INTERVIEW
web3は社会に何をもたらすのか?『HIP Fireside Chat 2022』イベントレポート
久保田雅也(WiL パートナー) / 児玉太郎(アンカースター株式会社 代表取締役) / 竹田真二(森ビル株式会社 オフィス事業部営業推進部兼企画推進部 部長)

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2022.07.27

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閉じられた世界から、開けた世界で使われる「トークン」。社会構造すら変えてしまう可能性も

その後、NFTやメタバースといったWeb3の主要技術についてひとしきり語られたのち、話題は「トークン」へ。トークンとは、ビットコインやイーサリアムといった既存の暗号資産プラットフォームを用いた(独自のブロックチェーン技術をもたない)暗号資産のこと。現在、多くの企業やサービスで発行されているトークンは、いずれ社会を大きく変える可能性を秘めているという。

児玉:例えば、NFTゲームではミッションを達成するとトークンがもらえます。これを使ってアプリ内のアイテムをバージョンアップなどできる。

ただ、「トークンは欲しいけどミッションを達成するのが面倒くさい」という人もいて、そこで誰かが稼いだトークンに価値が出てくるわけです。最初はそのゲームやサービスのなかで発行していたものに価値が出て、これを取引することで稼げるという世界観が生まれている。これは、社会構造を変えてしまう可能性すらある現象だと思います。

こうした事例が増え、価値のあるトークンをウォレット上でほかの暗号通貨やお金と交換できるようになれば、それだけで生活が成り立つようになるかもしれない。そうなると、お金のための労働から離れて好きな仕事に就くなど、働き方が変わる。早晩、そんな世界がやってくる可能性もあるという児玉氏の見解に、竹田氏も共感する。

竹田:この仕組みは、仕事全般に応用できるような気がします。ゲームで誰かが「代わりにミッションをこなす」ように仕事ではちょっとした足りない何かを誰かに助けてほしい局面がある。それを自分の会社内だけでなく、他社やフリーランスの人もどんどん関われるようになれば、副業やマルチタスクも活発になるかもしれない。

しかもその仕事の実績はブロックチェーンにより記録され、自分がどのようなスキルを持ち、仕事に貢献したのかが認証される。じつは、web3は世の中の働き方を変えるチャンスといえそうですよね。

一方、久保田氏が期待するのは、トークンによって新しい経済圏が生まれることだ。

久保田:例えば、飛行機に乗るとマイルがもらえますが、これは現状、特典航空券や航空会社が指定するサービスにしか使えません。閉じた世界でしか使えないわけです。これをマイルからトークンにした場合、ほかの通貨と交換してANAやJAL以外のサービスを利用したり、物を買うのに使ったりすることも可能になります。これはすごく大きなことですよね。

この動きが進めば、例えば、従業員の給与の一部を希望に応じて自社発行のトークンで支払う企業も増えていくかもしれません。すると、それぞれの「通貨」を介した小さな国のようなコミュニティーがいくつも誕生し、それぞれのトークンの価値に差が生じ始めるでしょうね。

また、いまはUSドルが強くて円が安いから、日本を脱出してアメリカに行こうみたいな話がありますよね。それとまったく同じことが、トークンの世界でも起こります。例えば、これまではJAL派だったけど、いまは「ANAトークン」が強いからそちらのコミュニティーへ移行するといった動きが出てくる。

ただ、そうなると強烈に強いトークンを持った企業が、また世の中を支配するような状況になるかもしれません。web3はGAFAMのような「中央集権」に対するカウンターカルチャーとして出てきたものなのに、結局はまた新しい中央集権が生まれてくる。そういう可能性もあると思います。

「街づくり」も大きく変化する? 場所を提供する森ビルとweb3の親和性の高さ

「会社で働く」「ゲームをする」「本を読む」。今後はこうした活動のすべてにトークンが本人の希望に応じて報酬として発行されるようになるかもしれない。当然、発行元の企業の業績が上がったり、ゲームが盛り上がったりすればトークンの価値も高まる。すると、人々は自分が持つトークンの価値を高めるための行動をとるようになり、コミュニティーに好循環が生まれるという。

久保田:仮に私が六本木ヒルズに住んでいて、近隣のゴミ拾いを日課にしていたとします。その結果、六本木ヒルズの周りはつねに綺麗に保たれ、住居としての価値が維持される。でも、その恩恵を受けるのは物件を管理する森ビルさんだけで、掃除をしている自分には1銭も入ってきませんよね。

そこで、例えば「ヒルズトークン」があって、コミュニティーに対して何かしらの貢献をした人に対して分配されるような仕組みがあるとしましょう。すると、森ビルのレジデンスに対してより一層の愛着も湧くでしょうし、さらに貢献しようという気にもなるはずです。

また、ヒルズトークンの保有者は、ヒルズの運営に関して意見をいえて、重要な意思決定に参加することもできる。管理組合のように住人だけに閉じた運営ではなく、ヒルズというブランドのファンや将来ヒルズに住んでみたい潜在層も巻き込んで、コミュニティーのリーチを広く、濃くできる可能性があります。

竹田:おっしゃる通りですね。現状も、ヒルズではそこに関わる人たちが自ら掃除をして街を綺麗にする活動などが行われています。でも、そこには経済原理が働かないため、どうしても無償のボランティアで終わってしまう。こうした、「街や社会を良くしよう」という人たちの思いに報いて、さらにそれが街の繁栄につながっていく。トークンが広まることで、そんな理想的な仕組みができるかもしれない。

児玉:トークノミクスという言葉もありますが、自分がそのコミュニティーに貢献し、より良い場所に育てていくことがトークンの価値を上げ、自身にとってのインセンティブになる。これは、これからの街づくりやコミュニティーづくりに活かすべき仕組みだと思います。そういう意味では、街づくり、コミュニティーづくりの担い手である森ビルとweb3の親和性は高い。ぜひチャレンジしていただきたいですね。

久保田:私も森ビルにはとても大きなポテンシャルがあると思います。なぜなら、会社や住居など、人々の営みの「場所」を提供している会社だから。森ビルがトークンという「通貨」を発行し、そこで働く人たちの給料がトークンで支払われ、それを使ってヒルズの家賃を払ったり買い物をしたりすることも、やろうと思えばできてしまう。

いま、シリコンバレーのスタートアップでは「デジタル上に仮想国家をつくる」というアイデアが盛り上がっていますが、それをリアルでやれるのが森ビルなのではないでしょうか。

竹田:街と人との関係が変わるように、企業と人の関係も変わるのではないかと感じています。昨今、パーパス経営という経営方針にシフトしている企業も多い。企業と従業員とが一つのパーパスを共有し実現していく様は、一つのコミュニティーといえるでしょう。

従業員がそのパーパスの達成にどのように貢献しているのか、またトークンによって認証された社外の人材がプロジェクトに参画する。特に新規事業の創出においては、ビジネスクリエーションのほか、マーケターやデータアナリスト、エンジニアやクリエーター、リーガルやファイナンスのスペシャリストなど、多様なスキルを持った人がチームにならないと実現できない事が多いんです。まさに非中央集権的な協業、そんな働き方があるかもしれません。

トークンを含むweb3の技術については、セキュリティー面や法規制の問題、さらにはそれを現実世界に広く実装するための社会的需要性の担保など、さまざまな課題もある。これらのハードルを超え、web3が社会にポジティブなインパクトを与えるためにも、志を持った企業が積極的に関わる意義は大きい。

竹田:正直に言うと、私は久保田さんや児玉さんと違い、Web以前の「アナログ」くらいの人間かもしれません。そんな私でも、こうしてお二人の話を聞いているだけでweb3への期待が大きく膨らんでいます。

もちろん不安もありますが、よりよい未来をつくることができる可能性はその何百倍もある。地域の価値を高め、絶対に面白い世界がやってくるだろうと。とてもワクワクしますし、そのためにわれわれができることを模索していきたいと思います。

久保田: web3にはバブル的な側面も否めず、さまざまなチャレンジを繰り返す中でアップダウンがあると思います。しかしweb3のマスアドプションに向けた技術やコミュニティーは着実に進化しており、ある臨界点を越えれば急速に普及期に突入するはずです。大事なことはユーザーや社会への本質的な価値創出にこのイノベーションがどういった役割を果たせるか、短期ではなく長期的観点で思考し、行動することだと思います。

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プロフィール

久保田雅也(WiL パートナー)

WiLパートナー。ベンチャーキャピタリスト。主な投資先はメルカリ、Hey, RevComm、CADDi、UPSIDERなど。外資系投資銀行にてテクノロジー業界を担当したのち、創業メンバーとしてWiLに参画。Quartz Japan「Next Startup」ほか、日経ビジネスにて「ベンチャーキャピタリストの眼」を連載中。NewsPicksプロピッカー。慶應義塾大学経済学部卒業。Twitterアカウントは@kubotamas。

児玉太郎(アンカースター株式会社 代表取締役)

神奈川県横須賀市生まれ。小中高をロサンゼルスで過ごす。1999年ヤフーに入社。ソーシャルネットワークサービスやメタバースサービスなどの研究・開発を行う。2010年、Facebook Japanの一号社員として、カントリーグロースマネージャーに就任。日本成長戦略責任者として、電通、リクルート、KDDI、ソフトバンクなどの日本企業と戦略的協業契約を締結。Facebook Japanは月間アクティブ利用者数2,000万人を超えるサービスへと成長する。2015年、アンカースターを設立。世界最大級のクラウドファンディングプラットフォームである米国Kickstarter PBCや、モビリティプラットフォームである米国Via Transport社の日本進出などを手掛ける。国や言語を超えたビジネスパートナーシップのプロデュースを通じて、日本の発展に寄与するきっかけの創出に注力する。

竹田真二(森ビル株式会社 オフィス事業部営業推進部兼企画推進部 部長)

2000年、森ビル株式会社に入社。財務部、都市開発事業本部などを経て、現在はオフィス事業部営業推進部兼企画推進部部長として、マーケット調査、営業戦略立案、商品企画、新規事業創出などに従事。都市機能、都市生活のアップデートに寄与する新しいテクノロジー、サービスをもつ国内外のスタートアップとの協業を推進する。

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