世界初、大企業の出島を集積。ARCHが目指す、新たなインキュベーションとは
伊佐山元(WiL共同創業者兼CEO) / 飛松健太郎(森ビル株式会社 オフィス事業部 企画推進部 ARCH企画運営室 室長)
2020.06.19

イノベーションを起こすために必要なのは、支える「人」と「出会い」

HIP:「ARCH」は、約3,800平方メートルのワンフロアにオープンスペースやカフェスペース、会議室、セミナールーム、オフィススペースなどを備えています。現在の機能に決まるまで、紆余曲折はありましたか?

飛松:「大企業を変えていきたい」という軸は変わりませんが、それをどういうかたちで実現するかという意味ではだいぶ変わりましたね。

企画当初の2014年から6年間で、日本人の働き方は変わりました。大きかったのはWeWorkの日本進出です。コワーキングスペースやインキュベーションセンターの増加にともなって働き方が多様化し、同時に「人が集まるだけでは何も生まれない」ということが実感値としてわかってきた。「ここにしかない、オンリーワンの機能をもっと入れるべきだな」と感じました。

伊佐山:ブレストをして仮説を立てて、ヒアリングして……と、トライ&エラーを繰り返しましたよね。当初は「グレードを高くすれば、いい人が集まるのでは」という浅はかな考えもありましたが、実際に聞くと「高すぎるから、WeWorkでいい」。スペックだけの施設では選ばれないことに気づき、付加価値としてメンターやCIOの制度を設けることになりました。

HIP:実際に見学させてもらうと、迷ってしまいそうな複雑なレイアウトになっていますね。ハード面では、どういったこだわりがあるのでしょうか?

飛松:「ARCH」はあえて迷路のようなつくりにしているんですよ。当初は会議室、コワーキングスペース、オフィスなど、機能ごとにゾーンを分ける案もありましたが、ある若手メンバーから「偶然の出会いを演出したほうがいいのでは?」という提案があったんです。

あえて無造作にスペースを配置することで、目的地に行く途中でほかの利用者との「偶然の出会い」が起き、ちょっとした立ち話から何かが生まれるかもしれない。「ARCH」内にはWiLのオフィスがありますが、もっとも奥まったところに配置したのもその理由からです。WiLのスタッフがオフィスに向かうあいだにも、いろいろな人との出会いがあるでしょう。

またカフェ&バーは、誰でも利用できるようになっています。イノベーションを閉じ込めるのではなく、そのエッセンスを外部にも染み出させたい。それに、大企業の新規事業担当者と会いたいスタートアップや学生が訪れ、交流が生まれたりしても面白いと思います。

伊佐山:和室のミーティングルームもありますね。「こんな部屋、ビジネスでは使わない」と思われるかもしれませんが、実際に運営してみたら意外な効果が生まれるかもしれない。普通のオフィスにはないような空間が多くあるので、入居している人がどういう行動を取るかを見守っていきたいです。

飛松:わざわざ移動コストをかけて「ARCH」という「出島」に来てもらうためには、通常のオフィスでは味わえない体験を提供しなくてはいけません。森ビルが運営するからには、「さすが」と感心されるようなものにしたかった。渋谷でも六本木でも丸の内でもない、虎ノ門ならではの「大人のアジト」を目指しました。

伊佐山:オープンはしましたが、いまあるものが唯一の正解ではありません。向こう1年くらいは試行錯誤を重ね、いろいろな発見をもとにコンテンツやフロアの特徴を柔軟に変えていこうと考えています。

「ARCH」から、日本型イノベーションのオリジナルスタイルを生み出したい

HIP:ARCHという「場に集まること」で新たな結合が次々と生まれそうですね。しかし、新型コロナウイルスの影響による外出自粛やリモートワークが推進されているなかで、率直に逆境は感じないのでしょうか?

飛松:たしかに構想した当初は、イノベーションが起きる「場づくり」をしようと思っていたので、新型コロナウイルスにより予定が根底から覆りました。ただ、立ち止まるわけにはいかないため、いくつかのプログラムをオンラインで実施してみたのです。

すると、インキュベーション施設にとって、オンラインプログラムは有用であることに気づけました。オンラインなら会場のキャパシティーも気にしなくて済みますし、移動にかかる時間やコストもなくなり、参加のハードルが低くなる。参加してほしい人に、参加してもらいやすくなるんです。人と人とが深く知り合うにはリアルな場、気軽に話し合うならオンラインなど、両方をうまく組み合わせることで、より協業を加速させることができると実感しました。いまは、ARCHに両面の仕組みを取り入れたいと思っています。

伊佐山:以前は、日本のイノベーターがシリコンバレーの起業家とつながりたいと思っても、出張して会いに行くのが普通でした。ですが、コロナ禍によって世界中のビジネスマンがオンラインを試すようになり、国内外の人と簡単につながることが可能になりました。この時流をポジティブに捉えることがカギになると思います。ダイバーシティーに富んだ意見や情報をオンラインで集めながら、ARCHに集まる会員企業同士でアクションを起こす。そういう流れをつくれたら良いですね。

HIP:それでは最後に、「ARCH」からどのようなイノベーションが生まれるか、期待していることを教えてください。

伊佐山:世の中の不確実性が高くなるほど、イノベーションが大切だと誰もがわかっているはず。しかしながら、日本の大企業は、改善を繰り返す持続的イノベーションを得意とする一方で、異質なものを組み合わせて新しい価値を生み出す破壊的イノベーションを苦手としていますよね。

ですが今後、インターネットというインフラを使い、さまざまな業種を横断して影響力を強めるGAFAのような企業はさらに存在感を増すでしょう。そんななか、縦割りの産業構造でビジネスをしてきた日本企業は、いずれ立ちゆかなくなるはず。そうならないためにも、閉じた会社や組織のなかで取り組むのではなく、リソースと知恵を持つ大企業同士が組んで、社会課題を解決する破壊的イノベーションを生み出してほしいのです。「ARCH」には、その場所として機能してほしいと思っています。

飛松:「ARCH」から生まれたサービスが、世の中をより便利にしたり、不便を解決したりするようになればいいですね。

正しいダイエットや肉体改造をするときに、フィットネスジムに通い、パーソナルトレーナーをつけることはいまや当たり前のカルチャーです。大企業発のイノベーションも同じこと。これからは、「ARCH」のような出島施設をうまく活用してもらい、異業種の人たちと同じ空間で刺激を受けながら働くことでイノベーションを生み出す、というスタイルを定着させたいと考えています。そのやり方が「ARCH式」として、日本型イノベーションのオリジナルになると嬉しいですね。

そしてゆくゆくは、「ARCH」がある虎ノ門エリアを「日本で何か新しいことをしたければ虎ノ門だ」と言われるようにしていきたいと思います。

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プロフィール

伊佐山元(WiL共同創業者兼CEO)

1997年日本興業銀行(当時)に入行。2001年よりスタンフォード大学ビジネススクールに留学。米大手ベンチャーキャピタルDCMのパートナーを経て、2013年にWiLを創業。日米を中心としたベンチャー企業の投資をはじめ、パートナー企業の新規事業創出、企業内起業家の育成支援を手掛けている。

飛松健太郎(森ビル株式会社 オフィス事業部 企画推進部 ARCH企画運営室 室長)

住宅メーカーの営業職を経て、2008年、森ビル株式会社に入社。オフィス事業部でスタートアップを主としたテナント誘致を担当したのち、2015年からはイノベーション創発領域における企画・運営・営業全般の活動に専従し、「ARCH」の開業に尽力する。

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