INTERVIEW
日本の製造業には「ワクワク感」が足りない。エンジニア集団の創造術に迫る
小西享(プログレス・テクノロジーズ株式会社 取締役)

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2017.12.28

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チームのマインドを変化させるために、これまでの方法を全否定した。

HIP:自社のメンバー同士でも、横にいるエンジニアが何をしているのか、わからないような状態になっていたということですか?

小西:はい。もともとはみんなそんなつもりじゃなかったと思うんですが、受託開発を長く続けているうちに、自分たちのマインドも部分最適型になってしまっていたんです。実際に自社製品の開発をはじめてからそれに気がつき、メンバーのマインドを変化させるのに1年以上の時間を費やしました。高品質のものをつくる、という意味では成立していた仕組みを、ほぼ全否定しましたから、メンバーは相当きつかったと思います。でも、体験価値があるものを生み出していくためには、荒療治をするしかなかった。われながら横暴だったなと思います(笑)。

HIP:具体的には、どのように変えていったのでしょうか?

小西:とにかく、全体最適を意識してもらうことを徹底しました。たとえば「誰かのせいにしない」ということで言うと、「工場からの部品の納品が遅れたので、次の自分の仕事も1週間遅れます」という発言は、自分が仕事をしていなかったことの言い訳だと思うんです。そうならないように、毎日進捗をリマインドするか、確認しなくても済む信頼関係を構築してくれとオーダーしました。最初から最後まで自分が責任を持ってつくり上げる、という意識をチームメンバー全員に持ってもらうために、重要なことでした。

サプライヤーに協力してもらう際にも、ユーザーが手にするときの価格を意識できず、言われるがままの見積もりで注文してしまう。ですから、ぼくが直接サプライヤーと交渉して、自分たちが実現したいことに賛同していただきながら、協力を仰ぐ姿を直接見てもらうようにしました。プロジェクト全体を本気で考えて仕事すれば、効率よく結果が出しやすくなるということを自分で実践し、メンバーに教えていましたね。

HIP:そういった粘り強い教育の結果、メンバーの意識が少しずつ変化していった。

小西:はい。たとえば「全巻一冊」でいえば、紙の本の質感を実現させるためには、紙の専門家である製本会社、篠原紙工さんの協力が必要不可欠でした。

じつは最初に篠原紙工さんに相談したときは、あまりいい反応はいただけなかったんです。チームのメンバーが熱心に、しつこく思いを伝えていくことで、少しずつ本気度が伝染していった。いまでは、さまざまな面で協力いただいています。

社内の連携はもちろん、しっかりと周りの方の理解も得て、全員でゴールへと向かっていく。時間はかかりましたが、いまは、すごくいいかたちでものづくりに取り組めています。

HIP:「新しい体験」を本気で生み出すためには、ものづくりに関わるスタッフ全員が同じビジョン、ゴールを目指して取り組むことが重要なんですね。

小西:そうですね。それは、エンジニアがユーザーの声を聞くべきだ、ということにもつながっているんです。当然ですが、褒められたらなんとしてもいいものにしたいと思うし、ダメ出しされたら悔しいと思う。そういった声が聞こえないままだと、本質的なエンジニアの能力がどこかで死んでしまうと思います。

日本のものづくりが復活する環境や資源は、すでに整っている

HIP:ワクワクするものづくりが、日本でもっと増えていくためには、どうすればいいと考えますか?

小西:繰り返しになりますが、ユーザーの体験を考えて、ものづくりをすることだと思います。大手メーカーだけでなく、中小企業も、部品をつくる町工場も、すべての人が、どんどん自分たちで企画して製品をつくっていくべきだと考えています。

たとえば最近では、壁を修復するための珪藻土をバスマットにした商品が人気になっていますよね。あれは金沢の左官業者がつくりはじめたもので、自社の製品や技術を、ユーザー体験のためにプロダクト化したいい例です。ああやって、自社の技術の可能性を自ら提示できれば、連鎖してさまざまなプロダクトが生まれていくと思いますね。

ほかにも、日本にはおもしろいもの、優れたものがたくさん埋まっているはずなんです。販売網や資金の問題は、クラウドファンディングを利用して解決のきっかけをつくれる。ものづくりが復活する環境や資源は、すでに整っていると思います。

HIP:たしかに、優れた技術を持っているにもかかわらず、有効に活用できていない町工場や中小企業は、たくさんありそうですね。

小西:そのとおりです。それから流行りのレッドオーシャンな世界にばかり目を向けるのではなく、いろんな可能性を考えるべきだと思いますね。いまAIスピーカーが話題ですが、だからといってその機能で競った新製品をつくるのではなく、たとえば仏壇や神棚にAIスピーカーを組み込むような遊び心があってもいいと思うんです。自分や両親の声を録音しておいて、しばらく拝んでいなかったらその声に怒られたりする。それもある意味でAIスピーカーですよね。

HIP:それはおもしろいですね(笑)。最先端の機能を追求するだけでは出てこない発想です。

小西:ぼくは、最先端のテクノロジーでつくっただけのものは、いわゆる「アーリーアダプター」と呼ばれる先進的な人たちが喜ぶだけで、一般ウケしないと考えています。実際「全巻一冊」をアーリーアダプターの方に見せたとき、「どうして電池で動かすの?」と聞かれたんです。でも、本にケーブルがつながっているのはおかしいので、それこそが「全巻一冊」のポイントのはず。ワクワクするものづくりを追求するためには、「最先端技術」だけにとらわれない自由な発想、姿勢が大切なんだと思います。

Profile

プロフィール

小西享(プログレス・テクノロジーズ株式会社 取締役)

2005年8月に仲間とともにプログレス・テクノロジーズ株式会社をスタート。大手メーカーへの技術派遣や受託開発を中心に社を成長に導いたのち、2015年より自社開発プロジェクトに携わる。「TABO」や「全巻一冊」などのプロジェクトを牽引。

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