INTERVIEW
非日常で積んだ経験を日常でも。旅行会社クラブツーリズムが進めるコミュニティ事業とは
井原優(クラブツーリズム株式会社 マーケティング本部 営業企画部) / 鈴木光希(クラブツーリズム株式会社 マーケティング本部営業企画部)

INFORMATION

2024.08.22
取材・執筆:中野慧 撮影:坂口愛弥(TABUN) 編集:HIP編集部、川谷恭平(CINRA)

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「非日常」のノウハウを「日常」に転用する

HIP
代表例で挙げていただいたプロジェクトでは具体的にどのような取り組みを行なっているのでしょう?
鈴木
『TaMaRiBa』では、番組視聴者や実際に江津に訪れた人が直接、地域の魅力発信に関わることができる仕組み——具体的には江津市の公式ツアーに参加することで市認定の観光大使のようなステータスを付与する仕組みをつくりました。
趣味の旅の講師や添乗員を育成したり、自身の住んでいる地域の魅力を再発見してガイドするような仕組みなど、より主体的にコミュニティ活動に参加できる仕組みを整備してきた経緯があります。江津ではそのノウハウも活かせているかなと。
ユーザーとクラブツーリズムのあいだでファンコミュニティのような共創が生まれる「クラブツーリズムキャスト」という活動も実施
HIP
「旅」という非日常での体験価値向上のノウハウを、今度は「地域コミュニティ」という日常のシーンに応用していこうという試みなんですね。イオンタウンふじみ野で取り組んでいる「cotokoto」も、それと似た発想が根底にあるのでしょうか。
井原
地域コミュニティを盛り上げる触媒の重要なポイントは、「共通のテーマ」を設定することです。地域に暮らす方々が関心のある共通のテーマを用いて人とつながり、仲間とともに深堀りして学び、興味を高めていくことがコミュニティ活性化につながります。
「cotokoto」では子育て世代やシニア世代に向けた学びの講座、料理教室、国際交流、健康などさまざまな講座を開催していますが、そこではクラブツーリズムが培ってきたテーマのあるコミュニティ運営のノウハウが大いに活かされていると思います。
イオンタウンが主体となり創設したコミュニケーションスペース「cotokoto」。イオンタウンふじみ野に設置されているコミュニケーションスペース「cotokoto(コトコト)」は、暮らしや学びにまつわるイベントや趣味を深める場、仕事場としても利用できる
HIP
「cotokoto」の機能は、地域の公民館が果たしていたものと近いですよね。行政ではなく民間が取り組むことにも、やはり意義があるわけですか。
井原
公民館には明確な目的がなければ行く機会は少ないかもしれませんが、イオンタウンであれば日常の買い物のために頻繁に訪れますよね。日常的なインフラのなかに、コミュニティへの接点が埋め込まれていることが重要なのかなと思います。
鈴木
行政は立場上、ハード事業をつくることは得意だけれど、コンテンツづくりを含めてソフトマネジメントを主体的にやることはあまり得意ではないのかなと。
公民館はあっても、中身のコンテンツづくりやコミュニティマネージメントは難しい。行政には人ルールや予算面での制約もありますからね。そういう状況下では、われわれのような民間事業者のほうがやれる範囲が大きいですし、やる必然性もあると思います。

これからは「コミュニティマネージメント」が重要になる

HIP
お二人ともに、社会課題解決を念頭に置いた事業開発を実践されているなと思いました。こうしたプロジェクトの背景には、どのような考えがあるのでしょうか。
鈴木
私は長く現場でコミュニティ運営に携わるなかで、弊社の顧客であるアクティブシニア層の方々が抱える課題を感じたことがきっかけでした。
たとえば、シニア層はリタイアメントして時間の余裕ができた方が多く、実際に時間ができたものの、熱中できることがなかなか見つからない方、挑戦してみたいが一歩踏み出すキッカケを探しているような方がいます。そういった方々の話を現場で聞く機会が多々ありました。ほかにも、デジタルリテラシーがあまり高くない方や健康に不安がある方の話も。
これらは全国各地の地域でも起きている課題なので、一緒に事業に関わりながら解決していくことができれば、地域貢献や弊社の社会的価値向上につながると思ったのです。こうした考えがいまの事業開発の発想につながっています。
井原
「cotokoto」も同様に、商業施設ではあるけれども、地域と調和しながら発展していく必要があります。イオンタウンさんからcotokotoににぎわいがつくれていないという課題を相談されたときに、われわれのコミュニティ育成のノウハウは大いに役立てると感じました。
鈴木
これまでやってきて感じたのは、コミュニティマネージャーがいなければコミュニティは回っていきづらい、ということです。「コミュニティマネージャーの機能をデジタルで代替できないか?」と試行錯誤した時期もありましたが、やはり人でなければ難しいことが多い。
HIP
そもそも「コミュニティを盛り上げていくためには、コミュニティマネージャーが必要だ」という認識は、あまり一般的ではないかもしれないですね。
鈴木
そうですよね。われわれはたまたまそれをやってきてナレッジ化できているので、それが会社の強みとして大きいと思います。
井原
クラブツーリズムが培ってきたコミュニティ活性化のノウハウは、旅行という非日常以外の、日常のシーンでも大いに活用できると考えていますね。

「遊軍」的に働くことで熱量が生まれる

HIP
実際のアライアンスはどのように進めていったのでしょうか。
井原
当社の営業企画部が入居しているインキュベーションセンターARCHでの出会いやご紹介を通じて、他社の皆さんとさまざまなアライアンス関係を結んでいます。うまくいったプロジェクトもあれば、そうではないものも当然ありますが、いまこうしてかたちになってきたのは、試行回数の多さも大きかったと思いますね。
ARCHにいると情報がたくさん集まって、ネットワークもできるんです。僕たちが別の場所で仕入れてきた情報やネットワークをここで共有して、別の方のアイデアと混ぜ合わせていくことで、しだいにかたちになっていく。
HIP
やはり試行回数が多いからこそ、精度が高まってくるのですね。他社にアライアンスを提案する際に、心がけていたことは何かあるのでしょうか。
鈴木
まず1つは、当たり前に聞こえるかもしれませんが、「仮説を持って、アウトプットをイメージしてから話しに行く」ということです。「この企業とは、こういうかたちで組めそう」という見通しを持ち、「最終的にこういうアウトプットが出せるかも」と仮説を立てる。私たちもいろいろな企業さんからお声がけをいただきますが、「とりあえず会って話してみましょう」という方は意外と多いんですよね。
HIP
「とりあえず会って話してみよう」では、やはりうまくいかないと。
鈴木
お互いが仮説を持ち、アウトプットまでイメージした状態だとバチッとハマることが多い印象です。ただそれには、タイミングも重要ですね。
江津の場合は、もともと「東京から一番遠いまち」というキャッチコピーがあり「東京の人たちと何かできたら面白そうだな」と考えていたんです。そんなタイミングで、ARCHでテレビ東京さんと知り合い、「TaMaRiBa」が始まるという話を聞きました。担当者の方も「江津、いいじゃん!」と乗ってくださり、あれよあれよという間にプロジェクトが進んでいきました。
井原
タイミングに加えて、やっぱり「熱量」も重要だと思います。個人的な考えですが、熱量はその人が会社に依存しておらず、ある程度の自由さを持っているからこそ生まれてくるんじゃないかと考えているんですね。私や鈴木もそうで、われわれはいわば「遊軍」のように働いています。
「会社から言われたから新規事業をやらなきゃ」ではなく、「自分の興味があることを、会社を使って実現してやろう」というマインドセットを持つことが必要になるかと。
鈴木
井原の言ったことを私の言葉で言い換えると、「とりあえず話してみよう」ではなく「やってみよう」というマインドで進めていく、ということですね。仮説を持ち、アウトプットがイメージできていれば「やってみよう」というマインドが生まれる。新規事業開発というと何やら難しそうですが、そのマインドセットを1つ持っているだけで大きく違ってくるんじゃないかな、と思います。

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Profile

プロフィール

井原優(クラブツーリズム株式会社 マーケティング本部 営業企画部)

1979年生まれ。2004年に近畿日本ツーリストに入社し、10年にわたり団体旅行営業に従事。その後、社長直轄の未来創造室にて新規事業開発を担当後、2020年7月からグループ会社のクラブツーリズムに出向しアライアンスビジネスを軸にした事業開発に携わる。

鈴木光希(クラブツーリズム株式会社 マーケティング本部営業企画部)

1987年生まれ。2009年にクラブツーリズムに入社し、約7年にわたりコミュニティ運営を中心としたテーマ旅行に従事。その後、2017年頃から社内の対外営業部署にてアライアンスを通じたシニアマーケティング業務を担当。その後テレビ東京と連携した通販型旅番組の立ち上げや中央省庁・地方自治体と連携した地域活性のプロデュース事業にも従事。

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