INTERVIEW
アート業界に寄り添う姿勢で。エイベックス「MEET YOUR ART」誕生の裏側
加藤信介(エイベックス・ビジネス・ディベロップメント代表取締役社長、エイベックス株式会社執行役員)

INFORMATION

2022.05.09

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エイベックス・グループの新規事業開発を担う、エイベックス・ビジネス・ディベロップメント株式会社。同社はグループの強みを活かした、リアルとバーチャルを横断したクリエイター領域におけるIPと事業の開発から、旅行や音声合成事業に至るまでさまざまな事業を創出している。そして、2020年12月よりアート領域における新規事業「MEET YOUR ART」を始動させた。

「MEET YOUR ART」では、「アートと出会う」をコンセプトとしたアートのYouTubeチャンネルやオンラインショップを展開しており、今年5月にはアートとカルチャーの祭典『MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 'New Soil'』を開催。事業立ち上げから急速に活動の幅を広げている。

音楽を中心としたエンタテインメント事業を展開するエイベックスが、なぜアート業界への参入を決めたのか。事業立ち上げまでの道のりや、スピーディーに事業開発を実現できたポイント、今後の展望まで、エイベックス・ビジネス・ディベロップメント代表取締役社長の加藤信介氏からお話をうかがった。


文:サナダユキタカ 写真:玉村敬太

以前から視野に入れていたアート業界。音楽で培ったマネジメントを活かし参入

HIP編集部(以下、HIP):YouTubeチャンネル『MEET YOUR ART』は2020年12月にスタートしました。番組のMCを担当する森山未來さんやアーティストをはじめ、著名なゲストが登場するなど話題を呼んでいます。なぜエイベックスがアートという新たな領域に乗り出したのか教えてください。

加藤信介(以下、加藤):まず、アートという領域に関しては、私たちがこれまでやってきた音楽と同じ、エンタテインメントに含まれると考えています。そのため、飛び地での新規事業という考えではなく、あくまでエイベックスが取り組む意味のある領域だというのが大前提です。

「アートと出会う」がコンセプトの『MEET YOUR ART』
エイベックス・ビジネス・ディベロップメント代表取締役社長、エイベックス株式会社執行役員の加藤信介氏

加藤:私たちは「誰かを人気者にする」「その才能を最大化させる」ことをずっとやってきた会社です。いままではその知見を音楽中心に使っていましたが、アートに関わるアーティストにもその力を活かせると考えました。

アートは注目されている領域にも関わらず、音楽業界よりも個にスポットライトがあたる機会が限りなく少ない。そんな状態だからこそ私たちの強みを活かして、アート業界の既存の方法とは異なるやり方で価値貢献を行ないながら事業成長ができるのではないかと思っています。

さらに、アートはエイベックスに所属するミュージシャンやおつき合いのあるクライアントやパートナー企業と非常に相性が良くて、色々なシナジーが見込める。そうした狙いもあり、アート領域に進出するという意思決定をしました。

HIP:社内からの反応はいかがでしたか。

加藤:既存事業へのシナジーが見込めるという前提がありましたので、取り組み自体は違和感なく受け入れられたと考えています。

目標はアート業界No.1の動画メディア。若手アーティスト支援と情報発信の中心に

HIP:アートは既存事業と関連性があるとはいえ、新たな領域ということもあり、準備は慎重に進めていったのでしょうか。

加藤:アート領域にはポテンシャルがあると思っていたので、以前から参入を検討していました。しかし、エイベックスにはアートの専門家がいないので、このまま飛び込んでも成功の確率が低い。

なので、まずはいくつかのアーティストと組み、PoC(概念実証)を2020年の頭から半年くらい行なって勘所を探りながら、体制を整えつつ、現在のアート事業「MEET YOUR ART」の構想を、同年夏に企画書に落とし込み、事業化を進めました。

HIP:PoC開始から1年もかけずに「MEET YOUR ART」を立ち上げたのですね。エイベックスがアート領域に参入するというのはインパクトがあったかと思います。ギャラリーやアーティスト、メディアなど既存のプレイヤーからの反応はいかがでしたか。

加藤:正直、賛否両論あったと思います。でもアートと音楽を比べたときに、アートは圧倒的に露出メディアが少ないのが現状です。音楽の場合は、マスメディア、WEBメディア、音楽配信サービス、SNSなどのデジタルマーケティングも整っています。一方でアートは、専門メディアを含む発信チャネルが非常に限定的。

優秀なアーティストが美大から毎年輩出されているのにもかかわらず、アートだけで食べていける人はほんのひと握りで、数年後には業界から姿を消してしまう人もいます。こうした現状を踏まえ、私たちはメディアを中心としながら、才能ある若手をプライマリの領域でピックアップして彼らの活動を発信していきたい。このビジョンに関しては一定共感して頂けたと考えています。

おかげさまでアート業界の中でもMEET YOUR ARTの知名度が少しずつ上がってきていますので、このまま「アートの動画メディアといったら『MEET YOUR ART』だよね」というポジショニングを確立させ、アート業界におけるNo.1動画メディアを目指したいと思っています。

業界を破壊するディスラプターではない。既存の「トンマナ」を守り、可能性を開く

HIP:既存のアート業界とはどのようなバランスで向き合っているのでしょうか?

加藤:私たちは既存のやり方に捉われずにアートの市場を広げていこうという思いで事業を推進していますが、だからといって、既存の取り組みを否定するものではありません。

いままでの業界の「トーン&マナー」を大事にしながら、エイベックスだからこそできる価値を加えていく。既存の価値観などを破壊して変革を進める「ディスラプター」ではなく、リスペクトを持ってアートマーケットに寄り添い、事業展開しています。

HIP:そうした考えのもとに、「MEET YOUR ART」のYouTubeチャンネルなどで定期的にアートに関する情報を発信していると。

加藤:音楽業界で動画メディアは一般的ですが、アートの世界で動画メディアを持つというのは、意外に新しい試みです。動画メディアを中心に据えながら、アートに触れる機会になるリアルイベントを実施したり、気軽な作品の購入のきっかけになるECを運用したりする。これは一見シンプルなやり方かもしれませんが、我々がアート業界のど真ん中から出てきたプレイヤーではないからこそできるアプローチなのではないでしょうか。

事業開発は自社の強みと人材の強みのかけ合わせ。積極的に飛び込む勇気が大事

HIP:「MEET YOUR ART」のように、既存事業ではない領域で事業を立ち上げるためのポイントはどこにありますか。

加藤:そもそも、事業開発においてはまずは自社の強みと、新事業組織にいる人材の強みがどこにあるかをベースにして領域の優先順位を決めることが重要だと思います。当たり前ですが、自社の強みとノウハウを生かせる領域の方が成功確率は高くて、未経験の領域に未経験のチームで飛び込んでいくのは成功確率が低い。

だから自社の強みを生かせる領域にまずは積極的に飛び込んでいきながら、「ここは飛び地だけど任せられる人材がいるから行こう!」とか、「どうなるかわからない事業だけれども、想いを持っているスタッフがいるから一定の枠内で自由に動いてもらおう!」とか、自分なりのロジックと担保を持ちながら領域を広げています。

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