか?
今井:まだ事業化には至っていませんが、PoC(概念実証)の数はかなり増えています。もちろん、PoCまで進んだからといって必ず事業化するわけではなく、現実的には10個に1個が立ち上がればいいほうでしょう。その感覚を経営層に理解してもらうのは正直大変ですが、チャレンジを続けることで「失敗を許す文化」を醸成し、まずは何かをかたちにしていきたいと思います。
HIP:PoCを行ったなかで、手応えを感じたプロジェクトはありますか?
今井:「2030年ビジョン」で掲げた4つの領域のうち、「Life-Assistance」の分野ではおもしろい動きが出てきています。具体的な発表はできませんが、「睡眠」を軸に、国内外3社のスタートアップと協業に向けた取り組みを始めました。このほか、高齢者の自立支援や障がい者の雇用支援をテーマにした事業などの準備を進めています。
ゆくゆくは「いきいきと暮らせるのはフジクラのおかげ」といわれるくらい、生涯を通じたQoLの向上をフジクラの新たなブランドに成長させていきたいですね。
HIP:スタートアップとは、どのように協業を進めているのですか?
平船:「明確にこういうものをつくりたいから、ご一緒しましょう」と協業するパターンもあるとは思いますが、私たちが見据えるサービスはもう少し広いもの。まずはお互いの想いや解決したい社会課題をしっかり話し合うことにしています。具体的なサービスのアイデアありきではなく、対話を通じて少しずつ固めていく方法ですね。
スタートアップはスピード感が魅力である一方、フジクラのような規模の企業が同じスピード感で動くことは難しい。それでも一緒に協業していただけるスタートアップとじっくりおつき合いをしながら、ひとつずつ着実にかたちにしていきたいと考えています。
「先を見据えると、新規事業創出部門は歩みを止めてはいけない」
HIP:「2030年ビジョン」策定から3年が経ちました。取り組みの現在地と、今後の展望を教えていただけますか。
平船:社外に対してはフジクラの意志をある程度示せたと思います。一方、「社内の意識が高まった」とはまだいえないものの、活動を通じて「新しいことをやってみたい」と思う社員はいることがわかりました。彼らの受け皿となり、イノベーションの意識を全社に還元させる仕組みをつくることも、「つなぐみらいイノベーション推進室」の今後の課題です。
そのためにも、関係部署やイノベーションに興味がありそうな社員を訪ねて懇々と話をするなど、地道な草の根活動で社内の理解を広げていきたいです。
今井:そうですね。私たちの取り組みを、潜在層に届けるアプローチも必要でしょう。社内の理解を得られなければ、我々のような部署は立ち行かなくなってしまいます。複数のPoCが進行するなど、3年がかりの種まきがようやく芽を出しつつあるのに、ここでやめてしまっては水の泡。これからは、継続的な活動がより求められるようになります。
先を見据えると、私たちのような新規事業創出部門は歩みを止めてはいけない。そのためにも「BRIDGE」のような出島に集まってくる、イノベーションに積極的な人たちと新たな縁をつなぎ、新しい事業の種をどんどん増やしていかなければいけないと考えています。