3Dプリンターとクラウドファンディングの登場によって、本格的に製品開発に乗り出せた。
HIP:とはいえ、2005年の会社設立から、2015年に自社製品の開発をスタートするまで、10年もの月日がかかっています。この間、どのような苦労があったのでしょうか?
小西:最初の3年間は、自分たちのイメージどおりに進んでいたのですが、2008年のリーマンショックの影響で、大手メーカーからの仕事が激減しました。そこから2年ほどは苦しい時期が続いてしまって、心が折れるというか……会社が立ち止まってしまったような感覚がありましたね。
そんなときに、1929年からはじまった世界大恐慌で苦しんだ実業家たちのエピソードを読んでいたら、恐慌のあとは事業でリスクを追えなくなったと書いてあったんです。自分も同じような立場になってたまるか、とポジティブな反骨心が芽生え、あらためて自社製品をつくるための準備を進めていきました。
HIP:本来なら、もっと早く取り組みをスタートさせたかった。
小西:そうですね。会社の立ち上げから5年で実現させたかったです。エンジニアを採用するときに必ず、「何かおもしろいものを絶対つくるから!」という話をしていたので、約束を実現できていないという後ろめたさが大きかったですね。
HIP:社内からは、厳しい意見もあったのではないですか?
小西:「今後、おもしろいものがつくれるような状況になるとは思えない」という声は届いていましたが、その度に「必ずやるから」と言っていました。そもそも、社名を「プログレス・テクノロジーズ」と複数形にしているのは、先進的なテクノロジーを複数扱って、サービスやプロダクトをつくっていくことを目指していたからなんです。いま、ようやく社名に込められた思いがかたちになりはじめています。
HIP:実際に製品開発のスタートを切ることになった、明確なきっかけや要因はありますか?
小西:2009年に3Dプリンターの特許(※熱に溶ける樹脂を、1層ずつ積み上げていく「熱溶解積層法」)が切れて、世の中に3Dプリンターが一気に広まり、新たなものづくりのムーブメントが生まれたのが大きかったですね。圧倒的に高速なものづくりが可能になりました。もうひとつは、Kickstarterなどクラウドファンディングのプラットホームが誕生して、製品に対するユーザーの声を聞ける状況ができたことも重要でした。プロトタイプをつくり、ユーザーの声を反映させながら、ものづくりができるようになれば、新たな体験を生み出すというゴールに、より明確に近づくことができます。
2014年頃には、そういった変化を確実に感じ取ることができたので、「近い未来、自分たちがやりたかったものづくりが可能になる時代がいよいよ来るはずだ」と社の仲間に説明し、本格的に製品開発に乗り出しました。
HIP:「何かおもしろいものをつくる」と約束してエンジニアを採用した話にも共通しますが、かたちのない未来に人を巻き込んでいく過程には、相当な苦労があったのではないでしょうか?
小西:たしかに会社設立時は、「先進的なプロダクト、サービスをつくる会社になる!」と言っても、社内にエンジニアはいないし、顧客もいないというスタートでしたからね。採用したいエンジニアに夢を語っても、実績は何もないので、とにかく夢やビジョンをしつこく語って、信じてもらうしかなかった。
展示会に足を運んで、トイレの横に立っている人やタバコを吸っている人に「エンジニアですか?」と声をかけて、ひたすらスカウトしていた時期もありました(笑)。こうして話すと短いように感じますが、とにかく時間がかかりましたね。
「どうすれば品質をクリアできるか?」という議論だけでは、新しい体験を提供するものづくりはできない。
HIP:大手メーカーの受託開発をされていくなかで、あらためて日本のものづくりが抱える問題や構造に気づくことはありましたか?
小西:これは課題でもあり、強みでもあるのかもしれないですが、大手メーカーの仕組みでは、部分最適化された人材、つまりスペシャリストだけが育っていくということに気づきました。
ものづくりには、「メカニカル」「エレクトロニクス」「ソフトウェア」の3種類のエンジニアがいて、デザイナーがいて、部品をつくるサプライヤーもいて……と、さまざまな人々が必要です。そのなかで、大手メーカーのように巨大なチームでは、それぞれに求められる課題をクリアすることが至上命題となります。その課題をクリアするための、特定のスキルを持った人は育ちますが、チーム編成として縦割りで、横のつながりが弱いため、問題が生じたときに、連携して解決に取り組むことが難しいんです。
各自がスキルを高め、それによって品質が高まることで、「メイドインジャパン」というブランドがつくられてきた歴史があるので、その方法が完全に間違いというわけではありません。ただ、近年は中国をはじめとした他国の成長によって、高品質であることが日本の強みとはいえなくなっている。ですから、新しい体験を生み出すために、チームのあり方を変えなくてはいけないと感じました。
HIP:それぞれのスタッフがなにをしているかを理解し、シームレスに連携することが、いまのものづくりには必要だと感じたわけですね。
小西:そうです。特に問題だと感じたのは、大手メーカーのエンジニアたちが、「ユーザーはどんな楽しみ方をするだろう?」ではなく、「どうすれば品質をクリアできるのか?」という議論ばかりしていたことでした。それでは、新しい体験を提供できるものづくりができるはずがない。
ですからぼくらは、エンジニアはもちろん、外部パートナーも含めて、全員でユーザーの体験価値を考えてものづくりを行うべきなのではないかと考えました。ただ、自分たちの考え方を変えるにも、すごく労力がかかりましたけどね。