INTERVIEW
非日常で積んだ経験を日常でも。旅行会社クラブツーリズムが進めるコミュニティ事業とは
井原優(クラブツーリズム株式会社 マーケティング本部 営業企画部) / 鈴木光希(クラブツーリズム株式会社 マーケティング本部営業企画部)

INFORMATION

2024.08.22
取材・執筆:中野慧 撮影:坂口愛弥(TABUN) 編集:HIP編集部、川谷恭平(CINRA)

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現在のビジネスシーンでは、シンプルに利益のみを追求するのではなく、事業を通じて社会課題を解決する「CSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)」型の事業が強く求められている。

そんな情勢のなかで、「旅」を起点にさまざまな共有価値の創造を目指すのがクラブツーリズムだ。「旅」のなかでつくられるコミュニティの力をどう活用し、他社と協業しながらどのように事業を推進しているのか。同社で新規事業開発を担当する井原優氏、鈴木光希氏の2人に聞いた。

クラブツーリズム株式会社 営業企画部 鈴木光希氏(左)、クラブツーリズム株式会社 営業企画部 井原優氏(右)

「旅」の会社から「コミュニティ」の会社へ

HIP編集部
(以下、HIP)
井原さん、鈴木さんはクラブツーリズムで地方創生などの新規事業開発を進めているそうですね。現在はどんなことに取り組んでいるのでしょうか?
井原優
(以下、井原)
代表的なものは2つあって、1つはテレビ東京のビジネス共創番組『田村淳のTaMaRiBa』(以下、『TaMaRiBa』)とのコラボレーションです。「東京から一番遠いまち」というキーワードを持つ島根県江津市を舞台に、地域が抱える課題の発見・解決を、われわれ含めた東京を中心とした域外企業で構成するアライアンスチームがサポートしています。番組を通じて多くのプロジェクトが生まれ、市内では無人駅舎や公園の活用プロジェクトなども進んでいますね。
もう1つは、2020年に埼玉県ふじみ野市にオープンした「イオンタウンふじみ野」にあるコミュニティスペース「cotokoto」の受託運営で、ここでは地域住民のコミュニティ育成に取り組んでいます。「cotokoto」は地域の交流拠点の一翼を担うべく、コミュニティを育み、趣味と学びを通して、地域とのつながりを感じられる空間として開設されました。さまざまな人が集まり「コト(体験)」が掛け合わさることで、これまでにない「豊かなコト」の創造を目指しています。
『田村淳のTaMaRiBa』(毎週日曜日深夜2時20分から放送中)
HIP
どちらも旅行会社が手がける事業としては非常にユニークだと感じます。こうした事業が生まれたきっかけは何だったのでしょうか?
井原
きっかけは、2020年以降の新型コロナウイルスの流行で旅行ビジネスが完全にストップしたことです。このときに大きな危機感を持ち、KDDIさんとともに「クラブツーリズムPASS」という月額会員制のオンラインコミュニティサービスを始めました。
これは写真、歴史、宇宙、街道、鉄道、グルメ、登山、自転車、マラソンなど、さまざまな趣味のテーマで動画コンテンツを提供し、自由に外出できない状況でも旅の楽しさを感じてもらうという顧客サービスという側面と、ビジネス面で言えば旅行外の新規事業開発として開始しました。
クラブツーリズムPASSの開始はコロナ禍の逆風を受けてのものでしたが、いま思えばもともと課題となっていたDX化を推進する機会になったと思います。
鈴木光希
(以下、鈴木)
クラブツーリズムのビジネスモデルは、ほかの旅行会社と大きく異なっていて、「コミュニティ」を軸としているんです。もともとクラブツーリズムは会社名のとおり、「大人のクラブ活動」のように旅を通じた仲間づくり」を特徴にしています。
同じ趣味や嗜好性がある人同士だと、知らない人同士で旅をして時間や体験をともにすると、自然とコミュニティが生まれていくんですよね。
コロナ禍以降の激動のなかであらためて、「われわれはこれまで、顧客視点で体験価値を高めながらコミュニティを盛り上げていくノウハウを蓄積してきたんだ」ということにあらためて気づいたんです。いまはそのノウハウを核に、弊社の強みとして新規事業開発に活かすことに取り組んでいます。

趣味活を楽しむ大人が集まる「クラブツーリズムPASS」(クラブツーリズム【公式】より)

自社のアセットを活かした事業創出

HIP
他社とのコラボレーションのためには「自社の持つアセットを転用する」という発想が不可欠だと思います。お二人はクラブツーリズムのアセットをどういうものだととらえていたのでしょうか。
井原
当社の持つ約700万人の顧客と、旅行業界のなかでも顧客満足度の高さだと思っています。ツアーでアンケートを必ずとりますし、何より社員が企画販売から添乗までを担い、直接お客さまの反応やニーズを汲み取ることでカスタマージャーニーを精緻に構築できています。
お客さまに旅を通じて「人生を豊かにする」気づきや発見をしてもらい、興味を深めて、リアルで体験し、仲間と共有することでその価値は何倍にもなる。そういった体験価値を感じていただけているのかな、と。
鈴木
当社の顧客属性としては、旅や趣味ごとに関心があり、時間・お金に余裕のあるアクティブシニア層が非常に多いです。
弊社は長年、国内外さまざまな添乗員つきのパッケージツアーから「テーマ旅行」と呼んでいる趣味に特化した旅行コミュニティの企画運営にまで携わってきたので、アクティブシニアの方々がふだん何を考え、どんなニーズを持っているか、コミュニティがどのようにして盛り上がっていくかというナレッジを蓄積できているんです。

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