AshiraseとHondaの「良い距離感」。そこから生まれたスタートアップの覚悟
HIP:2021年4月に起業し、約1年が経過しました。考え方に変化などはありましたか。
千野:起業前と今とでは「プロダクトを出したい」というマインドから「社会を変えていく」というマインドに変わってきました。本当の意味で事業に真剣に取り組み始めたのも、起業してからだと思います。大企業であるHondaの出資によって、事業を展開することというメリットがありますが、距離感はとても重要だと思っています。
大企業の資本がどれだけ入っているのか、起業しても経営層の給与が出資元である大企業から出ているのか。そうしたスタートアップの「覚悟」のような部分まで、投資家は見ています。そういった意味でも、フォロー投資家として入るというHondaの今回の距離感というのは、とてもやりやすさを感じています。
羽根田:Hondaも最大でも出資比率を20%未満に抑えて、VCの投資が必須となる仕組みでやっています。先ほど千野もいっていたように経営や事業に柔軟性がもてるほかVCからの外部評価も得られるため、HondaとAshiraseとの関係は良い距離感でできているのではないでしょうか。伴走者である私も、最適な形で起業できるよう多くの試行錯誤を重ねましたね。
HIP:Ashiraseの今後の展望を教えてください。
千野:まずは視覚障がい者の市場でしっかりとビジネスを作って行きたいです。今までの仕組みにどのように新しい製品を投入して行くのか、どうやったら市場を広げられるビジネスモデルを作れるのか必死に考えていきます。
一方で、視覚障がい者へのサービスにこだわり過ぎて、発展のチャンスを逃すつもりもありません。技術・プロダクトのシーズは見つつ、サービスがうまくいったら広げる。逆に停滞しているようだったら、別の分野で勝負するといった検討も必要になってくるでしょう。もちろん、「人の豊かさを“歩く”で創る」というミッションはブラさず、より良い社会に貢献したいと思っています。
HondaがIGNITIONで目指すものとAshiraseへの期待
HIP:最後にあらためてHondaの新事業創出プログラム「IGNITION」についてお聞きしたいと思います。この取り組みが目指しているビジョンを教えてください。
羽根田:「IGNITION」を通じて、Hondaでより新しいチャレンジが増えれば大成功だと思っています。次の候補テーマもリアルテックファンドの永田さんのようなメンターについていただき、それぞれの担当者を鍛えてもらいながら進めています。こうして生まれた事業が、社会に変革をもたらすことに期待したいです。最近では徐々にですが成果も出てきており、投資家をはじめ他のスタートアップや大企業とのつながりも広がっています。こうした関係性をもとに、Hondaもスタートアップエコシステムに貢献していきたいですね。
HIP:Hondaが「IGNITION」を行うメリットはどこにあるでしょうか。
羽根田:Hondaのチャレンジングスピリットをさらに活性化すること、そしてスタートアップとしてゼロから会社を作ることによる、様々な契約交渉や、出資後のハンズオン支援などの経験・知識がHondaのベンチャー投資やM&Aの知見に生かされています。
HIP:「IGNITION」発のスタートアップ第1号であるAshiraseは、視覚障がい者をターゲットにした市場を狙っています。誤解を恐れずにいえば間口は決して広い市場ではありませんが、Hondaとしては今後、Ashiraseにどのような期待を寄せていますか?他の企業との連携による事業の広がりなども期待しているのでしょうか?
羽根田:「あしらせ」の技術をベースに街中でのナビゲーションといった広がりもあると思いますし、Hondaとの連携もあるかもしれません。しかし、個人的な考えではありますが、サービスの対象が広いと、事業がぼやけてしまう可能性があります。まずは、特定のユーザーが絶対に欲しいと思うものをつくる、つまりマーケットインによって初めて広がりを検討できるのだと思います。
また、Ashiraseを含めIGNITIONで進める事業全体としても、車やバイク以外のモビリティー分野に貢献できると考えています。Hondaのメイン事業では取り上げることができない、広義でのモビリティー分野への貢献です。多岐にわたる分野のアイデアが採択されますので、チームのポテンシャルと社会課題へのインパクトがあれば、どんなことでも挑戦できるプログラムです。多くの社員とともに、会社全体も変わるよう考えながらIGNITIONを進めていきます。