研究員もマーケターであれ。資生堂が打ち出すオープンイノベーションのかたち
中西裕子(株式会社資生堂「fibona」プロジェクトリーダー)
2020.10.26

資生堂のイノベーションに出島が向かない理由とは?

HIP:「fibona」の組織形態を教えていただけますか。

中西:現在、16人のメンバーが在籍しており、四つのプログラムのいずれかを担当しています。メンバーは、基本的にもともとの所属部署との兼務。ここで得た知見を所属部署に持ち帰り、資生堂全体のイノベーションを加速させてほしいといった理由から、あえて兼務にしました。

HIP:メンバーは辞令によるアサインですか、それともスカウトですか。

中西:じつは、どちらでもないんです。「fibona」は今年で2年目なのですが、初年度は「興味があるからやりたい」という社員がジョインしてくれました。今年は、私たちの動きを見て興味をもった社員が、知り合いの既存メンバーに連絡をくれたり、もしくはメンバーの紹介でジョインしてもらったりするケースが多かったですね。いわゆるリファラル採用のような。こういったかたちでのメンバー採用も、資生堂としては新しいやり方です。

施設内のMUSEUMには、資生堂の歴代のプロダクトが展示されているほか、技術を体感できる展示も。写真は、日焼け止めに配合されている原料の撥水力を知ることができる展示

HIP:「fibona」のような取り組みは、まず出島としてスタートする企業も多いと思います。あえて、GIC内で推進するオープンイノベーションプログラムとした理由を教えてください。

中西:研究所、そして会社全体の課題認識に寄与するようなポジションでありたかったからです。「fibona」の取り組みは、必ず本体でも生きてきます。それに、本体の研究所内で進めたほうが、アセットを有効活用できます。オープンイノベーションでは、アセットを最大限に活用しながら外部と連携する必要がある。そういった意味では、資生堂のイノベーションには出島は馴染まないと判断しました。

MUSEUMには写真を撮ると、自分の顔のタイプを診断し、似合う色などを教えてくれるサービスも

ギャップも学びになる。スタートアップとの共創で知る多様な価値観

HIP:四つのプログラムのひとつである「Co-Creation with Startups」では、資生堂のアセットとスタートアップの独自技術が上手く連携して、新しい価値の創造にチャレンジしていますね。

中西:そうですね。直近の活動で言うと「Beauty Wellness」をテーマに、共創プログラムを実施しました。資生堂と共同研究を希望するスタートアップを募集し、約80社の応募のなかから「ユカシカド」「デジタルアルティザン」「ノーニューフォークスタジオ」の三社を選定しています。

HIP:スタートアップを選ぶ際に、重要視していることはなんですか。

中西:ひとつには、われわれが持っていない技術やドメイン(領域)を持っていること。それから、研究所では事業化はもちろんですが、共同研究やPOC(概念実証)で知見を得ることも大切なゴールとしているので、そのゴールをしっかり共有できるかどうかも判断基準の一つです。

具体的に言うと「ユカシカド」とは、尿を解析するだけで栄養状態がわかるという彼らのパーソナル検査技術などを活かして、有効な栄養摂取方法の知見を得る研究をスタートしています。

「デジタルアルティザン」は、3Dのセンシングやモデリングが得意なスタートアップ。彼らの技術で、身体と顔をターゲットに3Dセンシング技術開発に着手し始めました。「ノーニューフォークスタジオ」は、足元の動きを精緻に計測・解析するセンシング技術と、靴を組み合わせたスマートフットウェア「ORPHE(オルフェ)」の開発・販売を行っています。歩き方と身体の歪みが、肌にどういった影響を与えるのかを一緒に解き明かそうとしているところです。

HIP:資生堂と社風が似ているなど、理念、精神面で、共創相手として重要視することはありますか。

中西:そこへのこだわりはあまりありません。むしろ、異文化や多様な価値観との融合を目指しているので、できるだけ間口は広げたいと思っています。実際、スタートアップとのプロジェクトでは考え方や進め方においてギャップを感じることは少なくありません。

例えば、大学や研究機関などアカデミアとの共同研究なら、目的としていた知見を得られた時点で基本的には終了。一方、スタートアップとの共創では、その知見を新たなスタートにして製品やサービスへの活用を考える。だからこそスピード感も生まれます。そういった、これまでにないコミュニケーションをとおして学びがあるので、成長につなげたいですね。

「美」に正解はない。多様な美しさのために、選択肢を増やしたい

HIP:研究開発部門がチャレンジするイノベーション。実際に取り組まれて気づいた、資生堂の強みや課題などはありますか。

中西:資生堂には、意志ある人やチャレンジする人を応援する風土があることを再認識しました。「fibona」には研究員だけでなく、パッケージデザインやコピーライティングなどを務めるクリエイティブ本部からも参加してくれているメンバーがいるんです。部署関係なく新しい取り組みをみんなで盛り上げようとする姿勢が表れた、象徴的な事例だと思います。

また、サイエンスやテクノロジーといった、研究開発部門の役割に大きな期待を抱いてくれているとも感じました。事業部の人間も積極的にGICのメンバーにアクセスしてくださり、スタートアップの方々とコミュニケーションをとろうとしてくださっています。多様な知と人の融合を掲げている施設としての役割を果たせていて、嬉しい限りです。

HIP:では課題はいかがでしょうか?

中西:イノベーションで生まれた知見を、会社に貢献できるサイズに成長させ、連携できていないことです。これを達成するのが当面の目標です。

テクノロジーは専門的なので、それがどれほどの市場規模になるのか、お客さまにどう訴求できるのかを示すのが難しい。結果として、ビジネスにつながらないこともあります。そこでこれからの研究開発部門にとって重要になるのが、テクノロジーをわかりやすく翻訳してビジネスに橋渡しをしつつ、周りを巻き込める人材です。そういったテクノロジーとビジネスの接続が、ゼロイチを生み出せる組織風土や社員のメンタリティーの醸成へとつながるのではないでしょうか。

HIP:最後に、中西さんが考える「資生堂が目指す美のイノベーション」を聞かせてください。

中西:資生堂としては、多様化する美の価値観に応え、世界中の人々に自信や勇気、喜びや幸せをもたらすために、イノベーションに挑戦しています。そういった意味では、どんなことも美に通じるので、さまざまな挑戦ができると思っています。それが面白さであり、難しさですね。

個人的には、美には、なにかしらの答えがあるわけではないと思います。だからこそ、美に通じる選択肢が増やすことが私の夢です。化粧より健康な身体を重視する人もいるでしょうし、治療などによって生じた外見の変化をケアする「アピアランスケア」もまた美の役割です。人によって、求める美の文脈は異なります。「こうすれば美しい」とか「美しくなるためにこうあるべき」ではなく、その人自身の美しさのために、必要なものを選択できるよう、美のイノベーションを進めていきたいです。

Profile

プロフィール

中西裕子(株式会社資生堂「fibona」プロジェクトリーダー)

2004年入社。スキンケア商品の処方開発研究、化粧品基剤の基礎研究、デザイン思考的アプローチを用いた研究テーマ設定を経て、現在は、資生堂のR&I戦略、オープンイノベーションプログラム「fibona」のプロジェクトリーダー

この記事はどうでしたか?

HIPの最新情報をお届けします

HIP Events Information

HIPイベント情報

Keep in touch!

HIPはこれから、
さまざまな活動をしていきます。
今後の活動をお知らせしますので、
メールアドレスをご登録ください。