INTERVIEW
企業イノベーションの根回しオヤジ。ANA・DD-Lab流マネジメント術
津田佳明(ANAホールディングス デジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクター)

INFORMATION

2018.11.30

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ANAにおける「破壊的イノベーション」とは何か?

HIP:そういったDD-Labの自由な活動方針は、最初から決まっていたのですか?

津田:いえ。DD-Labの設立直後、初期メンバーの四人でイノベーションの本場であるシリコンバレーで合宿をして、いろんなことを話し合いました。

そこで出てきたのが、「破壊的」というテーマでした。ビジネス書の名著『イノベーションのジレンマ』の著者、クレイトン・クリステンセン教授のいう「破壊的イノベーション」って、ANAの事業でいえば何だろう? と。

たとえば、人の移動手段として、飛行機が船にとってかわったように、この先、飛行機を上位互換するものは何か。そこで出てきた3つのキーワードが「ドローン」「宇宙」「アバター」でした。

津田:ドローンは、機体の性能が上がれば、より重いモノやヒトをより遠くに運べるようになるので、飛行機にとってかなり破壊的な可能性を持った存在です。

ロケットのような宇宙機も、イーロン・マスクがすでに宣言していますが、地球上の移動に応用すると、飛行機とは比べ物にならないくらい速く移動できます。

アバターは、VRやハプティクス(触覚技術)を使って、遠隔地にあるロボットをコントロールし、実際に移動しなくても移動したかのような感覚を体験する技術。新しい「移動」の概念が生まれるかもしれないという意味で破壊的です。

これらのイノベーションに、いずれ航空市場が破壊されるのであれば、先に自分たちのサービスに取り込んでしまおうと考えたわけです。

HIP:ドローン、ロケット、アバターは、それぞれすでに新規事業として動き始めているのでしょうか。

津田:はい。ドローンは、航空機の整備点検への活用に向けた実験や、旅行商品の付帯サービスなどをすでに開始しています。さらにドローンと有人機、ドローン同士が、空で共存していくためのルールづくりに向けて、産官学共同の日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM)に参画しています。

ロケットでは、国内で唯一、有人宇宙機開発に取り組むベンチャー企業、PDエアロスペースへ出資し、整備士を1名派遣しています。宇宙旅行、宇宙輸送の事業化に向けた取り組みを進めていて、2023年の商業運航を目指しています。

また、アバターでは、アメリカのXPRIZE財団が主催する、イノベーティブな技術革新を進めるための国際賞金レースの一つとして「ANA AVATAR XPRIZE」がスタートしています。世界中の企業がアバターの実現に向けて、切磋琢磨してくれているんです。

もし実現すれば、時空を超えた旅行体験だけでなく、遠隔治療や、人間が立ち入れない災害現場や放射線汚染地域での作業など、社会的課題を解決する活動にもつながるかもしれません。

担当者があきらめなければ、プロジェクトを終了させることはない

HIP:DD-Labでは、ANAの組織ルールとは違ったチームビルディングを行っているそうですね。

津田:チームとして動き出したばかりで、まだ成果が出ているわけではありませんが、ANA本体とは真反対の逆ピラミッド型のマネジメントを意識しています。

つまり、私がメンバーに指示したり、管理したりするのではなく、メンバーが好き勝手にやりたい仕事を進めて、それを私が後ろから支援するようなやり方です。

DD-Labを代表して参加しなければいけない会議でも、私が行かずにメンバーに任せることもあります。最初は「管理がなってない」と言われたこともありましたが、プロジェクトについて一番わかっているのは担当メンバーなので、任せたほうがいいんです。

HIP:ものすごく勇気が必要とされるマネジメントだと思うのですが、怖くはないですか?

津田:まったくないわけではありませんが(笑)、あくまでも「出島」なので、万が一失敗したとしても、ビジネスとして会社に大きな影響を与えるレベルではありません。

DD-Labは、「こういうことをやればいいのでは?」というPoC(Proof of Concept=概念実証)までを担当する部署として位置づけています。その先の実用化に向けて動くときは、DD-Labだけでなく、全社を巻き込むようにしているんです。

HIP:メンバーの仕事を進め方について、どのように把握して、サポートしているのでしょうか。

津田:基本的なスタンスとして、担当者がやりたいことをやってもらっているのですが、企画が固まる前の段階で、やりたいことが何かをメンバーと共有するようにしています。その際はなるべく一枚の紙にイラストで書いてくれと言っています。また、担当者があきらめなければ、私からプロジェクトを終了させることもありません。

HIP:「新しいアイデアを自分で見つけて」、その後もかなりの裁量を持って自由に働けるDD-Labの仕組みに戸惑うメンバーはいませんか?

津田:ANAで同じようなやり方で仕事をしている部署はないので、違和感を覚える人はいると思います。ただ、いまのところ、DD-Labに合いそうなメンバーに来てもらっているので、大きな問題は起こっていません。

もしマネジメントの立場で気づいたことがあれば、ちょっと軌道修正をかけてあげる程度です。実際に、航空業界とは一見縁のない農業のプロジェクトをやりたいといって取り組んでいるメンバーもいますが、それで良いと思っています。

ただ、メンバーそれぞれが個人事業主のようになってしまうので、いまどんな問題が起こっているのか、どういう解決策があるのか、どんなつながりを持っているのかなどを気軽にシェアし合える雰囲気はつくるようにしています。

理想的にはメンバーの担当プロジェクトが成就して、新しい会社や部署ができて、そこにその人が行く。そして、またDD-Labに新しいメンバーが入ってくるという循環が生まれたらいいなと思いますね。

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