web3は社会に何をもたらすのか?『HIP Fireside Chat 2022』イベントレポート
久保田雅也(WiL パートナー) / 児玉太郎(アンカースター株式会社 代表取締役) / 竹田真二(森ビル株式会社 オフィス事業部営業推進部兼企画推進部 部長)
2022.07.27

ブロックチェーン技術を活用した「web3(ウェブスリー)」の世界。暗号通貨、NFT、メタバースなど続々と新たな仕組みやサービスが生まれているが、結局のところweb3とは社会にどんな価値と変化をもたらすものなのだろうか?

2022年6月1日に開催されたHIP主催の『HIP Fireside Chat 2022』では、「web3は社会に何をもたらすか? Web2.0からの進化」と題し、web3領域のスタートアップシーンに造詣の深いWiLパートナーの久保田雅也氏、Web2.0の覇者のひとつであるFacebook Japanの日本におけるグロースをリードした児玉太郎氏、そして新しい都市づくりやコミュニティー形成を目指す森ビルの竹田真ニ氏がそれぞれの視点から見えるweb3の可能性について語った。Fireside Chat(暖炉脇の会話)スタイルで交わされたカジュアルな議論の内容をレポートする。
(※当日のトークセッションをもとに、一部編集を加えています)


取材・文:HIP編集部 写真:坂口愛弥

web3とは? GAFAMが君臨するWeb 2.0へのカウンターカルチャー

そもそも「web3」とは何なのか? まずはその認識共有からトークセッションはスタート。web3界隈のスタートアップと交流する機会が多い久保田氏から見解が語られた。

久保田雅也氏(以下、久保田):Webの進化で一般的によくいわれるのは、「read」「write」「own」という流れです。Web 1.0は「read」で、Web上の文章を電子的に読める空間が用意された段階。これがインターネットの走りですね。Web 2.0は「write」。自分の意見の表明や自己表現を、インターネットを通じて発信するようになった。そして、web3は「own」。インターネット上でのデジタルコンテンツに対して所有権を持つ、オーナーシップという概念が生まれてきました。

WiL パートナーの久保田雅也氏

Web 2.0ではいくつかの巨大なプラットフォーマーが台頭。AppleやGoogle、Amazon、Twitter、Facebook、Microsoftが提供するサービスやアプリケーションにユーザーとコンテンツが集中した。web3はこの構図を大きく変える可能性があるという。

久保田:TwitterやFacebook、Instagramのユーザーにいくら多くのフォロワーがいたとしても、それは直接的に当人のアセットにはなりません。また、そこへ投稿した写真なども各プラットフォームの管理下にあり、投稿者の所有物ではない。そのため、Twitterがアカウントを凍結してしまえばフォロワーも投稿もどこにも持っていけないわけです。

web3ではこれをプラットフォーマーのものではなく、自分のものだと主張できる。これによりインターネット上に公共のインフラとしてみんなが共有する巨大なデータベースをつくり、そこに置かれた自分のコンテンツの所有権を電子的に定義でき、インターネット空間での経済取引が可能になった。これがweb3の本質であるとぼくは理解しています。

現在、世界中のスタートアップからweb3の技術を使ったサービスが生まれている。児玉氏はこの活発な動きについて、これまで巨大なプラットフォーマーにより構築されたWeb 2.0に対する「カウンターカルチャー」と表現する。

児玉太郎氏(以下、児玉):AppleやGoogle、YahooといったWeb 2.0のプラットフォーマーたちは、膨大なデータを集めてデータマイニングしたり、レコメンデーションするビジネスを行なってきました。

web3が面白いのは、これらサンフランシスコの巨大プラットフォーマーとはまったく違い、いたるところでサービスがどんどん立ち上がっているところ。そこに反骨精神のようなものを感じます。つまり、「でかい何か」に囚われたくない人たちが、ブロックチェーンやNFT、メタバースなどの新しい技術を使って、新しいサービスをつくろうとしているんです。

アンカースター株式会社 代表取締役の児玉太郎氏

竹田真二(以下、竹田):web3はWeb 2.0のカウンターカルチャー的なところがありますよね。数社のプラットフォーマーが仕掛ける世の中に対して、「ちょっと違うんじゃないの?」「もっと個人が自由になってもいいんじゃないの?」と。

森ビル株式会社 オフィス事業部営業推進部 部長の竹田真二氏

久保田:それを可能にする技術的な要素の集合体がweb3の世界です。いままで難しかったインターネット上での所有権を定義できるようになり、デジタルコンテンツの売買が可能になったのは、新しいビジネスモデルの発明といえます。

これまでは、ただプラットフォーム上でコンテンツを垂れ流して、広告でマネタイズすることしかできませんでしたから。広告で最適化しようとすると、プラットフォーマーは自分のところへユーザーとデータをごっそり集めて、その人に一番見せたいものを見せるという方向に走る。それを究極まで突き詰めたのが今のGAFAMなのだと思います。

児玉:心が痛いですね。(元Facebookの)ぼくはそれを5年前にすごくやっていた側なので。

久保田:でも、それは技術的制約のなかで、やるべきことをやった結果だと思うんです。実際、ユーザーとしての体験も良かったし、Web 2.0の世界のままなら何の疑問も生じなかったかもしれない。しかし、2008年にサトシ・ナカモト論文が出て、ブロックチェーンを使えば中央の管理者なしにオンライン決済ができると提唱した。すると、「これはとんでもない革命かもしれない」とみんなが気づき始めて、現在のムーブメントにつながっているのだと思います。

つまり、自分が知らないところで情報を取られて、自分のメディアに対して広告が差し込まれて、裏でプラットフォーマーがどんどんお金を稼いでいるのに、自分には1円も落ちてこない状況に対して、「おかしいんじゃない?」と。「FacebookやInstagramにあんなに有益な情報やイケてる写真をアップしているのに、1銭も入らない」と。これが、いまのカウンターカルチャーの流れにつながっているのではないでしょうか。

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web3で主役となるのは、ゲーム内や各企業が発行する「トークン」。その理由は?

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